●健康経営を持続可能な取り組みにするためのプロセス
これが最後になりますが、健康経営を持続させるらせん状上昇サイクルを「ポジティブスパイラル」といいます。例えばAからBに行くだけではなく、AからBに行って、さらにBがまたAにフィードバックされてどんどん良くなっていく、そうした関係性があるという話です。
(スライドを使って)簡単に説明します。健康経営ブランディングの仕組みに基づく実践プロセスは、先ほどの企業ブランディングの枠組みで健康経営に取り組んでいくという「健康経営ブランディング」のアプローチで考えると、まずそのビジョン、価値観を理念に掲げて、内外にトップマネジメントがコミットして発信していくことから始まります。
この際に、当然内外の現状に傾聴します。今、組織はどういう状態で、これからどこに行こうとしているのか、そして社会は何に期待しているのかを確認します。特に健康経営では、社会が健康経営にどんな期待をしているのかを、専門家である産業医の先生方やオピニオンリーダーの話なども聞いて、健康経営を取り入れたビジョンをどうするか、価値観に従業員の健康をどう取り入れていくかを考えて、それを発信します。
それができると今度は、そのビジョンに基づいて組織の文化・能力、仕事の資源を動員して、再編し、強化する、ということが行われます。そして、企業ブランドの理念に共感する人材を採用していきます。理念、ビジョンに対する共感・共鳴そのものが、共感・共鳴した方々のモチベーションや健康にまでプラスになることが分かってきています。例えばA社、B社、C社という会社があって、A、B、C社の価値観が異なっていると考える場合には、A社の理念のほうがB社よりも良い・悪いという問題ではなくなります。その際に極めて重要になってくるのは、どの会社の理念が一番合うか、つまり自分の価値観にフィットすると考える人たちを採用していくことです。
あまりこういうことを意識しないで採用活動をしている会社では、例えば英語ができる・できない、IQの高い・低いという分かりやすい能力を見ています。そういうものとは少し違う次元でもしっかり採用を考えるべきだということを、健康経営は示唆しています。そして、時間がたつにつれて価値観や企業理念は揺れ動くので、今いる方々や後から入ってきた方々に対して、それをしっかり内在化してもらう取り組みは、定期的に継続して実行していかなければいけません。
そこで重要なのは社員のワーク・エンゲイジメントです。前回説明したワーク・エンゲイジメントによって健康を高めることを、組織としてしっかりと実現していくための取り組みをすることが必要です。それによって生産性が高まっていきます。生産性が高まっていることをしっかりモニタリングして、何か問題があればまたフィードバックして、どこに問題があるのかを確認します。
そして、企業ブランドの理念が実現されて、次のビジョンに移ります。ビジョンは定期的に刷新されていくので、これまでやってきたもの、あるいは過去に掲げたビジョンがすでに実現されたのであれば、次に向かうためのビジョンに、それがまたフィードバックされて、より良いサイクルが回っていくことになります。
それによって、スライド内のモデルの真ん中部分にある、個人の企業ブランド理念への共感・共鳴と、活力・熱意・没頭といったワーク・エンゲイジメントの向上、そしてバーンアウトが緩和されていきます。どんどん成果を上げていること、そして中にいる人たちが生き生き働いていることといった外部の評価がまたフィードバックされます。これが相互作用して、ポジティブスパイラルにつながっていくモデルです。
●日本における健康経営ブランディングの実践的な取り組み
特殊といえば特殊ですが、事例として非常に分かりやすいのが製薬会社のエーザイです。この間、非常に大きなイノベーションがありました。認知症に対する有効な薬ができるということで、グローバルにも大変注目されている会社です。
ここは代表執行役CEOの内藤晴夫氏の下、「エーザイ・イノベーション宣言」を高々と謳って、ヒューマン・ヘルスケア(hhc)を企業理念としてコミットしています。2005年には株主総会にて、企業理念を定款にも取り込みました。「株主様もその経営理念に共感・共鳴する方を集めたい」ということで、積極的に株主向けに発信して、それに共鳴してくださる方々が株主としてコミットした投資をしてくれるということです。
また、製薬会社ということもありますが、患者さまに...