●遺伝の力には3つの特徴がある
今回は、遺伝の力あるいは遺伝子の力についてお話をさせていただきます。
遺伝(遺伝子)の力の特徴は、スライドにもあるように、まずは何をおいても「変わらない力」であること、変わらずそこにいる力です。次に、そのことによってわれわれを「守ってくれる力」です。これはもちろん、子どもの成長や発達、すなわち子育てにも役立つ力です。
そして3つ目に、これは意外にご理解いただいていない点かもしれないのですが、遺伝の力には「ばらつきがある」ということです。その「ばらつき」は悪い意味ではなく、素晴らしい個性を生むという意味での「ばらつき」ということです。
これらの点について、次のスライドを用いてお話を進めていきたいと思います。
●正常なものには必ずばらつき、個性がある
前回のお話で、子どもの育ちには「成長」すなわち形がつくられる過程と「発達」すなわちそこに機能が宿っていく過程の2つがあるということをお話しさせていただきました。
まず最初に、形がつくられる過程(成長)において、遺伝子の力がどのように強く働いているかの例を、ここでお示ししています。
ここにある3つのグラフは、母子手帳を見たことのある方であれば皆さんご存じのものだと思います。左側の2つのグラフが、1歳から18歳までの身長と体重の右肩上がりの増加、そして右は意外に重要なものなのですが、頭の大きさ(頭囲)の成長曲線です。
よく見ていただくと、3つのグラフそれぞれに7本の線があることにお気づきだと思います。7本の線の真ん中(上からも下からも4番目の線)が平均値です。平均的な身長、平均的な体重、平均的な頭囲ということになります。
このグラフで一番大事なことは、一番下の一番小さいところのラインです。これは異常だということではなく、正常なお子さんの中の小さいほうのお子さん、具体的には100人お子さんがいたとしたら、身長が前から3番目、あるいは体重が小さいほうから3番目、頭が小さいほうから3番目という意味です。一番上のラインは、大きいほうから3番目ということで、100人のいずれも正常な子どもたちを集めたときの順番のグラフということです。
ただ、このグラフをパッと見ると、面白い現象なのですが、身長が上のほうにずれていると「よかった」とご両親は思うのです。でも体重が上のほうにずれていると「もっと痩せなきゃ」と感じ、下のほうにずれていると少し安心したりしませんか。
頭も、もしかすると小顔がいいということで、小さいほうで安心される方がいらっしゃるかもしれません。でも、場合によっては、頭が小さくて心配される方もいらっしゃるかもしれません。
頭囲・身長・体重いずれの場合も、これら7本の線は、全部正常な子どもたちのデータだということをよく理解していただきたいと思います。
それからもう一つ、今日のお話は「遺伝(遺伝子)の力」というテーマですけれども、これらの数字(特に頭囲)は、遺伝の力であらかじめ決められた部分が多い、というところです。
7本の線のどのラインに沿って、お子さんが成長していくかということは、主にお父さんやお母さんの身長や頭の大きさから決まっていることであるということです。それにはもちろん誤差はあるのですが、遺伝の力で、こういった成長のパターンがある程度決まっているのだということは、ご理解いただきたいと思います。
また、左の下のグラフは体重です。体重は、食事によって影響を受けるということも十分御存じだとは思うのですが、一方でしっかりと栄養をとっていても、具体的な体重になったときには、実はそれも遺伝子の影響をある程度受けているということです。
裏を返しますと、子どもの成長(背が伸びる、体重が増える、頭囲が大きくなる)はいずれも素晴らしいことなのですが、それらはかなりの部分、ご両親からいただいた遺伝子の力で守られている。つまり、最低限の成長は遺伝子の力で守られているということで、だから、多少栄養が足りなくても、すくすく育つようにできているのだ、ということはご理解いただきたいと思います。
さらに、このグラフに今、赤い縦の矢印が出てきたと思います。このぐらい幅があるというメッセージです。これは文字でも書きましたが、これら7本の正常なラインから見て取れることは、遺伝子が決めている「正常なものには必ずばらつきがある(個性がある)」ということです。
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