●「液性免疫」と「細胞性免疫」の仕組みとその違い
―― 先生、ありがとうございました。
内田 ありがとうございます。
―― いくつか質問させていただきたいと思います。一つはワクチンの話にあった「液性免疫」と「細胞性免疫」についてです。これについてもう少し詳しく説明いただきたいと思います。基礎的な質問ですが、そもそも液性免疫と細胞性免疫はどのように違うのか教えていただけますか。
内田 液性免疫は、すなわち抗体を意味します。皆さんがよくご存じの抗体を意味していて、抗体があると何が起こるかというと、例えばコロナウイルスだったら、抗体はウイルスの表面にベタベタくっ付きます。そうすると、ウイルスはどんどん感染できなくなってしまいます。そのように、ウイルスの感染する作用を抑えるのがこの液性免疫です。
もう一つの細胞性免疫は何かというと、ウイルスに一度感染するとウイルスがどんどん広がっていくことが問題ですが、これを広げないために、ウイルスに感染した細胞をどんどん攻撃していきます。そうすると、ウイルスはそこからさらに他の細胞に移りにくくなります。つまり、ウイルスに感染した細胞をどんどん攻撃することが、細胞性免疫の重要なメカニズムです。
―― これは過剰に攻撃してもまずいですよね。
内田 そうですね。ただ、ウイルスがない限りはウイルスがない細胞に対して攻撃することは基本的にないので、そういった点では大丈夫だと思います。
―― そういう意味での危険性はあまりないという認識でよろしいでしょうか。
内田 そうですね。もう一つ重要な点は、ウイルスに感染した細胞を攻撃するだけではなく、それを記憶しておけることです。いろんな細胞が免疫に関わっていますが、実は細胞は抗体がなくなっても細胞自体は残っていて、次に同じウイルスが入ってくると、その細胞が覚えていた記憶をまた呼び起こして、すぐにそのウイルスに対して攻撃できます。そういったことも細胞の一番重要なところです。抗体は時とともにどんどんなくなっていきますが、細胞はそれより若干長生きして、ウイルスが前にやってきたことをちゃんと覚えているといえます。
―― なるほど。単純化していいのか分かりませんが、液性免疫が一種ブロック的な働きで、細胞性免疫が攻撃性を持つイメージで良いでしょうか。
内田 そうですね。そういうものです。
●遺伝子配列が高速で解読できる時代
―― ありがとうございます。次にお聞きしたいのが、新型コロナウイルスのワクチン開発についてです。今のお話を聞くと、中国で2019年の12月31日に報告されてから、ちょっと素人では考えられないスピードでどんどん展開していっていると思ってしまうのですが、なぜこういうことが可能なのでしょうか。
内田 実は、遺伝子配列を読むことは現在の技術で非常に簡単になりました。もしかしたら2000年代初頭にヒトゲノムが全部解読されたというニュースを覚えている方がいるかもしれないですが、その時の遺伝子配列の解読スピードと、今の遺伝子配列の解読スピードは、もう何桁も違います。ものすごく速いスピードで遺伝子配列が解読できる時代になったので、配列を解読すること自体は非常に簡単にできるのが一つのポイントです。
―― ちょうど上の表で見ると、12月31日に報告があり、実際にその10日後の1月10日には解読されてしまったということですね。
内田 そうですね。たぶん実際は解読されたという報告が10日なので、解読するだけだったら本当にもう1日~2日でできていたのではないかと思います。それほどのペースでできます。
―― そうですか。さらに、このワクチンの設計を決定するのが1月13日になっていますが、これは誰が決定するのでしょうか。
内田 それはもう配列があったら分かります。実はコロナウイルスは新型コロナウイルスが初めてではありません。2003年頃にあった「SARS(サーズ、重症急性呼吸器症候群)」と呼ばれているものや「MERS(マーズ、中東呼吸器症候群)」があり、そういうものに対する知識がありました。
ウイルスにはいろんなタンパク質がありますが、それのどこを標的にしたら良いかはもう誰が考えてもすぐに分かります。スパイクタンパク質がそうですが、どこを標的にすれば良いかが分かるので、その配列をそのまま使うだけでいいという仕組みになっています。そこがそれだけ速くできるのがmRNAワクチンの一番の特徴です。
―― そのおかげでといいますか、その後、2月2日にはもう製造に成功しているというのは、まさにその蓄積があるからこそですね。
内田 そうです。いろんなウイルスに対して、ウイルス自体に対する研究の蓄積もmRNAワクチンについての蓄...