原因と結果の迷宮~因果関係と哲学
この講義は登録不要無料視聴できます!
▶ 無料視聴する
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
「何々のせい」と物事の原因を確定するのは難しい
原因と結果の迷宮~因果関係と哲学(2)原因と責任の関係
一ノ瀬正樹(東京大学名誉教授/武蔵野大学人間科学部人間科学科教授)
原因と責任の関係は、わたしたちが考えているほど自明なものではない。東京大学大学院人文社会系研究科教授・一ノ瀬正樹氏によれば、「マッチを擦って火が付いた」現象ですら、文脈によっては「マッチを擦った」ことが発火の原因とは見なされない。何を原因とするかは、すぐれて制度や文脈に依存したものなのだ。(全8話中第2話)
時間:8分17秒
収録日:2016年12月15日
追加日:2017年2月18日
≪全文≫

●「原因」と「責任」は根っこでつながっている


 概念的にいっても、原因概念と責任概念の結び付きは、非常に根源的だといえます。ギリシャ語で「原因」を意味するのは、アイティア(aitia)という言葉です。今でも英語には「イーティオロジー」(aetiologyという言葉があります。病気の原因を探る医学の分野のことで、病因論などと訳します。アイティアは、「原因」という概念です。

 しかし実は、この言葉は同時に「責任」という概念も意味します。原因と責任は、実は同語なのです。これは何もギリシャ語に特有なことではありません。英語でも、例えば受験英語で「be responsible for」という熟語を習います。「何々に対して責任がある」という意味の「be responsible for」です。しかし「be responsible for」は、「何々が何々の原因である」という意味にもなります。

 他にも例えば、英語で「Heavy snow caused traffic jam」というと、「大雪が交通渋滞を引き起こした」となります。causedですから、それ(大雪)が原因となったという意味ですが、それと全く同じ意味で「Heavy snow was responsible for traffic jam」ともいえます。そういう言い方をしても、意味は全く同じです。結局、「大雪が交通渋滞を引き起こした」となります。

 日本語でも同じです。日本語にも、「原因と責任が同じだ」ということを示す表現があります。「何々のせい」という言葉です。「原因」あるいは「責任」と漢字で書いてしまうと、「何の関係があるのか」と思う方がいるかもしれませんが、「大雪のせいで交通渋滞が起こった」というと、不思議な感じは何もしませんし、不自然さもありません。

 しかし同時に、「せい」は責任をなすりつける表現としても使われます。サッカーの試合で負けたときに、口では言わなくても「あいつのせいで負けた」と心の中で思うことがあります。その場合は、責任をなすりつけているわけです。だから「せい」とは、原因と責任の両方を表します。


●原因と結果の関係は、単純ではない


 さらに責任とは、すぐれて制度依存的なものです。例えば、末端の社員や部下が何かミスをして会社に重大な損害もたらされてしまったとします。このとき、上司や社長が責任を負います。しかし実際には、社長はその出来事のとき、ヨーロッパに行っていて、全く何の関わりもなかったということがあり得ます。しかし...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「哲学と生き方」でまず見るべき講義シリーズ
「怒り」の仕組みと感情のコントロール(1)「キレる高齢者」の正体
「キレやすい」の正体とは?…ヒトの「怒り」の本質に迫る
川合伸幸
今こそ問うべき「人間にとっての教養」(1)なぜ本を読むことが教養なのか
『人間にとって教養とはなにか』に学ぶ教養と本の関係
橋爪大三郎
法隆寺は聖徳太子と共にあり(1)無条件の「和」の精神
聖徳太子が提唱した「和」と中国の「和」の大きな違いとは
大野玄妙
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(1)「スキーマ」問題と認知の仕組み
なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み
今井むつみ
禅とは何か~禅と仏教の心(1)アメリカの禅と日本の禅
自発性を重んじる――藤田一照師が禅と仏教の心を説く
藤田一照
「50歳からの勉強法」を学ぶ(1)大人の学びの心得三箇条
大人の学び・3つの心得=自由、世間が教科書、孤独を覚悟
童門冬二

人気の講義ランキングTOP10
「宇宙の創生」の仕組みと宇宙物理学の歴史(1)宇宙の階層構造
「宇宙の階層構造」誕生の謎に迫るのが宇宙物理学のテーマ
岡朋治
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(3)認知バイアスとの正しい向き合い方
知ってるつもり、過大評価…バイアス解決の鍵は「謙虚さ」
今井むつみ
歴史の探り方、活かし方(2)図書館「レファレンス」の活用
図書館の便利な活用法…全国の図書館からの「お取り寄せ」
中村彰彦
エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(2)量子論と空海密教の本質
脳内の量子的効果――ペンローズ=ハメロフ仮説とは
鎌田東二
内側から見たアメリカと日本(2)アメリカの大転換とトランプの誤解
偉大だったアメリカを全否定…世界が驚いたトランプの言動
島田晴雄
デカルトの感情論に学ぶ(2)感情をコントロールするには
恐怖をなくす方法と感情のコントロール…デカルトの考え方
津崎良典
編集部ラジオ2025(27)なぜ何回説明しても伝わらない?
なぜ伝わらない?理解の壁の正体を今井むつみ先生に学ぶ
テンミニッツ・アカデミー編集部
東洋の叡智に学ぶ経営の真髄(5)徳は孤ならず
敬天愛人…一人ひとりを大切にしながら宇宙を相手に生きる
田口佳史
徳と仏教の人生論(1)経営者の条件と50年間悩み続けた命題
宇宙の理法――松下幸之助からの命題が50年後に解けた理由
田口佳史
ChatGPT~AIと人間の未来(1)ChatGPTは何ができて、何ができないか
ChatGPTは考えてない?…「AIの回答」の本質とは
西垣通