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禅がスティーブ・ジョブズの哲学に与えた影響とは

スティーブ・ジョブズの成功哲学(9)なぜ「禅」に魅せられたのか

桑原晃弥
経済・経営ジャーナリスト
情報・テキスト
『なぜジョブズは禅の生き方を選んだのか?』
(桑原晃弥著、藤原東演著、PHP研究所)
スティーブ・ジョブズが若い時から東洋の思想に強く影響を受けていたことはよく知られている。ジョブズはどのようにして禅に出会い、それは製品にどのような影響を与えたのか。ジョブズの死生観や時間の感覚などから、ジョブズと禅の関係について考える。(全9話中第9話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:15:28
収録日:2022/03/15
追加日:2022/06/18
≪全文≫

●親から離れるために、リード大学に進学する


―― 続いて、「ジョブズはなぜ「禅」に魅せられたのか」ということです。

 いよいよ禅のお話です。最初の言葉が、大学に入学したことについてです。1番目が、「自分には親なんか必要なかった。ケンタッキーから来たみなしごみたいになりたかったんだ。人生はいったい何なのか、その答えを見つけたかったんだ」ということです。

桑原 ジョブズの場合は成績も良かったですし、普通だったら地元のスタンフォードに進むと思うのですが、親から離れたかったとものすごく言っています。友人のジョン・コトケによると、この当時のジョブズはまだ人生に悩んでいて、自分は何者かをものすごく模索していたと言っています。非常に悩んだ末に、親元から遠く離れた場所にあえて進んだのだと思います。

―― 2番目が、「ロバート・フリードランドのように、悟りという境地が存在していることをはっきり確信している人に出会ったのは初めてだった。そのことに感激し、すごく好奇心をそそられた。しかし、実際には「正真正銘の山師」だった」ということです。

桑原 これは、リード大学に主(ぬし)のように存在していた人間です。いろいろな悟りのことや、宗教的なことを非常に説明してくれて、最初はこの人間に惹かれたと言っています。最初は少し魅せられたのですが、しばらくして、とんでもない奴だということが分かります。リード大学はそういう人たちが集まってきやすい大学だったといえると思います。

―― リード大学を選んだのは、ジョブズ自身も必ずしもそういうものに興味があったからというわけでもないのでしょうか。

桑原 おそらくですが、文化的な大学なので、エンジニアなどで目指すわけもなく、またどこかの企業を目指すわけでもありません。また、ハーバード大学へ行って金融機関へということでもなく、まだ何者になりたいかが本当に分かりませんでした。そうした中で一番興味があったのが、そういう精神的なものだったのでしょう。


●仏教に興味を持ち、禅の思想に魅了されていく


―― 続いて3番目です。大学時代です。図書館で仏教関係の本を読み漁って、禅に魅せられるようになっていきます。この言葉が「禅は知的理解よりも体験に価値を置いていた。僕は知的、抽象的な理解より、もっと意義のあるものを発見した人々に非常に興味を持った」ということです。

桑原 これはリード大学でいろいろな人に出会って、いろいろな人の話を聞くうちに、仏教、特に禅にとても魅力を感じました。エンジニアリング的なものだったら、普通はそこにあるものに非常に関心を持つのでしょうが、ジョブズの場合にはそうではないものにも魅力を感じていました。それが後々、すごい製品につながっていきます。このときの経験が、ジョブズというよりも、アップルという独特の会社、製品を生み出した一番の原因なのではないかと思っています。

―― 続いて4番目です。大学を卒業してゲーム会社のアタリに入ります。インドへ行く費用を稼ぐことが目的だったと言っています。「1カ月やそこらで悟りの開かれるようなところは、見つかるはずがなかった。僕はこのとき初めて恐らくトーマス・エジソンの方がカール・マルクスやニーム・カロリ導師の2人を合わせたよりも、もっとこの世の中をよくするのにずっと役だったろうと考え始めた」ということです。

桑原 アタリ社は当時売り出し中のゲームメーカーです。そこに夜勤のエンジニアとして、パートというか、今でいうと派遣のような日雇い的な形で入りました。この時の一番の目的は、とにかくインドへ行くことです。当時、アメリカの西部のそういう人たちにとっても、インドは憧れの地でした。そこに実際に仕事にかこつけて行きます。そこでいろいろな人に会うに従って、先ほどの山師的な、ちょっと信頼に値しない導師にいっぱい巡り会うことによって、「ものをつくることのすごさ」を何となく悟っていったと。そういう時期だと思います。

―― なるほど。次に5番目です。アップルを創業し、アップルを続けるか、日本の永平寺に行くか迷っていたということです。

桑原 そうですね。

―― 「こうすべきだと自分が思うとおりにできるチャンスが次第に出てきた」ことでアップルを続けることにします。これはいつぐらいの時期のお話ですか。

桑原 これはアップルを創業して、アップルⅠが非常に売れたので、これからアップルⅡ、あるいはアップルをきちんと会社にしていくかどうかなどについて迷っていた時です。結局、ジョブズ自身は元々大企業に入る気は全くありません。そして、エンジニアという仕事を続けるかどうかの迷いもありました。また、説得されて止めるのです...
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