●実は、米中のインテリジェンスの力は、中国が優位にある
中西 (トランプ政権によって始まった中国封じ込め戦略が、アメリカにとって不利になる条件の)三つ目は、インテリジェンスの力の格差です。米中のインテリジェンス格差は歴然としていて、中国が優位です。とりわけ技術的な情報収集手段は確かにアメリカも優れています。ファーウェイをめぐる問題でも、スパイチップがどうのこうのとか、スマートフォンの部品の中に不必要なものがあるとか、いろいろ議論していますけれども、その議論をする前にはっきりしているのは、こういう話を10年以上前から聞いていたということです。
ファーウェイなどにはスパイチップが入っていると、アメリカの人は日本にいてもそればっかり言っているわけです。ロシア人も言っていました。だから本当にそうだったのかもしれませんが、いずれにしてもはっきりいえるのは、21世紀の世界は情報戦争によって大国の戦いの勝敗が決まるということです。
●21世紀は情報戦争の時代である
中西 20世紀の前半は実際の戦争の時代です。戦場で戦車や飛行機が飛び交って、そのドンパチで勝敗を決める実戦の時代でした。20世紀の後半は抑止戦争の時代だったわけです。抑止戦に敗れたソ連は自壊崩壊したわけです。
21世紀はインテリジェンス、広い意味での情報戦争の時代です。ですから、ハイブリッド・ウォー、政治戦争、フェイクニュースといった言葉が飛び交っていますけれども、そういう戦いの時代でも、決定的に大国の優劣を決めるのはヒューマン・インテリジェンス、ヒューミントだと私は思います。
●通信傍受の情報戦で、アメリカは圧倒的に優位だった
中西 相手の陣営の奥深くに人間のスパイが入り込んで、最高指導部の決定を左右する力を持ったインテリジェンスパワーは、互角の超大国同士の対立になればなるほど力を発揮します。
そこまでいわなくても、近年のアメリカのインテリジェンスの力は、本当に中国に対して心もとない状態が劇的に続いています。
もちろんアメリカは技術的に第二次大戦からずっと続いている電子情報の優位があります。一つはエシュロン(通信傍受システム)ですが、2014年に、例のエドワード・スノーデン事件で有名になったPRISM(プリズム)作戦などもそうです。「PRISM」という世界中の電話やファックス、インターネット通信を全部アメリカが傍受してスーパー・コンピューターに全ての送受信をストックしているわけです。それだけでは意味がありませんから、それを検索するエンジンを開発して、その中には非常に効果的な「XKeyscore」という引き出しの検索手段を持っています。
ですから、例えば誰かがどこかの国で「中西輝政」と打ち込むと、私が何カ月か前にどこかで何かメールを出したとか、電話で話したとかいうことを全部、アメリカのニューメキシコにあるスーパー・コンピューターの一大基地の中に、取り出せるだけの情報が入っていれば、アメリカ人であろうと誰でもアクセスできる人ならすぐにそれを見ることができるわけです。その能力がアメリカにはあるという話を、エドワード・スノーデン氏は、平たくいうと暴露したわけです。それをPRISM作戦と呼んでいます。
最近は、さらに進んで、洗練された形になっています。それはアメリカの優位なのですが、さかのぼると、アメリカの最高指導部に、特に今のトランプ政権でもロシア疑惑が問題になるように、人間のスパイが近づいて工作をするということになったら、どうなるのでしょう。
実は旧ソ連のクレムリンの中も、旧ソ連との冷戦でいかにイギリスが貢献したかということです。イギリスから情報は出ませんけれども、アメリカのCIAと互角なぐらい、クレムリンの最上層部にイギリスの情報源があったのです。情報源とは要するに、スパイです。政治局員、あるいはそれ以上のレベルにありました。
●だが、中国のハッカー技術の向上で、バランス・オブ・パワーが激変した
中西 アメリカも今、イギリスとアメリカが一緒になって中国共産党の中央段階の中に、たくさんの情報端末、つまりはスパイを持っているらしいです。けれども、それがここにきて中国のハッカー技術がものすごく高度になっています。この10年でそのレベルのバランス・オブ・パワーがすっかり変わってしまったといいます。
2014年にはアメリカの連邦政府の人事管理局のデータベースが全て、ハッキングによって中国に抜かれました。パートタイムを入れれば何とその数2100万ほどのアメリカの公務員の人事情報、つまりは家族関係とか性癖とか資産状況とか、あるいは友人関係といったものも全部プールされているデータベースです。これはインテリジェンス研究の分野では有名な事件でした。
あれ以来、バランス・オブ・パワーがすっかり...