●経営は事前に設定された担当の枠を必ずはみ出していく
改めて、「センスがあるとはどういうことなのか」を考えてみたいと思います。重要なのは、社長や代表取締役といった肩書ではありません。経営者は「商売を丸ごと動かせる人」を言います。たとえ自分が会社の経営者であったとしても、実際に商売を回している人が社内に別にいるかもしれませんね。そういう人たちを念頭に置いていただきたいと思います。
第1に、センスの内容からして、センスは綜合に関わっています。分析がスキルだとすると、センスは綜合です。
例えば、私は飛行機は必ずエコノミーに乗ります。ビジネスクラスは少し高過ぎないでしょうか。先方が取ってくれるときは大喜びでビジネスに乗りますが、自腹は必ずエコノミーです。
エコノミークラスだと、ご飯はいつもカレーと照り焼きチキンの2種類ぐらいしかありません。時間になると乗務員の方が、どちらにするか聞いてくれます。私はカレーが食べたかったのですが、5列前でカレーがなくなってしまいました。そうすると、乗務員の方はプロですからちゃんと謝ってくれます。「ちょうどカレーがなくなりまして、照り焼きしかございませんが、よろしゅうございますか」と。3カ月後にも同じフライトに乗りましたら、今度は2列前でカレーがなくなってしまいました。再び乗務員の方が来て、プロとしてものすごく丁寧に謝ってくれます。
しかしこの乗務員の方は、いったい何回同じように謝ってきたのでしょうか。何百回も繰り返していれば、謝るスキルはどんどん良くなるでしょう。しかし、もしこの人にもう少し経営のセンスがあれば、そもそも発注ミックスが間違っていたことに気付くはずです。カレー7、照り焼き3にシフトして発注するかもしれません。あるいはもっと経営センスがあれば、ビジネスクラスではないのだから、乗客もご飯に期待していないだろうということで、カレーしか出さないようにするかもしれません。そうすれば注文を取る必要もないし、オペレーションは軽くなります。何よりも欠品がないのですから、むしろ満足度が上がるのではないかと考えるのではないでしょうか。
つまり、経営という仕事は、事前に設定された担当の枠を必ずはみ出していくものだということです。全体を全部自分が動かせるという意識を持って仕事ができる人でなければ、経営はできないでしょう。
●経営はジェネラリストによる綜合だ
では、全体を相手にするということはどういうことでしょうか。
簡単に考えて、プロフィット(P)、儲けを追うのが商売だとしましょう。経営戦略の分野では、お客さんが払いたくなる水準のことをWTP(willingness to pay)と呼びます。価値を感じて、お金を払いたくなる水準のことです。これは経営サイドからすれば、レベニュー(売り上げ)です。なぜ売り上げが立つのかといえば、お客さんが価値を感じて払いたくなるからです。それを捉えてWTPと言っています。当然、儲けを取るためにはコスト(C)がかかります。煎じ詰めればWTPからコストを差し引いたものが、儲け(P)ということです。
つまり、儲けを追うためには、3つに1つだということです。第1にWTPが上がる、第2にコストが下がる、第3にその両方です。全体を相手にしている人は、朝から晩まで一挙手一投足どれを取っても、この3つのどれかと明確につながっている人のことです。電話の一本、一回のメール、何かメモを取る、会議をする、人と会う、話をする、ご飯を食べる。何を取ってもその3つとつながっている人が、全体を相手にする人です。
こうした人はジェネラリストと呼ばれます。一般的に、ジェネラリストといえば専門性がない人のように矮小(わいしょう)化されていますが、とんでもない話です。ありていに言って、ジェネラリストとは大将のことです。それが綜合という力なのです。
ところがこれが担当者になりますと、例えば戦略をつくるということで、すぐに分析に飛び付きます。いろんなフレームワークが出てきて、やたらとSWOT分析などをしたがるわけです。よく大きな会社の経営企画部門に行くと、朝から晩までSWOT分析をしている人がいます。彼らは専門用語でSWOTTERと呼ばれています。
SWOTTERは担当者であって、本音は塗り絵をさせろということなのでしょう。つまりテンプレートがあって、それを渡すと作業ができるのです。強み・弱み・機会・脅威といったことは、経営でも戦略構想でもなく、単なる担当者の作業なのです。
そもそも、すでに存在しているのであれば分析できるでしょうが、これからつくっていこうとするものに分析はできません。綜合の後にしか、分析はあり得ないのです。
センスがある...