●出資型のお金の使い方のススメ
小宮山 この間、財務省のお役人の方たちに、意見を言う機会がありました。そこで申し上げたのは、麻薬のような補助金をやめるべきだということと、その代わりに出資型のお金を使えということでした。
このことは林業を進めているとよく分かります。岡山県真庭市に、「銘建工業」という林業で成功した会社があります。やはりここには、最初に林野庁からお金が出ており、それがビジネスとして成長しています。これは出資型の良いお金の使い方です。
今、林業というのは日本全体で3,000億円くらいの売り上げだと思うが、2,000億円くらいの補助金を出している。これは麻薬。本当は、資本主義というのは、効率の悪いところはつぶれて、効率の良いところがとって代わる、というのが一番のメリットなんですよ。ところが補助金が出ているから、そのサイクルが働かない。
―― 生産性が上がらなくなりますね。
小宮山 それで、なんとか生きていられるから、「自分の代につぶしたら、ご先祖様に申し訳ない」と言って、実質的に続いていないのに、麻薬(補助金)で続いているのです。国のやるべきことは、麻薬的補助金を止めることです。
―― 日本の中小企業政策も、同じだと思います。つぶさないといけないところに、つぶさないようにずっと800万円とか1,000万円とか、ただのお金をどんどん補填している。
小宮山 でもこれは役人も分かっている。私が今のように言うと「小宮山先生のように、麻薬的補助金とは言えませんが、何がそうした補助金で、何が正しい使い方なのか、自分たちだけではよく分からない」と正直に言っていました。そこを進めていけるかが、日本が全体として機能するために重要なことですよね。
―― 彼らも相当悩んでいるのでしょう。
小宮山 それはそうでしょう。彼らだけではできないからです。政治家が後ろにいるわけだし、政治家の後ろには、投票する人たちがいるわけです。要するに、それが日本全体の仕組みですからね。
―― そういう意味でいうと、まさにイノベーションのジレンマそのものですね。
小宮山 そのものですね。
―― 補助金を切れば、その分、票が逃げるわけですからね。しかしそう思って補助金を続けると、先生のように「麻薬的補助金をやめろ」と言われてします。そうして、何もできなくなってしまいます。
●「社会は変えられる」と言う役人を全力で支援したい
小宮山 この間、私はある雑誌に書評を書きました。書評対象となった本は、経済産業省の江崎禎英さん(商務・サービス政策統括調整官)という人が書いた『社会は変えられる』(国書刊行会)です。
彼が医療の関係で、内閣府と厚生労働省の大事なポジションをやっている。彼が、『社会は変えられる』という本を出しているのです。僕はそれを書評として取り上げて、「そういう人を支援しなければならない」、と書いた。書評の中に一緒に取り上げた対照的なことを書いている本がある。それは、日本通のアメリカのエドワード・リンカーンという学者の『それでも日本は変われない』(日本評論社)という本です。これは小泉内閣の頃に、構造改革と小泉純一郎さんが言っていたが、それを見て、「それでも日本は変われない」、と。そこに書いてあるのは、まさにイノベーションのジレンマ。
―― “日本株式会社”全体のイノベーションのジレンマ。
小宮山 だから、「社会は変えられる」と言う役人を僕は本当に全力で支援したいと思っていますけど、これは多勢に無勢というか、一騎当千ぐらいで済むようにならないとね。今は衆寡敵せずって感じです。
―― なるほど、衆寡敵せず。
小宮山 でもだいぶ、分かっている人たちが出てきて、本当にみんなが思い始めると、ガラリと変わることが日本には期待できると思う。
●江戸時代には人材が育っていた
―― 幕末も黒船が来て、ちょっと金銀の交換比率を間違えて、インフレになって米騒動になり、日本が壊れていきますよね。あともう一ついえるのは、当時勝海舟とか小栗上野介とか、優秀な人を登用できる仕組みになりましたよね。
小宮山 西郷隆盛とかもそうですね。
―― 各藩もそうだし。それにだんだんと近づいていますよね。
小宮山 本当に、島津久光とか山内容堂とか、よく手放しましたよね。
―― 薩摩でいくと、小松帯刀がいて久光も押さえつけ、慶喜にも牽制球を出し、大久保利通は西郷を暴走しないようにしたりと、やっぱりポイントのところで人材が出てきますよね。そういう人はだいたい早く死んじゃうことが多いので、名前はあんまり残っていないですけど。
小宮山 1人じゃできない。英雄は1人になるけど。どうして、江戸時代に人材が育っていたんでしょうね。
―― 私塾でしょうね。
小宮山 松下村塾が有名ですけど、大...