●「ABC分析」~行動と環境との関係を絵にして仮説・実験へ~
行動分析学では行動と環境との関係で考える、すなわち、環境が行動を変える要因であると考えるわけですが、それをどうやって分析していくかということをお話しします。ここから先は少し専門的な話になるので、もしかすると分かりにくいと思われるかもしれませんが、考え方としては2つあります。
1つは行動と環境との関係をまずは絵にして描いてみるというものです。これをわれわれは「ABC分析」と呼んでいますが、それをまずやってみます。次にそのABC分析で、「きっとこの行動はこういう環境によって影響されているのだろうな」という仮説を立てます。仮説を立てた後、実験をすると、実際に行動に影響している要因について分かりますし、問題解決につなげることもできます。いわば一石二鳥のアプローチになっているわけです。
●先行事象、行動、後続事象を図にする
今回いただいた課題で、片付けの行動について少しABC分析をやってみたので、スライドをご覧ください。
非常に単純に書いているのですが、ABC分析では真ん中に行動を書きます。ABC分析のBは「Behavior」のB、英語で行動という意味です。左側には先行事象、これは行動の直前にあるできごとや環境について書きます。Aは少々難しい単語ですが、英語の「Antecedent」(できごと)のAになっています。Cは後続事象、つまり行動の後に生じる環境について書きます。これは「Consequence」(結果)という英語の頭文字を取ってCになっており、その3つを取って「ABC分析」と呼んでいるのです。要するに、どういうときに、どういうことをすると、どうなる、という3つの要素をよく観察してみて考えて書いてみましょうということです。
●服が片付けられない理由は「スペースがない」から
今、このABC分析で書いてみたのは、例えば家に帰って、コートを脱ぎました。コートを脱いで、ハンガーにかけて片付けるというような行動です。Bで「ハンガーにかけようとする」と書いてありますが、ハンガーにかけてロッカーやクローゼットに片付けるという動作を考えてみてください。そうすると、家に帰ってきて上着やコートを脱いでいるので、それが先行事象になります。そして、それを持ってハンガーにかけようとするというのが行動になります。そこでうまくいけば、後続事象としてハンガーにかかった状態というものができあがるわけです。これが片付いている状態です。
ところが、次のスライドを見てください。次のスライドは部屋がちらかっている人の場合を書いてあります。実はこの手のことは、私の授業を取っている学生さんとか、あるいは研修会などで、後でお話しする「自分実験」というものがあるのですが、その自分実験で取り組む人が結構いるテーマなのです。自分の部屋や家がなかなか片付かないので片付けられるようになりたい、そのための実験をしてみたい、という人が結構います。
そういう人が実験をやってみると、写真を見せてくれるのです。「自分の部屋はこんなに汚れているんですよ」「こんなに片付かないんですよ」という写真を見せてくれることがあるのですが、その場合に何が起こっているかというと、大抵は片付けようとしても片付けるスペースがないのです。上着をハンガーにかけてクローゼットにしまおうとするのだけれども、クローゼットが服でいっぱいで入らない、という状態になっていることが多いのです。
これはクローゼットでもそうですし、例えば事務机の上を片付けようという場合も同様です。机の上に置いてあるものを机の引き出しの中にしまおうとするけれども、開けてみると引き出しがいっぱいいっぱいで、どこにも入るスペースがない。ハサミも入らないし、ホチキスも入らないというようなことがよくあります。
●環境次第で行動は強化または消去される
以上のようなことからABC分析してみると、(先掲しましたが)このようになります。上着を脱いでハンガーにかけようとするのだけれど、かけられない。その結果、しょうがないからベッドの上に置いておく。あるいは、いすの背もたれのところにかけておくといったことが生じます。そうすると、それが繰り返されるので、ものがどんどん部屋のあちこちにたまっていき、片付けられていないという状況になります。
これが今のABC分析から得られる仮説です。行動分析学では行動が生じること、行動することを「自発する」と表現します。また、その行動が繰り返し起こるようになることを「強化される」といいます。ですから、服をハンガーにかけようとする行動が自発されたとしても、片付かなけ...