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「全体観」と「専門家の深い知見」で新たな社会像を構築する

脱コロナを「知の構造化」で考える(8)ポストコロナ

小宮山宏
東京大学第28代総長/株式会社三菱総合研究所 理事長/テンミニッツTV座長
情報・テキスト
ここまでの日本の政策にはどのような問題があったのか。例えば一斉休校の要請は、その効果、影響から考えると、そのやり方には課題を残したといっていいだろう。問題の全体像を理解するためには、専門家の知見だけではなく、自らデータを収集・分析することも大事だという小宮山宏氏。コロナ終息後に世界、そして日本が進むべき道について語る。(全8話中第8話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:14:27
収録日:2020/04/22
追加日:2020/04/29
≪全文≫

●日本が行った「一斉休校」という政策の問題点


―― 先ほど、科学的な知識に基づいて政策を行っていくことが重要だというお話がありました。まさにこの問題は、全く答えがわからないなかで進んでいかなければならないものでした。そのため、今までの日本政府の対応についても、小宮山先生からはいろいろな問題が見えているのだと思います。こうした日本の政策決定の問題点ということについて象徴的な事例があれば、ご指摘いただけませんでしょうか。

小宮山 日本では、学校の一斉閉鎖(臨時休校の要請)が行われました。

―― 2月27日に発表されたのですが、3月2日から春休みの期間、全国で一斉休校の実施要請がなされました。

小宮山 私は、これは正しくなかったと思っています。なぜかというと、政策は、どういう効果があるのか、それを見極めてから行うものです。今回の場合、3つほど重要なポイントがあります。第1に、コロナの感染拡大を防止するという実態的な意味です。第2に、そのための危機意識を喚起するということがあります。第3に、そのことがどのようなネガティブな副次的効果を産むのか、それを見極めるというものです。

 この政策によって、危機意識がうまく喚起できたのだという説がありますが、危機意識の喚起であれば、他にもいくらでもやり方があったと私は思います。この政策に実態的な効果があったかといえば、学校閉鎖はあくまで二次的なものです。今回の場合、子どもへの感染率は高くないと言われています。もちろん子どもが罹患して死んでしまったというニュースもありますが、風邪でも同様の事態は起こり得ます。若い人が高齢者にうつしてしまうというケースもありますが、これもあくまで二次的な効果です。一次的な効果としては小さいか、ほとんどないでしょう。

 今回は、副次的な効果、影響も考えなければなりません。学校の閉鎖が容易だったのは、これが経済に影響しないと思われたからです。確かにすぐには影響は出ません。しかし、子どもたちにとって学校はものすごく重要なところです。当たり前です。また、子どもが家にいることによって、今までと状況をどれくらい変えるのか。その社会的なマイナス効果は非常に大きいです。経済に対する影響はとりあえず小さいですが、副次的な効果で経済にも大きな影響を与えます。また、将来を考えた場合、例えば今後1年ほど学校が休校してしまうと、その影響はゆとり教育どころではありません。その一番の極端な例は、文化大革命です。あの影響でどれだけ中国が苦しんだかを思い出す必要があります。ですから、政策の効果、影響は3つの点から考える必要があるのです。


●台湾の政策に学ぶ


小宮山 それではもっと良い方法はあるのかといえば、あります。それは、台湾で進めたやり方です。台湾が何をやったかというと、まず学校を1週間閉鎖しました。その1週間で、危機意識を喚起し、さらに消毒薬を全部の学校に用意し、先生に対処についての教育をするなど、さまざまな準備をしました。そして一週間の閉鎖後、すぐに再開しました。その後、どうしたかというと、あるクラスで1人が感染した場合、そのクラスを学級閉鎖しました。そして、2つのクラスが学級閉鎖になった場合、その学校を閉鎖としました。これは、日本でもインフルエンザ対策として行っていた対処です。

 私が少し前に聞いた情報によると、この方法を取ったところ、台湾ではほとんど学校閉鎖は出ていないようです。これに対して、日本のやり方は、実態的な効果、警鐘を鳴らす効果、副次的な作用の3つの面からすると、間違いだったと思います。


●全体像を考えるためには、まず自分でデータを分析すること


―― これは人の命が関わってくるので、非常に難しいですね。どうしてもリスクをなるべく取らない方向に行ってしまいがちです。しかし、そちらばかりに集中してしまうと、冒頭で先生がおっしゃっていた通り、他のリスクが高まる可能性がある。先ほどのお話は、やはり全体観を持って正しく政策を行なっていかないと、ときに誤った方向に行ってしまう可能性があるということの典型例だと思います。

 やはり人の生死が懸かっているので、下手に考えると大変まずい判断になってしまいますし、本当にギリギリのところで判断しなければいけないと思うのですけれども、先生ご自身としては、こうした全体観については情報をどのように整理していらっしゃいますか。

小宮山 私は、人の作ったグラフや人のデータを見ているだけでは、オリジナルな仕事はできないというか、本当の姿は見えてこないのではないかと思っています。欧米のデータばかり見ていては、日本に良い政策を作れません。もちろん人のデータは使うのですが、まずは自分で考えてみなければいけないでしょう。

 私は大学で教えていた頃、学生に...
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