●さらなる「原因と結果の迷宮」
さらに「原因と結果の迷宮」に分け入らなければなりません。ヒュームは、「原因と結果」と理解される事象の特徴、すなわち恒常的連接が生じる前提として、「原因と結果は時空的に接近している」、そして「原因は結果に時間的に先行する」という2点を挙げています。
これは、それ自体を考えたときにはもっともなことだと思います。先ほど言ったのは、原因と結果は時間的・空間的に接近しているということです。時間的にもすぐだし、空間的にも文字通り同一の場所です。「原因は結果に時間的に先行する」、これも当たり前で、原因が先に起こらなければいけません。結果は後から起こります。ヒュームはこの2点を挙げているのですが、一見こういう自明な論点でも、問題が生じないわけではありません。
例えば、接近に関していうと、量子力学のEPR相関というものがあります。素粒子が崩壊して二つに分かれた後、一方に波束の収縮が起こると、宇宙の果てから果てまで離れた他方にも、一瞬でその波束の収縮の因果的作用が光速を超えた形で伝わります。これが、量子力学のEPR相関です。
アルベルト・アインシュタインやネイサン・ローゼンたちは、量子力学の考え方を前提にすると、EPR相関という矛盾が起こると言いました。アインシュタインは生涯にわたって量子力学に対して批判的で、いろいろな学会で「量子力学の考え方はおかしい」と言いました。「神はサイコロを振らない」というのがアインシュタインの信条でしたが、量子力学に従うと、世界の現象は本質的に確率的であるということになってしまいます。それはおかしいとアインシュタインは考えていました。つまり、宇宙の果てから果てまで、光速を超えた形で因果関係が伝わってしまうのはおかしいではないか、と考えたのです。
しかし、量子力学では反対に、「そういうこともあるんだ」と、むしろ認めてしまったわけです。つまり、非局所性という遠隔作用があることを認めたのです。これは、接近していなくても、原因と結果の関係が成立するということの一例です。
●原因と結果の時間的逆転(1)酋長の踊り
さらには時間的先行です。原因と結果で、原因の方が時間的に先行しているということに関しても、「逆向き因果の可能性」がしばしばいわれます。例えば、イギリスのオックスフォード大学の哲学者で、マイケル・ダメ...