政治思想史の古典『法の精神』と『社会契約論』を学ぶ
この講義シリーズは第2話まで
登録不要無料視聴できます!
▶ 第1話を無料視聴する
閉じる
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
社会契約論はナンセンス?…ホッブズの発想から考える
『法の精神』と『社会契約論』を学ぶ【質疑篇】(2)社会契約論の現実
川出良枝(東京大学名誉教授/放送大学教養学部教授)
社会契約論の言葉自体は広く日本人の間に膾炙しているが、その発想はかなり人工的なものであり、なかなか受け入れがたい。実は社会契約論の淵源は、内戦期に国家の存在が動揺していた中でホッブズが国家の基盤を問い直したことにある。この考え方は、ルソーとモンテスキューが共通の敵とした専制政治を攻撃するためにも有用であった。ルソーは、社会契約論に基づき、専制政治から脱却して理想の政治体制を創造できると信じていたのである。講義終了後の質疑応答編2回目。(全11話中第9話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:6分52秒
収録日:2020年8月17日
追加日:2020年11月14日
≪全文≫

●「ナンセンスだ」と切り捨てられた社会契約論という発想が出てきた背景


―― 加えて、今回のシリーズの中で政治学的に日本人がなかなか理解し難い部分について質問したいと思います。

 一つは「社会契約論」という考え方です。各人が自由であるけれども、国家をつくるに当たって契約を結ぶという考え方は、日本人的にはなかなか頭では理解できても腑に落ちない部分があると思います。日本の成り立ちにもよると思いますが、どちらかというと自然発生的な国家という考え方が強く、社会契約論だけでなく、自然権などに関しても、馴染みづらさを感じると思います。ヨーロッパの人々は、この議論をどのように受容しているのでしょうか。

川出 社会契約論は、ある時期には活発に論じられましたが、まさに今指摘されたような批判は、ヨーロッパ人の中でも多く見られます。モンテスキューもそのような日本人的な感覚にやや近いというか、放っておいても少なくとも家族は形成され、寄り集って地域の共同体も形成されていく。国家はその延長線上にあるという考え方です。他にも著名な人を挙げれば、例えばエドマンド・バークやヒュームは、「社会契約論はナンセンスだ」と切り捨てました。

 では、なぜそのような発想が出てきたのでしょうか。さまざまな人が主張していましたが、一番の大元はシリーズ講義にも出てきたトマス・ホッブズです。ホッブズが、人間の自然的な自由、平等、そして契約によって国家をつくるという議論をした最大の理由は、人間は自然に共同体の中に生まれ落ちて、そこにおいて自己実現していく、放っておいても国家はあらかじめ存在しているという、アリストテレス的な人間観や政治観を当然のように受け入れるのはおかしいと批判したかったためです。ルソーはその点でホッブズと同じスタンスを取っています。

 実際にそのような自然状態があったのか、あったとしても、では歴史の中で契約はいつ結ばれたのかという類いの批判はいくらでもあり得ます。しかし、むしろそのように国家を捉えようという発想を評価すべきです。


●内戦に伴う国家の存立の危機がホッブズを社会契約論に駆り立てた


川出 ホッブズがそのような議論を発展させたのは、内戦期でした。国家はほとんど崩壊しかねない状況で、真っ二つに割れて戦争していました。そのような経験をする中で、国家が普通に存在するという前提に対...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「政治と経済」でまず見るべき講義シリーズ
グローバル環境の変化と日本の課題(1)世界の貿易・投資の構造変化
トランプ大統領を止められるのは?グローバル環境の現在地
石黒憲彦
2025年、どん底日本を脱却する大戦略(1)日本が凋落した要因を総覧する
日本凋落の「7つの要因」と「10の復活大戦略」
島田晴雄
トランプ・ドクトリンと米国第一主義外交(1)リヤド演説とトランプ・ドクトリン
トランプ・ドクトリンの衝撃――民主主義からの大転換へ
東秀敏
お金の回し方…日本の死蔵マネー活用法(1)銀行がお金を生む仕組み
信用創造・預金創造とは?社会でお金が流通する仕組み
養田功一郎
外交とは何か~不戦不敗の要諦を問う(1)著書『外交とは何か』に込めた思い
外交とは何か…いかに軍事・内政と連動し国益を最大化するか
小原雅博
多数派が多数でなくなるとき
悩める多数派…なぜ「多数は少数の集まり」と考えるべきか
曽根泰教

人気の講義ランキングTOP10
「宇宙の創生」の仕組みと宇宙物理学の歴史(1)宇宙の階層構造
「宇宙の階層構造」誕生の謎に迫るのが宇宙物理学のテーマ
岡朋治
歴史の探り方、活かし方(2)図書館「レファレンス」の活用
図書館の便利な活用法…全国の図書館からの「お取り寄せ」
中村彰彦
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(3)認知バイアスとの正しい向き合い方
知ってるつもり、過大評価…バイアス解決の鍵は「謙虚さ」
今井むつみ
エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(2)量子論と空海密教の本質
脳内の量子的効果――ペンローズ=ハメロフ仮説とは
鎌田東二
編集部ラジオ2025(27)なぜ何回説明しても伝わらない?
なぜ伝わらない?理解の壁の正体を今井むつみ先生に学ぶ
テンミニッツ・アカデミー編集部
デカルトの感情論に学ぶ(2)感情をコントロールするには
恐怖をなくす方法と感情のコントロール…デカルトの考え方
津崎良典
内側から見たアメリカと日本(2)アメリカの大転換とトランプの誤解
偉大だったアメリカを全否定…世界が驚いたトランプの言動
島田晴雄
徳と仏教の人生論(1)経営者の条件と50年間悩み続けた命題
宇宙の理法――松下幸之助からの命題が50年後に解けた理由
田口佳史
ChatGPT~AIと人間の未来(1)ChatGPTは何ができて、何ができないか
ChatGPTは考えてない?…「AIの回答」の本質とは
西垣通
戦争と暗殺~米国内戦の予兆と構造転換(1)内戦と組織動乱の構造
カーク暗殺事件、戦争省、ユダヤ問題…米国内戦構造が逆転
東秀敏