●中古車販売では2~3カ月しか在庫を持てない
見て見ぬふりをしている矛盾を直視するということも、優れた戦略が出てくるための条件として共通しているプロセスです。これが6つ目の条件になります。
中古車業界では、IDOMという社名になりましたが、ガリバーという会社があります。
スライドのような展示場で中古車が売られています。コンシューマーから車を買い、それを並べて売ります。売れた時にマージンを獲得するという、一見単純な商売です。ただし、どんな商売にも難しいところがあるわけで、大体2、3カ月しか在庫を持てません。というのも、中古車は生ものですから価値がどんどん下落していくのです。3カ月ぐらい置いておけば、不良在庫になってしまいます。
ところがさらに難しいのは、車は趣味嗜好のものですからマッチングが非常に困難なのです。モデルだけでも500モデルあり、色や走行距離、オプションも違います。ですから、必然的に展示場には100台以上あったほうがいいでしょうし、非常に大きな展示場でなければ、なかなかマッチングができません。腕の良い人が販売しても、並べた車の3割でも売れれば御の字らしいのです。つまり、売れると思って仕入れたものが売れず、その割合は7割にもなります。しかも在庫にしておけば、どんどん価値が下落していきます。
●中古車祭りといっていつもキャンペーンをしている
どうすればよいでしょうか。BtoBのオークション、中古車業者間のオークションがあります。ここでキャッシュに変えて、損切りをするようになっているのです。自分の所で全部を並べても、あまり買い取れませんから、BtoBのオークションからも引っ張ってくるのです。中古車業界は、このように動いています。BtoBとBtoCがお互いの問題を補完しているのです。
では、こうした商売をしている人は何を考えるでしょうか。当然ながら、中古車を並べる以上、それを売ることが一番大切です。売る力が必要です。皆、非常に売りたいのです。そのため、少し田舎に行けば、 「中古車祭り」といっていつもキャンペーンをしているのです。この業界を調べている時に、私はいろんな中古車屋さんと話しました。そこで聞いてみたのです。「冬の中古車祭りというけれど、少し前は秋の中古車祭りをやっていて、その前は夏の中古車祭り、春の中古車祭り、新春中古車祭りと、ずっとお祭りではないですか」と。つまり、彼らはすごく売りたいのです。中古車業界はこういった業界です。
一方で、オークションオペレーターの中には大きな会社があります。例えばUSSは東証一部上場企業です。中古車のオークション会場には、非常に多くのモニターが並んでいます。中古車がキャリアカーに乗せられて、週に1度ほどここに運ばれてくるのです。何千台、もしかすると何万台もありますが、実車を見てきているプロ同士ですから、中古車はモニターに出されるとすぐに落札されていきます。落札した車をキャリアカーに乗せ、そこに自分も乗って自分の会社に帰るわけです。
●IDOMは売る先をBtoBのオークションに変えた
さて、IDOM(旧ガリバー)が何をしたのかというと、コンシューマーから買うところは同じです。ところが、原則的に中古車を並べず、次のオークションに出してしまうのです。週に1回ぐらいオークションがあるので、在庫は1週間です。これを買い取り専門と呼んでいるわけです。もちろん本当に買い取り専門であれば、すぐに倒産します。買い取るたびにキャッシュが出ていくからです。しかし、これは、買い取った車を売る先がBtoBのオークションであるという非常に単純な話です。
これが何故もうかったのかというと、当たり前のことです。お店や展示場は要らず、営業マンも要りません。カーセンサーに広告を出したり、旗を立てる必要もありません。プロモーションとして中古車祭りをしないとなるとコストが下がります。そして何より、リスクが削減されます。
これまで販売側としての勝率は3割程度です。勝てると思って中古車を並べて、勝率3割のじゃんけんをしているようなものでした。IDOM(旧ガリバー)はそれを、後出しじゃんけんに変えてしまったのです。BtoBのオークションは、プロ同士ですから、相場は完全にオープンマーケットで決まっています。例えば、このVitzは次のオークションで50万円であれば、確実に落札されるだろうということが分かるわけです。その上で40万円で買い取るという、こういう商売になっています。
●業界の矛盾を直視できる人こそセンスがある
つまり、コストが下がり、リスクからも解放されたわけです。この方法が良いに決まっているのですが...