●「チャンス産業」がこれから重要となっていく
田口 私が一つ思うのは、飛躍するチャンスをもっとつくるということです。やる気のある人は、自分の望みの人生へ向けて積極的に脱皮していけるようなチャンスです。私が若い頃にさまざまな討議があって結論づけたのですが、「オポチュニティ・インダストリー(Opportunity Industry)」、つまり「機会産業」、「チャンス産業」が重要なのです。つまり、チャンスを世界中にばらまけるような産業が、これから一番伸びていくのです。
チャンス産業の最たるものは、幼年教育です。幼年のときに一人一人に対して、その子の本当に素晴らしい部分を見つけ出し、それを引き出すような産業です。
―― 才能を見つけて引き出してあげるのですね。
田口 その通りです。日本人に生まれた子は、皆なんらかの世界一になる素質を持っています。親切の世界一や人の世話の世界一でも良いのです。科学技術や数学、学問、スポーツなどでも良いですが、心根(こころね)の世界一を狙っても良いのです。そうしたことを学び、そのことが人生の飛躍のチャンスになっていくような学校教育に変えていくべきです。
要するに、豊かな人生の礎を築くような、そしてその子の一番の長所が強化されるような教育に変えていくことが重要です。これを、官民どちらも重視して進めていくべきです。
もう一つの飛躍のチャンスは結婚でしょう。ですから結婚産業です。出会い産業は現在でも多くあるようですが、それでも本当に出会いがないという人が多く、良い年になってもなかなか結婚のチャンスがない人がいます。それはそうした人が積極的に活動していないからかもしれませんが、これも産業として考える。これもオポチュニティ・インダストリーの一つです。
このように、人間にチャンスを与える産業には計り知れない可能性があります。これがコロナウィルス騒動後の最大の狙い目だと思います。
―― 長所を見つけて、引き出して、育てる、出会いがなかった人に出会いをつくるとなると、非常に自信になりますよね。
田口 もう一つは職業です。本当にその人に合った職業を選択する必要があります。近代的な徒弟制度のほうが良いという領域もたくさんあります。そのような人には、それなりの道筋を産業界も整備するべきです。そうして、人間にいつもチャンスが溢れているという社会にすると良いのではないでしょうか。
●人生のトレーニングセンターを日本から提供していく必要がある
―― 今は、いつも生活におびやかされていて、不安でしょうがない、だからまず金が必要という流れになっています。効率よく稼ぐ方法に力点を置く考え方と、人間を全肯定してする点から始まり、その部分から長所を引き出すという考え方では、全く異なりますよね。
この20年ほど、日本人は自信を失い続けており、世界の先進国から置いていかれるのではないかと不安に思っていたように思います。しかし、振り返ってみると、先生がいつも指摘されているように、実は「溜まり文化」で儒教も仏教も禅仏教も神道も老荘思想もある、と。こんな国は他にないですよね。しかも、恵まれた風土の中で生きているのです。ですので、世の中が、金融資本主義が行き詰まったときに、われわれが次の思想をつくる最も近い場所にいると認識すべきです。自分たちの足元を、つまり見逃していたものを見つめなおす必要があるのでしょう。
先生がいつも説明しているこの八卦図(陰陽の図)もそうですが、もともとある段階では当たり前に共有されていた考え方です。江戸時代に戻れば、自ら学ぶのと、ただひたすら一方的に教えるのとでは全く異なりますよね。そうした基礎があったにもかかわらず、経済成長を追求するために、一度そうした考え方を捨てたわけですよね。それを戻すことが天意として求められているのですね。
田口 そうなのです。基本的に変えてはならない日本の良さをもう一度整理するべきです。今ご指摘いただいた、儒教・仏教・道教・禅・神道といった偉大な思想が5つも蓄積されている場所はないと私は思っています。これだけでも素晴らしいのです。その行き着く先をいろいろ考えているのですが、先ほど挙げたチャンス産業しかないと思うのです。
日本人の英知、あるいは感覚が研ぎ澄まされて発揮される「おもてなし」という産業の大元にある考え方は、世界中の人にチャンスを与え、つくり出すことです。チャンスの前提である、人の可能性を見つけ出して、それを強化するという人生のトレーニングセンターのようなものをつくって提供するという知的な産業を、日本から推進していく必要があるのです。