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アフォーダンス理論によるメタバース実体験のススメ

ゼロからわかるメタバース(7)アバター対談〈下〉

廣瀬通孝
東京大学名誉教授
情報・テキスト
ヘッドセットをつけてアバターに移入し、実際にはない空間を体験すると、五感の変化に敏感になってくる。「ここをこう変えてみれば」という議論は机上ではなく、実際に体験しているからこそ出てくるものもある。メタバースの無限の可能性に向けて、まずは体験してみることが必要なのである。(全7話中第7話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:15:02
収録日:2022/03/10
追加日:2022/11/09
タグ:
≪全文≫

●分身アバターの身体感覚


―― おそらく今ご覧いただいている皆さまには、廣瀬先生のアバター(hirose)と私のアバター(kawakami)が対談しているのが見えていると思います。私のヘッドセットの中には先生しか映っていませんので、まさに先生と向き合ってしゃべっているという感覚です。

廣瀬 そうですね。

―― ヘッドセットをつけてこの空間を体験しているのと、外から見ているのとでは、たぶん変わってきますよね。

廣瀬 第三者の視点で見ると変わってくると思います。また、(当事者の)われわれが下を見ると自分の身体が見えてきます。自分の身体が見えるというのは、今までのメディアではなかったことです。

―― 確かにないですね。しかも本当の自分ではなく、違う格好をした自分が見えてくるということですね。

廣瀬 前回申し上げたように、レゲエのおじさんになると自分の行動が変わります。今までのPCだと、レゲエのおじさんになったということをどうやって自分が分かるのか。鏡でもない限り、分からないではないかと思うはずです。

―― あとは画面上にキャラクターが出てきて、そのキャラクターを見ながらプレーするということですね。

廣瀬 けれど自分自身というのは、本当は見えないですよね。

―― はい、見えないですね。

廣瀬 リアルワールドの中では、例えばコスプレをやっている人たちなら、なんとなく自分がこう見えると分かります。それは、瞬間的に鏡を見るということかもしれないけれども、少しずつ下を見ることで、「自分は今、背広を着ている」と確認している。それと同様のメディアだということです。

―― これは、本当に「百聞は一見にしかず」の典型的な例ですね。


●動きがリンクすると感覚が変化する


廣瀬 「洋服が変わると行動が変わる」というのは若い学生が始めた研究で、私も最初は不思議に思っていました。PCでは見えない自分の身体が、どうすればそんなに見えて、よく分かるのか。ところが、(ヘッドセット)HDをかけてみて初めて「あっ、そういうことか」と分かった気がします。

―― 確かにそうですね。

廣瀬 事ほどさように、こういうものは体験しないといけないわけです。逆にいえば、メタバースブームになっている今、「メタバースは何でもできる」と思っている人たちも結構多いと思いますが、実際には技術的な課題もたくさんあるということです。例えば、今日のカメラ・クルーの方たちは相当苦労してこの位置を設定したりしています。

―― そうですね。本当によくやってくださいました。

廣瀬 ゆくゆくはこういったことは笑い話になっていくと思いますが、実際はそういうところです。たぶん理想的にリアルワールドに近づけるとすれば、私が手をパッと上げたときには手が上がらないといけないのですが、この環境では残念ながらまだ手の動きはなくて、ぶらんとした状態になっています。それに、「うんうん」とうなずくのはいいけれども、ちょっと横を向くと身体全体が動いてしまう。なかなか不思議な状態の中にあります。

 それから、ある環境だと歩くことができるけれども、今この環境では歩くことはできません。このあたりのことは、みんなで一緒になってつくっていかなければいけないのだろうと思います。だから、その入り口に立ったという感じだと思います。

―― そうですね。確かに今先生がおっしゃったように、この環境は急遽おつくりいただいたもので、手も動かないということではあるのですが、ここに身体の動きがリンクしてくると、また感覚が変わってくるところもあるでしょうね。

廣瀬 全然違うと思います。後から私自身の身体のモーションをつけると、また違った感覚になるのかもしれません。実は最近、研究で面白いことをやっています。今私はこうしてお話をしていますが、身体だけを二人羽織のように他の人から動かしてもらう。そういうこともできるわけです。「融合身体」といって、非常に多くの人から操り人形のように私の身体を動かしてもらう。これは体験のないことですから、面白いかもしれないですね。


●自分のアバターは、どうつくり、どう使う?


廣瀬 新しい生活パターンができてくるというのは、結局そういうことだと思います。

 それから、もう1つ面白いのは、今回アバターをつくっていますが、「それを何に使いますか」と改めて聞くと、分からないのではないかというところです。例えば、3Dプリンタか何かを使って自分の人形を作ってみるのはすぐ思いつくことですが、自分のものをつくっても、それほど面白くないかもしれません。ですから、正直なところ、あまり使い道は分かりません。それでも、自分自身の人形が肖像画的にできるということ自体、何かうれしいですよね。

―― 自分を客観的に見ているようで、なんとも言えない気分...
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