●眠れないと、病院よりも寝酒を選ぶ日本人
今回は、睡眠と生活習慣を取り上げ、皆さんに気を付けていただきたいことについて、お話をしたいと思っています。
不眠が起きたときの対応を調べた各国の調査があります。日本は、不眠のときに「医療機関を受診」する人が極めて低く、特異的といえるほどです。では、日本人はどのような対応をするのか。「アルコールを飲む」がトップになっています。医療機関に行かずにお酒を飲んで紛らわすという日本人の特性が、この調査に出ています。
これではどうなのかということになります。不眠対策として寝酒は、どのように考えられるのでしょうか。
気分が少しリラックスする程度、日本酒でいえば1合までならば、まあまあ良いでしょう。しかし、「起きていられない」ほどの量というと、日本酒でいえば4合以上になります。このぐらいになると寝付きはしますが、アルコールは割に早く分解されて熱を発し、体温が上がります。体温が上がるのは「起きろ」というサインですから、睡眠の途中で体温が上がると起きてしまいます。起きない場合でも、眠りが浅くなります。
また、後ほどお話ししますが、「睡眠時無呼吸症候群」が悪化します。睡眠薬代わりのお酒の効果によって体の筋肉がリラックスするといえばいいのですが、首の辺りの筋肉の緊張が落ちて、気道をふさいでしまうからです。
何よりも、最初のうちは4合で眠れた方が、慣れるとだんだん効きが悪くなって量が増えるようになり、結果的に寝酒が不眠を悪化させてしまいます。また、このような「頻回飲酒」をされているサラリーマンの方は、うつ病のリスクファクターであることが私どものかつての研究に出ています。その時点で気を付けた方がいいだろうと思います。
●眠るための三つの仕組み、どれが破綻してもNG
睡眠の調節機構が三つあることは最初に申し上げましたが、それについて簡単に説明したいと思います。
1番目ですが、われわれのリズムの機構は、「眠る時間になったら眠る」というようにできています。人間は昼行性動物ですから、「夜になったら眠る」というようにできているはずです。ただし、もともとの睡眠と覚醒のリズムは24時間ではありません。本来は25時間なのを、(光などを利用し、)やや無理をして24時間にしているため、そこに落とし穴といえる問題が生じます。
2番目は「疲れたら眠る」ということです。したがって、昼間に身体的な活動により疲れないと眠らないということにもなります。
3番目は「危険なときは眠らない」ですが、これは覚醒系の働きです。ということは、「危険だと思う=不安」になれば眠れないということも起こります。
これらの三つがどのようにも破綻しても不眠が起こることになります。これらを踏まえて、生活習慣を整える必要があります。
●25時間以上の生体リズムを24時間に同調させる
われわれの睡眠と覚醒のリズムが「24でない」のは、第2次世界大戦の後にドイツ等で行われた研究で分かりました。防空壕の跡地を使うことで光の環境を変えず、時計もなく、自由に寝て起きてみてもらう実験をしたものです。すると、普段は24時間で「眠る・起きる」のリズムを取っていた人が、25~26(25.3)時間のリズムを示すようになってくるのです。
25~26時間になるということは、毎日1~2時間、睡眠時間が後ろにずれることになります。いってみれば、毎日「遅寝・遅起き」になるのが、われわれのもともとの「さが」なのですね。
25~26時間の周期を24時間にするためには、さまざまな要素があります。まず光と暗さ、それから活動と休止、食事のタイミングです。それからもう一つ、人間が割とよく使っているのは、他の人と一緒に交流することです。これは昼間に行うので、睡眠は夜にもっていくことになります。他の人と「同調する」といってもいいでしょう。すなわち、家からまったく出ず、光も浴びず、食べたいときに食べて、誰とも会わない生活では24時間周期にはならないのです。
25時間であることのもう一つのポイントとして、普段0時に就寝している人が最も眠りやすいのは何時ぐらいかを調べたグラフがあります。
この実験は、20分間ベッドで過ごして何分寝たかを測ったもので、日大の内山真先生が日本人を対象にして、かつて行われたものです。0時よりも少し後、やや遅寝のところで一番よく眠れる結果が出ました。逆にいうと、0時より前の、およそ2~3時間の時間帯は、非常に寝付きにくい。要...