●オーガニックで差別化を図り、OEM依存から脱却
―― 続きまして、3つ目の事例ですが、IKEUCHI ORGANIC(イケウチオーガニック)さんという、愛媛県の今治タオルのメーカーですね。
夫馬 はい。
―― オーガニックタオルということになると思うのですが、いかにしてオーガニックになっていったのですか。
夫馬 今でこそイケウチオーガニックさんは、今治本社で今治に工場がある、まさに今治ブランドの一角を担う企業なのですが、IKEUCHI ORGANICという社名を付けて、今でも使われているこのブランドは、あの今治タオルブランドができる前に立ち上げたブランドです。なので、むしろ今治タオルブランドのほうが順番でいうとあとに出てきたブランドです。
もともと愛媛県の今治市はOEM(Original Equipment ManufacturingまたはManufacturer)の形ですので、今治ブランドタオルそのものは自社のブランドではなく、今治ブランドというブランドもない中で、たくさん生産して、他社のブランドで販売されてきたというのが、今治タオルの歴史です。
イケウチオーガニックさんも、バブル崩壊などいろいろな苦境の中で、一度経営が行き詰まり、経営再建を余儀なくされるという経験をされています。当時、まだ今治タオルブランドもない中でどうしていくのかという時、OEMからの脱却をしない限り自分たちで価格も決めていけない、製品ブランドも作っていけないということで、イケウチオーガニックを作っていきます。そして、そのタイミングであえて社名にORGANIC(オーガニック)という社名を入れました。もうこれからはオーガニック素材、オーガニックタオルの時代なのではないかということを、今の会長(代表)である池内計司さんがいろいろな方からお聞きしている中で発想されました。再建をしていくには自社のブランド、他社との差別化が必要だと。そこでオーガニックを使って、今非常に業績が伸びてきているのがイケウチオーガニックさんの現状です。
●日本のモノづくり企業には「販売チャネル」の壁がある
―― 先生の本を読んでいて非常に印象深かったのが、例えばオーガニックにしようとか、特徴ある製品にしようというときに、ぶつかる壁がすごく分かりやすく描かれていることです。OEMから自社にします、ブランドを確立しますというとき、ではどうやって売るのか。そのときにいわゆるEC、つまりインターネットなどで売ったらいいのではないかと言うと、まず数が出ませんと。
夫馬 そうですね。
―― では直営店を作ろうかということで、実際に東京と京都、福岡に作ったけれど、そうすると固定費がどんどんかかってしまうと。
夫馬 その通りですね。
―― このように、何をやっても壁を超えられないという会社は、おそらく多いのではないかと思うのですが…。
夫馬 日本のモノづくりをされている企業で、ここに悩まれる企業は多いと思います。販売チャネルの問題ですね。
今までなら、それはOEMや納品型であればそこにチャネルがあるので、とりあえず依頼をされたら納めることで売上は立つけれど、価格コントロール力がない。「御社は高すぎるので、もう次は厳しいよ」と言われたら、無理して価格を落とさざるを得ない。これが日本のいろいろな製品で起きていることです。
多くの企業で「自社ブランドが日本の中堅・中小企業の道だ」といわれますが、壁がここなのです。自分で販売チャネルを作らなければいけない。代わりに店舗に置いてもらおうと思っても、今までの流通チャネルは使えない。では自社店舗をつくるのか。中堅・中小企業の皆さんが店舗を作って固定費をかけるのは、財務的に非常に重くのしかかってきます。ここが壁なのですね。
●先んじて取り組んできた「ファン・ビジネス」と「イケウチな人たち。」
夫馬 イケウチオーガニックさんはこれをどう乗り越えてきたのか。実は10年以上の年月をかけて、この仕組みを磨き上げてきたのがイケウチオーガニックさんなのですが、シンプルにいうと「ファン・ビジネス」です。
―― ファン?
夫馬 ファンです。今でも企業では「これからはファン・エコノミー」だということがいわれますが、もう2000年代の頭からファン・エコノミー一本で追及してきたのがイケウチオーガニックさんの道なのです。
デザインでファンがつくか分からない。今治ブランドはまだ確立していない。さらに今治ブランドの他の企業に対しても、自社の独自性を出していかないといけない。その中でオーガニックだったのですね。当時、オーガニックにこだわっている方は今よりもさらに少ないけれども顧客層がある。ここに熱烈なファンがつく可能性がある。ということを見いだして、このファンをいかに獲得していくかに集中されてきたのがイケウチオー...