政治思想史の古典『法の精神』と『社会契約論』を学ぶ
この講義シリーズは第2話まで
登録不要無料視聴できます!
▶ 第1話を無料視聴する
閉じる
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
ルソーが宣言した、新しく国家をつくる際の二重の課題とは
政治思想史の古典『法の精神』と『社会契約論』を学ぶ(5)社会契約論の議論
川出良枝(東京大学名誉教授/放送大学教養学部教授)
ルソーの『社会契約論』の議論は、自然的自由を放棄することで、国家を設立することから始まる。しかし、すべての国家の構成員は自らに備わっている立法権を通じて、国家の一般意志、すなわち法律をつくり出す。すべての構成員は自分で納得してこの法律に服すために、国家の法律に服しながらも同時に自然的自由と同様の自由を享受することにもつながる。このように、立法権の所在を市民に求めた点に、『社会契約論』が古典の名に値するゆえんがある。(全11話中第5話)
時間:6分21秒
収録日:2020年8月17日
追加日:2020年10月17日
≪全文≫

●国家をどのようにつくるかを論じる『社会契約論』


 さて、モンテスキューの『法の精神』のお話を終えて、ルソー『社会契約論』の紹介に移ろうと思います。

 この作品は、非常に明解な作品です。簡単にまとめると、ルソーが直面する既存の国家は、非常に抑圧的で不平等で、さまざまな問題を内包していました。この問題を解決するためには、新しく契約を結び直し、新しい国家をつくりあげる必要があります。そのために、どのような契約を結び、どのような国家をつくるべきかを示した作品が、『社会契約論』という作品なのです。

 もう少し説明すると、人間は生まれながらに持っている自然的自由を放棄し、契約によって国家を設立するという論理です。自由を放棄してしまうのかと疑念を抱くかもしれませんが、国家を設立した後には、今度は社会的自由が戻ってくるのです。その具体的なからくりに関して、これからお話しいたします。


●二重の課題と一般意志


 さて、契約によって新しく国家をつくりなおす際に、二重の課題がある、とルソーは冒頭で宣言します。その第一の課題は、各メンバーの身体や財産の共同防衛が、新しくつくられた国家によって実現されなければならない。確実に構成員の身体や財産を保障することが、国家の重要な役割だと指摘します。こちらは分かりやすいかと思います。

 それとは別に、もう一つ重要な課題があるとルソーは主張します。それは、各人がすべての人と結合しながら、自分にしか服従せず、以前と同じように自由なままでいるという要請です。自然的自由は放棄しても、それと同様に自由な状態を保ち、さらに同時にすべての人と密接に結合しあうという、謎めいた課題を設定します。

 その上で結ばれるのが社会契約ですが、以下のように主張します。

「各人は身体とそのすべての力を共同のものとして、一般意志の最高指導の下にゆだねる。」(『社会契約論』1編6章)

 少し分かりづらいかもしれませんが、それほど難しいことをいっているわけではありません。ここでいう一般意志は、とりあえずシンプルに法律のこととしてご理解ください。

 ルソーの根本的な主張は、すべての市民が政治に参加し、自らの意志で法律を制定することが、新しい国家の鍵であるというものです。一言...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「政治と経済」でまず見るべき講義シリーズ
内側から見たアメリカと日本(1)ラストベルトをつくったのは誰か
日本でも中国でもない…ラストベルトをつくった張本人は?
島田晴雄
財政問題の本質を考える(1)「国の借金」の歴史と内訳
いつから日本は慢性的な借金依存の財政体質になったのか
岡本薫明
中国の「なぜ」(1)なぜ「中国は一つの国なのか」
武力で負けても文化で勝つ? 恐るべし「中原」の同化力
石川好
習近平―その政治の「核心」とは何か?(1)習近平政権の特徴
習近平への権力集中…習近平思想と中国の夢と強国強軍
小原雅博
戦争と暗殺~米国内戦の予兆と構造転換(1)内戦と組織動乱の構造
カーク暗殺事件、戦争省、ユダヤ問題…米国内戦構造が逆転
東秀敏
台湾有事を考える(1)中国の核心的利益と太平洋覇権構想
習近平政権の野望とそのカギを握る台湾の地理的条件
島田晴雄

人気の講義ランキングTOP10
葛飾北斎と応為~その生涯と作品(1)北斎の画狂人生と名作への進化
葛飾北斎と応為…画狂の親娘はいかに傑作へと進化したか
堀口茉純
健診結果から考える健康管理・新5カ条(1)血管をより長く守ることが重要な時代
健康診断の結果が悪い人が絶対にやってはいけないこと
野口緑
エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(1)サイバー・フィジカル融合と心身一如
なぜ空海が現代社会に重要か――新しい社会の創造のために
鎌田東二
「重要思考」で考え、伝え、聴き、議論する(1)「重要思考」のエッセンス
重要思考とは?「一瞬で大切なことを伝える技術」を学ぶ
三谷宏治
中国共産党と人権問題(1)中国共産党の思惑と歴史的背景
深刻化する中国の人権問題…中国共産党の思惑と人権の本質
橋爪大三郎
学力喪失の危機~言語習得と理解の本質(1)数が理解できない子どもたち
なぜ算数が苦手な子どもが多いのか?学力喪失の真相に迫る
今井むつみ
プロジェクトマネジメントの基本(2)プロジェクトの複雑性とマネジメント
コスパが鍵!? 顧客満足につながる品質マネジメントとは
大塚有希子
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(1)「スキーマ」問題と認知の仕組み
なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み
今井むつみ
生成AI「Round 2」への向き合い方(1)生成AI導入の現在地
生成AIの利活用に格差…世界の導入事情と日本の現状
渡辺宣彦
歴史の探り方、活かし方(1)歴史小説と史料探索の基本
日本は素晴らしい歴史史料の宝庫…よい史料の見つけ方とは
中村彰彦