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「自分らしさ」の発見は、型にはまってみることから始まる

生き抜くためのチカラ~為末メソッドに迫る(5)「自分らしく」生き抜くためのヒント

為末大
一般社団法人アスリートソサエティ代表理事/元陸上選手
情報・テキスト
宇宙に行くというようなインパクトのある経験は、人々の人生観に多大なる影響を与えることがある。では、人生観を見直すには地球を離れる以外に方法がないかといえば、そうではない。自分が小さい存在であることを自覚してみたり、あえて自分らしさを捨てて、型にはまってみることで見えてくる世界があるという。(全6話中第5話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:16:20
収録日:2021/06/30
追加日:2021/10/08
≪全文≫

●失敗も成功もリセットする


―― あとは、勝ち負けの捉え方ですね。自分自身の判定をどうするかというところになってくると思うのですが、例えば、「『負けぐせ』をつけない」というメッセージですとか、「失敗や挫折だけではなく、成功もちゃんとリセットする」ともお書きになっています。

為末 「『負けぐせ』をつけない」というのは、われわれの世界ではすごく重要なことで、人間は自分で社会的な役割、レッテルを自分で貼ってしまうところがあります。だから「こういうときに自分は勝てないんだ」と思うと、毎回その場所に自分を落ちつけにいくようなこと、その椅子に自分を座らせにいくようなことをやるのです。

 だから、それを書き換えるのが本当に大切です。強いチームでよく起きることは、選手や競技力などを三角形で捉えると、トップに入った選手がより強くなっても、チームはあまり強くならない。真ん中くらいにいた選手が上に上がっていくと、「自分と同じくらいの競技力だった人間がああなったのだから、自分もなれるのではないか」というように、わっと上がっていくわけです。自分の本当の限界ではなく、自分自身に役割を担わせ過ぎないというのでしょうか。それがとても重要だなと思います。

―― あと、非常に具体的で分かりやすかったのが、「成功も失敗も1週間で捨てる」ですね。先ほどの「成功もリセットする」ということと通じるところがあると思いますけれども、これはどういう意味なのでしょうか。

為末 成功と失敗のどちらも、ズルズル引きずってしまうと、良いことがない。負けたことをズルズル引きずったら、そもそもくよくよしていて良くないねという話なのですが、成功したことをぐるぐる、ズルズル引きずると、成功体験に酔っていくわけです。成功体験の何が問題かというと、本当は何が成功の要因だったかなんて分からないわけです。でも、人間は成功したときには、どうしても頭の癖で「成功したのだから、何かいいことをやったはずだ」と、勝手に自分で結び付けてしまうのです。荒唐無稽ですけど、「3日前にそばを食べたから勝ったんだ」とか、そんな感じで結び付けてしまうわけです。

 もう1つややこしい点が、成功したときには、周りの人が「そうだ、そうだ」と言うことです。「そんなわけないでしょう。そばとは関係ない」と言う人はけっこう少ない。結果論なので、結果がいいと誰も何にも言わない。そうすると、勝手に誤学習してしまったものが強化されて、ある日、「そばなんて関係なかった」というように、競技力が落ちて負けるまで、気づくまで、ずっとそれが続いてしまうという問題がある。だから、成功しても失敗してもリセットして、冷静になってみる。

 もう少し言い方を変えると、負けているときには、どうしても問題があったと考えすぎてしまうのをリセットする。勝ったときには、全部よかったのだと思いすぎるのをリセットすること。これが大事だということです。


●自分がちっぽけな存在であることを認識する


―― 今までいろいろとお聞きしまして、最後にお聞きしたいのが、本当に「自分らしく」生き抜くためのヒントというのはどういうものだろうかということです。非常に印象深かった言葉が、「『ちっぽけな自分』を感じられる経験をする」になります。

為末 これはよく言われることですが、私が感銘を受けたものだと、立花隆さんが『宇宙からの帰還』という本を書かれていて、アメリカのアポロ計画とかで宇宙に行った宇宙飛行士の方たちが帰ってきて、人生観がどのように変わったか、少し宗教的なものの見方がどう変わったかという話題が入っているものです。共通しているのは、ほとんどの方が、日常の細かいこと、または国境というものが、いかにバーチャルだったかに気づいたと言っていることです。

 宇宙まで行くと、人生自体にドーンとインパクトがあるのだと思うのですが、そこまで行かないにしても、私たちは自然と小さな違いを見つけたり、社会が決める枠組みの中に自分がはまりに行って、はまればハッピー、はまらなかったら自分に問題があるのではないかと悩んだりするということにとらわれていくと思うのです。

 一方、大きな枠組みで捉えてみると、本当に小さい世界で起きている出来事であって、そこからはみ出たりすることは、時間軸的にも、集団としても、大したことではないのではないかと感じる、それだけで、見方がずいぶんと変わってくると思うのです。私たち全員が宇宙飛行士になるわけにはいかないので、私たちにできるのは、定期的に自分がちっぽけなんだなと思う大きな時間軸や、それから実際に距離をとるために夜空を眺めてみるとか、そ...
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