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ルソーが宣言した、新しく国家をつくる際の二重の課題とは

政治思想史の古典『法の精神』と『社会契約論』を学ぶ(5)社会契約論の議論

川出良枝
東京大学大学院法学政治学研究科教授
情報・テキスト
ジャン=ジャック・ルソー
ルソーの『社会契約論』の議論は、自然的自由を放棄することで、国家を設立することから始まる。しかし、すべての国家の構成員は自らに備わっている立法権を通じて、国家の一般意志、すなわち法律をつくり出す。すべての構成員は自分で納得してこの法律に服すために、国家の法律に服しながらも同時に自然的自由と同様の自由を享受することにもつながる。このように、立法権の所在を市民に求めた点に、『社会契約論』が古典の名に値するゆえんがある。(全11話中第5話)
時間:06:21
収録日:2020/08/17
追加日:2020/10/17
≪全文≫

●国家をどのようにつくるかを論じる『社会契約論』


 さて、モンテスキューの『法の精神』のお話を終えて、ルソー『社会契約論』の紹介に移ろうと思います。

 この作品は、非常に明解な作品です。簡単にまとめると、ルソーが直面する既存の国家は、非常に抑圧的で不平等で、さまざまな問題を内包していました。この問題を解決するためには、新しく契約を結び直し、新しい国家をつくりあげる必要があります。そのために、どのような契約を結び、どのような国家をつくるべきかを示した作品が、『社会契約論』という作品なのです。

 もう少し説明すると、人間は生まれながらに持っている自然的自由を放棄し、契約によって国家を設立するという論理です。自由を放棄してしまうのかと疑念を抱くかもしれませんが、国家を設立した後には、今度は社会的自由が戻ってくるのです。その具体的なからくりに関して、これからお話しいたします。


●二重の課題と一般意志


 さて、契約によって新しく国家をつくりなおす際に、二重の課題がある、とルソーは冒頭で宣言します。その第一の課題は、各メンバーの身体や財産の共同防衛が、新しくつくられた国家によって実現されなければならない。確実に構成員の身体や財産を保障することが、国家の重要な役割だと指摘します。こちらは分かりやすいかと思います。

 それとは別に、もう一つ重要な課題があるとルソーは主張します。それは、各人がすべての人と結合しながら、自分にしか服従せず、以前と同じように自由なままでいるという要請です。自然的自由は放棄しても、それと同様に自由な状態を保ち、さらに同時にすべての人と密接に結合しあうという、謎めいた課題を設定します。

 その上で結ばれるのが社会契約ですが、以下のように主張します。

「各人は身体とそのすべての力を共同のものとして、一般意志の最高指導の下にゆだねる。」(『社会契約論』1編6章)

 少し分かりづらいかもしれませんが、それほど難しいことをいっているわけではありません。ここでいう一般意志は、とりあえずシンプルに法律のこととしてご理解ください。

 ルソーの根本的な主張は、すべての市民が政治に参加し、自らの意志で法律を制定することが、新しい国家の鍵であるというものです。一言でいえば、すべての市民に立法権が備わっていることを重要視するのです。そして繰り返しますが、一般意志とは法律のことであるということを、ご理解いただければと思います。


●一般意志に服すことは自由に生きることと同値


 その結果、どのようなことになるでしょうか。国家がそのメンバーに服従を要求できるのは、国家の意志、すなわち法律が、参加を通して表明されるすべてのメンバーの意志と一致している場合に限られます。つまり何人も、自分が納得できないという命令に服す必要はないということです。法律は、参加を通してすべての市民がゴーサインを出しているのです。そのような法律に従うことは、いわば自分の意志に自ら進んで従うことです。自分の意志に従う、これはまさに自由である、という主張なのです。

 すると、各人は国家の命令に服しつつも、実際には自分の意志に従っているのと同様である以上、国家の設立後もそれ以前と同様に自由であるということになります。したがって、先ほど掲げた2つ目の謎めいた課題、すなわち各人がすべての人と結合しながら自分にしか服従せず、以前と同じように自由という課題が見事にクリアされたわけです。

 このように立法権の所在は一人一人の市民にあると高らかに宣言したという部分が、まさにいわゆる近代の人民主権論といわれるゆえんなのです。それゆえに、それを宣言した書として『社会契約論』は古典の名前を与えられているわけです。
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