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生え抜きでないから見える「サントリーの面白さ」

サントリー流「海外M&A」成功術(5)企業文化を生かす

情報・テキスト
サントリー出身でない新浪剛史氏だからこそ、サントリーの良い面が見えたという。そのような経験をもとに、さらに社内のコミュニケーションをスムーズにすべく、新浪氏自ら胸襟を開いて、さまざまなことを試みていった。また、現在のサントリーの状況を社員たちに伝えるための努力も重ねている。そのような新浪氏を支えたのは、佐治信忠会長から示された「悠々として急げ」という言葉だという。(全7話中第5話)
※インタビュアー:神藏孝之(10MTVオピニオン論説主幹)
時間:07:37
収録日:2019/03/25
追加日:2019/08/15
タグ:
≪全文≫

●佐治会長からのアドバイス「悠々として急げ」


神藏 佐治信忠会長と新浪さんは、慶應の関係でずっと仲良しなのですか?

新浪 いやいや、慶應の時には関係は全くありませんでした。ローソンの社長の時、私どものお取引先であるサントリーさんと宴会をやって、「この人、なんかSomething Differentだな」と思い、お付き合いをさせていただくことになりました。2回目の宴会も、私の方から即座に「やりましょう」と申し込みました。

神藏 面白いですね。そういったケースは、普通なかなかないですよね。

新浪 そうですよね。慶應での関係は全くなかったです。しかし、私もいろいろな宴会をやりましたが、トップ自らが「一緒にやりましょう!」とあれだけお客さんを鼓舞するというのもユニークそのもので、「この人、なんか違うな」と思いました。

神藏 面白いですね。やはり、あの雰囲気のままなのですね。

新浪 私はあれがすごく気に入って。いいな、いい会社だな、と思ったんですよね。

神藏 でも、その後は1週間に1時間半くらい、佐治会長との時間を必ず設けている。

新浪 時に呼び出されて、会長室の額にある開高健さんの「悠々として急げ」という言葉で諭されます。もともとこの言葉は、アウグストゥスのつくった“Festina lente”が由来で、「急げ、ゆっくりと」という意味ですので、英語で言うと“Make haste slowly”なのです。しかし、佐治会長はそれを読まれ、どちらかというと「悠々として」の方をよくおっしゃるのです。「そんなに慌てるな」ということですね。「こうせい、ああせい」ではなく、「とにかくこれを考えてください」というようなアドバイスを常にいただきます。

 でも、これは難しいです。ビーム社の件では、「こんなことではやられてしまう」と、真っ青になって焦っているわけです。しかし、その件だけに取り組んでいるわけではなく、社内の社長でもあるわけですから、「社内とのコミュニケーションもしっかりしてください」と言われ、人事政策も新しく健康経営や働き方改革を推進したり、役員と会わなければ当然人事はできませんから、いろいろな役員と食事をしてコミュニケーションを図ったり。「そういう時間を割いてください」ということで、そのような時間を割くようにしています。

神藏 新浪さんは経済財政諮問会議もあり、大変お忙しいですよね。また、佐治会長としても約1兆6,000億円の投資を後ろに背負ってしまい、それでも「悠々として」というところがすごいですね。

新浪 そうです。でも、気持ちは絶対に「急げ」なのです。佐治会長も私も、2人とも短気でせっかちですから。「それは会長に言われたくないですね」「だって会長、いつも急げでしょう?」と言ってしまったこともありました。そうすると、「だけど、こういう悠々も重要なんや」と言われ、「うーん」と思ったこともありました。しかし、「今このときは、少しがまんしてやらんといかんのじゃないか」と言われ、これがすごく重要でした。


●社内のコミュニケーションにも意を用いる


新浪 悠々として、だから少しスケジュールを変えて、社内とのコミュニケーションも増やすようにしたのです。というのは、私が考えていることが社内に伝わるということは、それまでほとんどなかったのです。あの時は、もう大変な状況でしたから。

 それでも、あえて社内で、ビーム社の件をはじめ、グローバルな人材育成についてもしっかりやらなければいけないし、そのようなこともしっかりとやっていってもらいたい、ということです。あと、いろいろな役員と人事もやり、人事評点も付けるわけですから、当初はいろいろな役員と会ってさまざまな話をしたり、以前は社長だけを集めてやっていた社長会も、今はさまざまな部門の人たちと食事をしながらいろんな話を聞くようにしています。その時は、もう無礼講にして、「初めての平民社長ですから、言いたいことを言ってください」と皆に言っています。だから皆、結構言いたいことを言ってくれて、面白いです。

 このようなことをやりながら、皆がどんなことに悩んでいるのかを理解したり、ビーム社の買収にこれだけのお金を使い、借金を返さなければいけないので、当然、いろいろな経費が使えないということもあり、それを皆に理解をしてもらうということも必要でした。「これをしっかりとやり上げて、もっと投資ができる会社にしよう。しかし、今は借金を返さないと本当に危険水域だから」ということで、皆に理解をしてもらう。このようなことをやってきました。

神藏 順調で、ほぼ無借金の会社で、そのままのんびりやっていた方がはるかに良かったところに、オーナーの佐治会長自らが約1兆6,000億円のM&Aをやって、それでも行くぞ、というのは、すごいですね。

新浪 そうですね。これは将来に向...
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