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安全の概念が変わる中、リーダーが最も大事にすべきこと

世界の新型コロナ対応を俯瞰する(4)リーダーの役割

情報・テキスト
国家が危機のときのリーダーの役割、その行動が今、問われている。重要となるのは、情報を適切に集約し、タイムリーにメッセージを伝えることである。そこで考えなければいけないのは、国家は何のために存在するのかということだ。最も大事なのは、国民の自由と安全を守ることである。(全6話中第4話)
※インタビュアー:神藏孝之(テンミニッツTV論説主幹)
時間:12:34
収録日:2020/04/09
追加日:2020/05/24
≪全文≫

●危機のときのメッセージは自身の体験によって印象が変わってくる


―― 前回、先生がおっしゃったアンゲラ・メルケル首相のメッセージを読みました。その時の様子も動画で観ました。彼女は、旧東ドイツ出身の博士号を持った学者で、経験も豊富だし、知的トレーニングも積まれています。東西ドイツが分裂していた時代から、ベルリンの壁が崩れ統一を果たすまでの激動の時期を生きてきた人で、その中で体験してきたものから、ちゃんと優先順位をつけていて、それが言葉に表れています。

 一方、日本は、国内に良いものがあったとしても、リーダーがそれを本当に知っているのかどうかという点で、私は疑問を持っています。例えば、本当に数千人の保健師さんや保健所の皆さんの頑張りを分かっているのかということです。

小原 スーパーマーケットで働いている方などもそうですね。

―― クラスター班の人たちの中にも、厚生労働省の役人ではなく、ボランティアの学者さんたちもいます。彼らの現場の頑張りについても同様です。

 私は東日本大震災の時、宮城県で復興委員をやっていて、現地に入り、数十カ所の被災地を回りしました。そこでは、悲惨さと感動的な光景の両方を見ました。しかし、その後に東京から偉い人がやってくる際には、すでに綺麗に整備されていました。こうしたことからすると、どの場所や場面を見ているか、どの場面で体験しているかによって、印象が決定的に違ってくるものだと思います。

 そう考えると、どうしてメッセージが伝わらないのかという点も分かってくるのではないでしょうか。メッセージを発している人が、自分で腹落ち感があって相手に伝えているのと、なんとなく言われたことをかき集めて読んでいるのでは、全く異なります。その点でいえば、メルケル首相のスピーチはすごかった。世界のリーダーのスピーチの中には、たとえその国の言葉が分からなくても、引き込まれるものがあります。その部分がないと、こういうときに人を動かすことは難しいのではないかと思いますが、いかがでしょう。

小原 1929年に世界恐慌が起こりましたが、その後の大不況の中、フランクリン・ルーズベルト(アメリカ第32代大統領)は1933年に「炉辺談話」というラジオ放送によって国民に語りかけました。今のドナルド・トランプ大統領を見ていると、アメリカもずいぶん変わったなという感じがして、すごく残念な気がします。われわれと同じ、自由で開かれた社会のリーダーが、あのような話しかできないのかという意味で、本当に残念です。


●危機のときに大事なのは情報選択とタイムリーな情報伝達


小原 企業などでも、何が現場で起きているかという現場主義が一番大事だと思うので、トップがそれを見ず、ふんぞり返っているような企業は、そのうち倒れてしまう可能性が高いでしょう。これは国家も同じです。ですから、習近平国家主席がうまくやっていると言っても、一強状態になってくると、みんな怖がって悪い情報を上げなくなります。これには気をつけないといけません。そうなると、現場で起きていることと頭の中で自分で理解していることの間に大きな乖離が出てきます。これがおそらく、初動の失敗の原因でもあったのだろうと思います。

 その点では、民主主義の国も同様の危険があります。これだけの情報化社会ですから、デマも流れますし、フェイクニュースも流れます。そういった中で、本当に忙しい組織のトップ、リーダーにどういう情報を上げるのか。あるいは、リーダー自身がどういう情報を求めるのかという、選択の部分が重要になってくるのです。この情報選択が政策にもつながっていくので、本当に正確な情報をタイムリーに上げることが求められます。これは厚生労働省にしてもそうですし、その他の組織でも同様です。つまり、いかに情報をスクリーニングをして、どの情報をタイムリーに伝えていくのか、ということが危機のときには大事になってくるのです。

 過去の歴史を振り返ると、そこでほとんど失敗しています。だから、そこがうまくできるかどうかは、体制にかかっている部分もあります。しかし、それ以上に、リーダーが今、何が起きているのかを自分なりに判断し、部下に対して指示することが大事です。たとえ悪い情報でも、聞く耳を持つことも大事だと思います。


●リーダーに求められる危機の克服と、克服後の新たなルール作り


―― そこではリーダーとその下に集まるチームとの信頼関係も重要ですね。「この人はこれならできる」という見極めや、集めた情報で決断し、一度決めたら揺るがない態度です。そうした意味では、日本はエリート教育を戦後否定してきました。それを七十数年間続けてきて、ツケが回ってきている、そういう時代でしょうか。

 経営の問題も考えなければなりません。これだけ財政が...
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