政治思想史の古典『法の精神』と『社会契約論』を学ぶ
この講義シリーズは第2話まで
登録不要無料視聴できます!
▶ 第1話を無料視聴する
閉じる
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
IT技術の発展による直接民主主義の可能性を考える
『法の精神』と『社会契約論』を学ぶ【質疑篇】(4)直接民主主義の可能性
川出良枝(東京大学名誉教授/放送大学教養学部教授)
最後の論点として、IT技術の発展に伴う直接民主主義の可能性について議論する。モンテスキューは権力の抑制に力点を置くために、たとえ技術的に直接民主主義が可能となったとしても、その決定に対して警戒感を持ち続けるのではないか。一方、ルソーの一般意志の達成には昨今のテクノロジーの発展が寄与する側面もあるが、単なる全体意志とならないよう市民全員が熟慮して決定を行う必要はあり、それをどのように制度的に担保するかという問題は残る。講義終了後の質疑応答編4回目。(全11話中第11話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:7分53秒
収録日:2020年8月17日
追加日:2020年11月26日
≪全文≫

●議会の決定に対しても制限をかけるべきと主張するモンテスキュー


―― 次は民主政についてお聞きしたいと思います。講義の中で、ルソーは直接民主主義を目指したと指摘されました。確かに当時は直接民主主義を実現することは難しかったと思いますが、現代に目を向けると、IT技術の発展とともに、例えば日曜日の8時に投票するように呼びかければ、全員が投票するということが可能になるかもしれないという状況になってきています。もし可能であるとすると、直接民主主義がもたらす新たな問題が浮かび上がってくると思います。

 先ほど、モンテスキューは民主政でも権力を制限しなければならないという指摘をしたというお話しがありましたが、ルソーとモンテスキューの二人の思想に基づけば、IT技術の発展により直接民主主義の可能性が考えられるようになった時代において、私たちはどのように正しい制度を形成することができるのか。二人の思想は、この問題についてどのようなヒントがあると思われますか。

川出 そうですね。モンテスキューの場合にはおそらく、全員が意志を表明してその結果として多数決で選択された決定が、正しいものとして独り歩きするという事態に対しては、強い警戒感を示すと思います。議会でつくられた法律に対しても、それを制限する別の主体が必要だという議論です。

 モンテスキューはそこまでは考えていませんでしたが、後々の制度でいえば、日本やアメリカの違憲立法審査権のような形で、人民による意志決定に制限をかける取り組みがなされています。議会に関しても制限をかけることを求める人なので、ましていわんやIT技術の発展をや、ということだと思います。例え可能になったとしても、その仕組みを警戒するのがモンテスキューの発想です。

 本当にそうした直接民主主義的な仕組みが実現してしまえば、なかなか簡単には批判できない正統性が付与されてしまいます。現在の制度では、一票の格差の存在や、実際には市民全員が一票を投じているわけではなく、代議員が投票しているだけに過ぎないといった形で、抜け道が多くあります。本当の民意は別にある、という言い訳というか、綻びは存在しているわけです。しかし、もし本当に全員が参加するとなると、そこで表明された意志は、それが本当に正確なら、非常に強力なパワーを持ち、その決定に逆らうのは難しいように思います。ですので...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「政治と経済」でまず見るべき講義シリーズ
外交とは何か~不戦不敗の要諦を問う(1)著書『外交とは何か』に込めた思い
外交とは何か…いかに軍事・内政と連動し国益を最大化するか
小原雅博
戦争と暗殺~米国内戦の予兆と構造転換(1)内戦と組織動乱の構造
カーク暗殺事件、戦争省、ユダヤ問題…米国内戦構造が逆転
東秀敏
日本の財政政策の効果を評価する(1)「高齢化」による効果の低下
高齢化で財政政策の有効性が低下…財政乗数に与える影響
宮本弘曉
習近平中国の真実…米中関係・台湾問題(1)習近平の歴史的特徴とは?
一強独裁=1人独裁の光と影…「強い中国」への動機と限界
垂秀夫
墨子に学ぶ「防衛」の神髄(1)非攻と兼愛
『墨子』に記された「優れた国家防衛のためのヒント」
田口佳史
ポスト国連と憲法9条・安保(1)国連の構造的問題
核保有する国連常任理事国は、むしろ安心して戦争できる
橋爪大三郎

人気の講義ランキングTOP10
逆境に対峙する哲学(1)日常性が「破れ」て思考が始まる
逆境にどう対峙するか…西洋哲学×東洋哲学で問う知的ライブ
津崎良典
豊臣兄弟~秀吉と秀長の実像に迫る(4)信長の直臣、秀吉の与力としての秀長
最初は信長の直臣として活躍――武闘派・秀長の前半生は?
黒田基樹
「アメリカの教会」でわかる米国の本質(1)アメリカはそもそも分断社会
「キリスト教は知らない」ではアメリカ市民はつとまらない
橋爪大三郎
葛飾北斎と応為~その生涯と作品(4)葛飾応為の芸術と人生
親娘で進歩させた芸術…葛飾応為の絵の特徴と北斎との比較
堀口茉純
生成AI「Round 2」への向き合い方(1)生成AI導入の現在地
生成AIの利活用に格差…世界の導入事情と日本の現状
渡辺宣彦
平和の追求~哲学者たちの構想(5)カント『永遠平和のために』
カント『永遠平和のために』…国連やEUの起源とされる理由
川出良枝
医療から考える国家安全保障上の脅威(1)「非対称兵器」という新たな脅威
フェンタニルの麻薬中毒も意図的な戦略?非対称兵器の脅威
山口芳裕
インテリジェンス・ヒストリー入門(1)情報収集と行動
日本の外交には「インテリジェンス」が足りない
中西輝政
人の行動の「なぜ」を読み解く行動分析学(1)随伴性
「なぜ人は部屋を片付けられないか」を行動分析学で考える
島宗理
熟睡できる環境・習慣とは(4)起きているときを充実させるために
夜まとめて寝なくてもいい!?「分割睡眠」という方法とは
西野精治