●コロナウイルス感染症に、いかに対応すべきか
みなさんこんにちは。順天堂大学の堀江と申します。私は泌尿器科で、腎臓・前立腺・膀胱の診療をしていますので、コロナウイルスのような感染症については、専門家では全くありません。ただ、私自身のキャリアの中で、実は1年間だけ、東京大学の微生物学教室の助手を務めました。そして、今話題になっていますが、国立感染症研究所の主任研究員を務めました。
そうしたキャリアから、少しは門前の小僧的なところがあるかもしれません。そう思い、1人の医師として、このコロナウイルス感染症に対して、どのように対応するか、あるいは、今日のタイトルでもある、コロナウイルスを一種の戦争として捉える見方を提示できればと思います。人類対ウイルス、あるいは人類対疾病の戦争です。いわば、戦時下において、今、私たち1人1人に何ができるかということを、少し考えてみたいと思います。よろしくお願い致します。
●ウイルス感染は、レセプターが関連している
コロナウイルスの感染症について、まずはご説明します。ウイルスは実際に体の中に入ってくるときには、むやみやたらに入ってくるのではなくて、レセプターという、ウイルスがくっつくタンパク質が関係します。レセプターは、肺と腸にあるということがわかっています。腸においては、おそらく風邪症状のような、下痢などの軽い症状が起こります。肺においては、ほとんどの方は軽症で済みますが、しかし重症になると、このスライドのように、急速に肺炎が進行していくことがわかっています。
●ウイルス感染症の「黄熱病」はいかに広がったか
この人類とウイルスの戦いは、みなさんもSARSやMERS、エイズなどでご存知だと思います。しかしこれら以外で、私たちが忘れがちな2つのウイルスとの戦いを振り返ってみたいと思います。
1つは黄熱病です。黄熱病は、日本人であれば誰もが知っている野口英世が、アフリカ(ガーナのアクラ)に行って研究をしている最中に、自らもかかって命を落としたウイルスです。黄熱病は蚊を媒体にして起こる感染症で、かかると黄疸が起きてしまい、肝臓に非常に厳しい炎症が起こります。あるいは全身の血液に凝固異常が起きてしまいます。
これについて私は、当初、アフリカの風土病だと思っていました。実際にそうだったのですが、実は、奴隷貿易などによる、アフリカと新大陸であるアメリカの間での人の行き来がスタートした17世紀初頭(日本では江戸時代です)に、黄熱病はまずニューヨークで大爆発しました。当時のニューヨークは非常に湿気の多い沼地で、人口が稠密状態になり遠征環境が悪かったためです。黄熱病は、その後もフィラデルフィアやルイジアナなどアメリカ全土に広がりました。さらにはアメリカだけでなく、スペインやアルゼンチンなど、非常に多くの国で黄熱病は流行りました。今のコロナウイルス非常によく似ています。17~18世紀当時の黄熱病の致死率は、5パーセント位であったと報告されています。
この黄熱病は、1920年に「ウイルスが原因である」ということが明らかとなり、10年後にはワクチンが完成し、現在ではコントロールされています。実際に、3世紀にわたってウイルスとの戦いが続いたということです。今私たちがよく話題にしているものとして、ヨーロッパを中心として全世界に広まったペストという病気がありますが、これは細菌感染です。それに対してウイルス病としては、忘れていますが、黄熱病という300年にわたって主に南北アメリカで広まり、その後ヨーロッパにも広まった病気がありました。
●日本脳炎は現在でも世界で約4万人が罹患している
もう1つ、忘れられがちではありますが、私より前の世代の方は覚えているであろうものとして、日本脳炎があります。これは日本に特有なものではありません。1935年に日本で、初めてウイルスを脳から分離して、はじめて脳炎が、蚊を媒体とするウイルス感染から起こるということがわかりました。
現在は、主に日本・韓国においてワクチンが普及しています。が、調べてみると、1966年に、2000人が日本脳炎に罹患していることがわかります。非常に恐ろしい病気でしたから、私も子どもの頃は、蚊に刺されるとこの日本脳炎に罹らないか、大変心配していました。幸い、ワクチン接種が行われるようになり、1992年以降は毎年10人以下の発生数となりました。逆に言うと、1990年くらいまでは、かなり患者さんがいたということです。
しかし1999年以降、ワクチン接種に対して疑問をお持ちの方も増えてきたということもあって、実は若い方(10代~30代、40代)にも発生が見られている状況がありま...