百姓からみた戦国大名~国家の本質
この講義シリーズは第2話まで
登録不要無料視聴できます!
▶ 第1話を無料視聴する
閉じる
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
羽柴秀吉の天下統一から始まった戦国社会の克服
百姓からみた戦国大名~国家の本質(8)戦国社会の克服
黒田基樹(駿河台大学法学部教授/日本史学博士)
戦国社会はいかにして克服されたのだろうか。何よりもまず注目すべきは、慢性的飢饉による生産資源をめぐる戦争が、羽柴秀吉の天下統一によって停止されたことである。その後、17世紀に入り、江戸幕府や諸国の大名が構造改革を進めていく。そうして、戦争が起こらない環境がつくり出され、飢饉の際には大名による公的な融資が確立していった。(全8話中第8話)
時間:11分57秒
収録日:2019年3月20日
追加日:2019年11月6日
≪全文≫

●共同負担による公共事業の萌芽


 戦国大名と村との関係の変化についてもう一つ取り上げたいのが、共同負担による公共事業の萌芽です。1573年以降の天正年間には、それまで戦争負担のために各村に賦課をしていた大普請役が、広域的な治水事業に転用されていきました。大普請役は、軍事施設である城郭の維持修築のために充てられる労働力負担だったのですが、それが公共事業に転用されていったのです。

 それまで、公共事業は受益者負担でした。基本的には利用し、それによって便宜を受ける人がお金を払って人を雇い、工事を行っていました。しかし、この時期になると、そうした公共事業に、戦争負担が転用されていったのです。

 大河川の治水事業は、その流域の村々にとって受益があるものです。しかし、その負担は流域を問わず、領国の村全ての共同負担になりました。要するに、その流域に関係ない村の労働力が投入されるようになったのです。これが意味するのは、領国が村にとって1つの政治共同体の機能を果たすようになったということです。治水事業は村々の存立にとって重要な工事であり、それまでは受益者である村々の負担によって行われていました。しかし、それに対し、戦争費用である税金が投入されることが、この戦国時代から一般的になっていきました。


●村が帰属する政治共同体として大名領国が確立していった


 江戸時代の近世大名は戦争をしません。そのため、近世大名も普請役を各村から徴発していました。本拠の城郭普請は行われていましたが、それ以外の部分は基本的には治水事業に充てられるようになっていきます。要するに、本来は戦争費用のために徴発されていた租税が、基本的には村の存立のための公共事業に適用されていき、それが江戸時代には一般化していったのです。これも、戦国時代から始まりました。先ほど述べた通り、戦国大名が村の成り立ちのために対応していく中で、つくり出されたものです。

 村の存立のための必要な部分が、領国の村々の共同負担によって実現されていくことで、領国そのものが村にとっての一つの政治共同体としての機能を果たすようになりました。要するに、村が帰属すべき政治共同体として、大名領国を認識したのです。そのことを裏付ける現象が、公共事業の共同負担であるといえます。


●戦国社会の克服への課題は村同士の戦争の抑止


 最後に、こうし...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「歴史と社会」でまず見るべき講義シリーズ
ローマ史に学ぶ戦略思考~ローマ史講座Ⅳ(1)古代の持つ意義と重み
一神教もアルファベットも貨幣も全て古代に生まれた
本村凌二
徳川将軍と江戸幕府~徳川家斉(1)家斉が長期政権を維持できた理由
11代将軍・徳川家斉が50年もの長期政権を築けた理由
山内昌之
歴史の探り方、活かし方(1)歴史小説と史料探索の基本
日本は素晴らしい歴史史料の宝庫…よい史料の見つけ方とは
中村彰彦
第二次世界大戦とソ連の真実(1)レーニンの思想的特徴
レーニン演説…革命のため帝国主義の3つの対立を利用せよ
福井義高
「三国志」の世界とその魅力(1)二つの三国志
三国志の舞台、三国時代はいつの・どんな時代だったのか?
渡邉義浩
豊臣兄弟~秀吉と秀長の実像に迫る(序)時代考証が語る『豊臣兄弟!』の魅力
2026年大河ドラマ『豊臣兄弟!』、秀吉と秀長の実像に迫る
黒田基樹

人気の講義ランキングTOP10
逆境に対峙する哲学(1)日常性が「破れ」て思考が始まる
逆境に対峙する哲学カフェ…西洋哲学×東洋哲学で問う矛盾
津崎良典
豊臣兄弟~秀吉と秀長の実像に迫る(1)史実としての豊臣兄弟と秀長の役割
豊臣兄弟の謎…明らかになった秀吉政権での秀長の役割
黒田基樹
渡部昇一の「わが体験的キリスト教論」(1)古き良きキリスト教社会
古き良きヨーロッパのキリスト教社会が克明にわかる名著
渡部玄一
「重要思考」で考え、伝え、聴き、議論する(1)「重要思考」のエッセンス
重要思考とは?「一瞬で大切なことを伝える技術」を学ぶ
三谷宏治
「アメリカの教会」でわかる米国の本質(1)アメリカはそもそも分断社会
「キリスト教は知らない」ではアメリカ市民はつとまらない
橋爪大三郎
葛飾北斎と応為~その生涯と作品(1)北斎の画狂人生と名作への進化
葛飾北斎と応為…画狂の親娘はいかに傑作へと進化したか
堀口茉純
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(1)「スキーマ」問題と認知の仕組み
なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み
今井むつみ
インテリジェンス・ヒストリー入門(1)情報収集と行動
日本の外交には「インテリジェンス」が足りない
中西輝政
平和の追求~哲学者たちの構想(1)強力な世界政府?ホッブズの思想
平和の実現を哲学的に追求する…どんな平和でもいいのか?
川出良枝
熟睡できる環境・習慣とは(4)起きているときを充実させるために
夜まとめて寝なくてもいい!?「分割睡眠」という方法とは
西野精治