●ロンドン五輪がもたらした、新たな情報公開のスタイル
ロンドンでやった例ですが、2012年のオリンピック・パラリンピックがきっかけになり、ロンドン市当局が、外国から訪れた人を対象に、競技場に行ってもらったりホテルに行ってもらったりするための情報サービスをやろうとしました。道路が混雑している所から、ロンドンの地下鉄の動的データまで、いろいろな情報を出しました。
例えば、どこがホームかとか、どうすればホームに出られるかといった情報を地図の上に出したり、車椅子の人がエレベーターに乗る場合はどこに行ったらいいのかを示したりするのは、スタティック(静的)なデータです。これに対して動的データというのは、電車が現在どこにいるのかといった運行データが、リアルタイムにどんどん来るようになることを言います。これは、ものすごく役に立ちます。
日本と違って特にロンドンなどは、電車が来るのか来ないのか分かりませんから、すごくいら立ちますね。日本の場合だと、時刻表通りに来ることが割と多いですが、日本でもバスを待つときには、交通の状況によって、もう出てしまったのか、まだ待っていれば来るのかといったことをやはり知りたくなりますよね。
そういう動的な交通情報が欲しくなるのですが、ロンドンはオリンピックの時に、思い切ってそういうものを全部オープンデータにしました。そして、それをいろいろな企業に公開します。さらにロンドン市自身も作ったデータもありますが、それよりももっと面白いのは、いろいろな人がそのデータを活用して、どうやったらロンドンの中を、外国から来た人が自由に移動できるのかを案内するソフトがたくさん公開されたことです。
●オープンデータは五輪のレガシーになった
この効果が非常に高かったということで、オープンデータもオリンピックの重要かつ貴重なレガシー、遺産になりました。今でも、多くの交通系アプリやサービスが、このオープンデータをもとに続々と生まれています。ロンドンは、最初の1年だけでも経済効果が25~98億円ぐらいあったではないかと言われています。とにかく、ものすごくいろいろな影響を与えたのではないかと思います。
これと同じことが、2016年にリオデジャネイロ(以下、リオ)でもありました。data.rioという形で、リオでもいろいろなデータが公開されています。もう交通だけではなく、歴史・行政・社会発展に関するデータ、さらには教育やエンターテインメント、スポーツ、税金、環境、産業、健康、交通、観光、都市計画など、あらゆるリオの市のデータが公開されています。
もちろん、交通の時刻表や、電車が今どこ動いているのかといった動的データも、全部オープンデータでリアルタイムに出ており、しかもそれらは無料です。こういうのはお金を取っているわけではなく、それを誰が使ってもいいという形で、2016年にもいろいろなイノベーションが起こりました。
また、そういうソフトウエアがたくさんできることを狙い、「オリンピック・シティ・トランスポーテーション・チャレンジ」という賞金付きのコンテストも行われて、盛り上がりました。東京もオリンピックを迎えますが、少なくとも「ロンドンとリオでやったこと以下じゃないか、これは」ということになると、非常にまずいのではないかと思います。
私も、東京に参入しているいろいろな交通会社やIT会社などと一緒に、共同で公共交通オープンデータ協議会というものを作り、何とかこれにロンドンやリオをしのぐような活動をしたいと思っています。
●オープンデータ化を進める日本の民間企業
このオープンデータ化は、最初は政府、そして地方自治体のデータをオープンにするということから始められますが、さらにその先を行くならば、民間企業もやはりオープンデータ化を進めるべきではないかと思っています。こういう話をしましたら、東京メトロの会長・社長をはじめとするトップの方々が、「面白い」と言ってくれました。そして、「東京メトロ・オープンデータ活用コンテスト」をやろうと思っているけれども、それに協力してくれないかという依頼が来ました。私は、東京メトロの10周年記念イベントに協力して、このメトロのデータのオープンデータ化に関して、いろいろなコンテストをやってみました。
賞金も付けた方が良いと進言して、200万円の賞金を付けてもらいました。また、こういうことのデータを見るためにはユーザー登録してくれないと困るということで登録システムを組みました。そこで非常に驚いたのは、わずか3カ月ほどの応募期間の間に、日本だけではなく全世界、アメリカ・イギリス・フランス・中国・台湾・ベトナム・オーストラリアといった国々のネットに関心のあるユーザーたちが2,200件も登録したことです。しかも、スマホや...