原因と結果の迷宮~因果関係と哲学
この講義シリーズは第2話まで
登録不要で無料視聴できます!
第1話へ
▶ この講義を再生
この講義の続きはもちろん、
6,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
(会員の方に広告は表示されません)
不作為(◯◯しなかったこと)の原因は無限に拡散する
原因と結果の迷宮~因果関係と哲学(6)不在因果の問題
一ノ瀬正樹(東京大学名誉教授/武蔵野大学ウェルビーイング学部教授)
例えば、隣の家の花が枯れたとする。それは、隣の家に毎日親切に水をやっていた女性があるとき、旅に出て水をやらなかったせいなのか。一見何でもないようなこの問題には、原因と結果をめぐるとても重大な議論が潜んでいると、東京大学大学院人文社会系研究科教授・一ノ瀬正樹氏は指摘する。「◯◯しなかったこと」を出来事の原因にすると、実は論理上、原因はほぼ無限大に拡散してしまうのだ。(全8話中第6話)
時間:8分39秒
収録日:2016年12月15日
追加日:2017年3月18日
≪全文≫

●形而上学は「見えないもの」を探求する


 ここまで見てきたような諸問題性から言っても、原因と結果の迷宮性は明らかだと思います。そして、かつてヒュームによって指摘された「因果関係それ自体は観察されない」という性質にもう一度立ち返ってみれば、もっと迷宮の深みに落ち込んでいくのではないかと思います。

 それはどういうことか。これは今日の哲学における因果論の中でも、ホットな話題の一つです。もともと因果関係は、見えないものに対しては語られます。これまで言ってきたように、「テーブルをたたく」「音がする」、でも「テーブルをたたくことによって音がする」ということの、「ことによって」という因果関係は見えません。そうした「見えないもの」を扱うのが、因果関係の考察でした。

 少し話がそれますが、そういう「見えないものについて語る」分野は形而上学といわれます。形而上学とは、死後の問題や神の存在などについて語る領域のことです。実は因果性の問題も、哲学の世界では形而上学の問題として語られます。なぜかというと、見えないものだからです。見えないにもかかわらず、私たちの世界でそれを使ってしまっているものです。非常に不可思議なものです。

 哲学とは、ソクラテスが「無知の知」と言ったように、私たちが通常、自明だと思っていること、「当たり前だろう」と思っていることが、実は深く考え始めると、不可思議なことに満ち満ちていることに気付いてもらう試みのことです。ある意味では、それが哲学の真骨頂です。だから「たたくと音が出る」という当たり前のことの中にも、実はよく考え始めると、分かっていないことがいっぱいあります。このことを知ってほしいのです。そのことで、「絶対にこれが正しい」とか「自明である」ということが、いかにうつろなものであるかを理解してもらう。これが哲学の一つの目的です。


●「花が枯れた」のは「フローラの不作為」が原因か


 だとすると、「ないもの」に対して語られる場合、「ないもの」それ自体、もともと見えないものが因果関係だとすれば、その「ないもの」それ自体に対しても因果関係は語り得るのではないか。こういう発想が、当然出てくると思います。

 ここで出てくるのが、「不在因果の問題」です。omission involving causationともいいます。「不作為が関わっている因果」ということです。有名な例を出し...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
(会員の方に広告は表示されません)
「哲学と生き方」でまず見るべき講義シリーズ
プラトン『ソクラテスの弁明』を読む(1)真実の創作
プラトンの『ソクラテスの弁明』は謎多き作品
納富信留
AI時代と人間の再定義(1)AIは思考するのか
AIでは「思考の三位一体」が成立しない…考えるとは?
中島隆博
『「甘え」の構造』と現代日本(1)「甘え」のインパクト
「甘え」は現代においてダメなものなのか…名著『「甘え」の構造』への2種類の誤解とは?
與那覇潤
人生に活かす東洋思想(1)人生の成功とは何か
東洋思想の「徳」や「道」をわかりやすくいうと?
田口佳史
「自分をコントロールする力」の仕組み(1)自制心と目標の達成
自制心の重要性…人間は1日4時間も何かを「欲求」している
森口佑介
『還暦からの底力』に学ぶ人生100年時代の生き方(1)定年制は要らない
仕事をするのに「年齢」は関係ない…不幸を招く定年型思考
出口治明

人気の講義ランキングTOP10
伊福部昭で語る日本・西洋・近代(1)チェレプニン賞に輝いた無名の作曲家
映画『ゴジラ』の作曲家・伊福部昭が直面した「日本と東洋と西洋」そして「近代の超克」
片山杜秀
「良き対話」とは?――哲学から考える(1)対話とは何か――会話・説教との違い
「良き対話」のヒントを哲学から考える…「対話」の大前提とは、そして「会話」「説教」「場回し」とは何が違うのか?
納富信留
編集部ラジオ2026(38)アメリカ中間選挙と民主主義
【10min解説】第2期のトランプ大統領と中間選挙を考える
テンミニッツ・アカデミー編集部
「満洲」から考える日本とアジア(1)「満洲」を知る意義とは
「満洲史」はなぜ現代日本でタブー視されるのか?…王道楽土の夢とアヘンなどの裏面から見えてくる現代への教訓
宮脇淳子
ロシア人の見る「ロシアの歴史」(1)会ってみたプーチン…その実像
ロシア人の見る「ロシアの歴史」を知るとロシアがよくわかる・・・実際に会ってみたプーチンの印象とは?
上月豊久
教養としての「ユダヤ人の歴史とユダヤ教」(1)ユダヤ人とは誰のことか
ユダヤ人とは?なぜ差別?お金持ち?…『ユダヤ人の歴史』に学ぶ
鶴見太郎
生成AI「Round 2」への向き合い方(1)生成AI導入の現在地
生成AIの利活用に格差…世界の導入事情と日本の現状
渡辺宣彦
高齢者のフレイル・認知症とその予防対策(1)老年病科と高齢者の疾患・病態の特徴
頻尿、低栄養、転倒、誤嚥、フレイル…増える老年症候群と高齢者の疾患・病態の特徴
小川純人
小澤開作と満洲事変・日中戦争(1)少年時代の苦労と五族協和の夢
満洲で「五族協和」に命を懸けた小澤征爾の父・小澤開作
小澤俊夫
民主主義の本質(1)近代民主主義とキリスト教
なぜ民主主義が「最善」か…法の支配とキリスト教的背景
橋爪大三郎