●激動の時代に一般市民の生活がほとんど変わらなかった古代中国への着目
―― 皆さま、こんにちは。
柿沼 こんにちは。
―― 本日は柿沼陽平先生に「古代中国の24時間」というテーマで、とくに食事に関して伺おうと思っております。柿沼先生、本日はよろしくお願いいたします。
柿沼 よろしくお願いします。
―― 柿沼先生は中公新書さんからこちらの『古代中国の24時間』という本をお出しになりまして、この本は相当売れているというか、流行っている本でございますね。
柿沼 もともと業界が狭いものですから、これをきっかけに少しでも多くの方に楽しんでもらえればなと思っています。
―― 私も拝読させていただいたのですが。あとで詳しくお話もお伺いしますけれども、日常史ということですよね。なぜ日常史なのですか。
柿沼 それは色々な事情があって、資料がございますので、それを早速ご覧いただければと思います。
―― では、早速そちらで話を進めてまいりましょう。こちら、先生に本日ご用意いただいた資料でございます。まずはじめに、中国古代史です。先生はもともと古代史のご専門ということでございますね。
柿沼 そうなのです。一般の方と同じというか、『三国志』が好きで、あるいは秦の始皇帝とか、漢の劉邦とか、そういう人たちをちょっとロマンチックに感じて研究し始めたというのが学生の頃です。そこから今でもそのことを研究しているということです。
中国古代史と言ったときに、歴史が大変長いのです。例えば今から3000年以上昔に殷王朝というものがございます。普通、歴史学だと、文字史料が登場してからのことを歴史学とか、歴史時代といいます。それ以前を先史時代というのですが、歴史時代というのは基本的に殷王朝から始まっています。この殷王朝の頃から古代史が始まったと一般的にはいわれていて、人によってはその後ずっと1500年以上続いて、遣唐使や遣隋使でも知られる隋とか唐と呼ばれる、西暦で言うと7世紀、8世紀のあたりまでを古代といっていいのではないかという人もいたり、あるいは漢王朝の時代で古代史は終わりだという人もいたりします。でも今回の本は、大雑把に秦漢時代というものにスポットを当てています。
―― こちらの資料でいうと、「秦漢帝国の時代」ということですね。
柿沼 そうですね。これでも十分長いと思われるかもしれませんが、秦漢帝国を合わせて400年ですね。いわゆる有名な『三国志』の時代というのは、この秦漢時代の後、数十年です。
―― 後漢の末ということですよね。
柿沼 そうですね。後漢の末から魏晋。魏晋の魏というのは三国時代の1つですから、このあたりの数十年間を含めて秦漢三国の時代ということがあります。僕はこの時代を基本的には「中国古代史」と呼んで、今研究しているということです。後で申し上げる日常史ですが、時代は今と一緒で激動の時代なのです。色々なことが起こるのですけれども、一般民の生活にはほとんど変化がないのです。戦国時代から、いわゆる今漫画で有名なのが『キングダム』。これがこの図でいくと秦の始皇帝の頃なので、秦漢帝国の時代と書いてある棒の一番左側です。一番右側が『三国志』の時代ということになるのです。いわゆる『キングダム』時代と『三国志』の時代は、もし皆さんがタイムスリップすると、ほとんど日常生活の風景は変わらないのです。そのことが本の中での一つの結論でもあるのですが、そういうことを論じたいと思ってこの本を書いたということです。
―― 先ほど、いわゆる先史時代と歴史時代の区分けもお話しくださいましたけれども、中国の場合ですと、もう殷の時代から文字は出てくるという形になるわけですね。
柿沼 そうですね。基本的には、実は中国は今、どんどん遺跡が発掘されていて、殷よりも前に文字らしきものがあるということにもなりつつあるのです。ところが普通に考えて、大多数の歴史研究者は恐らく殷で間違いないのだろうとは思っています。1つ1つ記号のようなものが出るのですが、結局今の言葉、文字というのは言語体系として文法がなければいけないですし、いっぱいサンプルがないと分析もできないわけですけれども、こういうものが出てくるのが殷王朝です。それ以前はほとんど出てこないということになります。
●「インション」研究の陰で目を向けられてこなかった古代中国の日常生活
―― そして次に中国古代史といえば?ということでございますけれど。
柿沼 そうですね。中国古代史といえば、皆さんどういうイメージを持たれますかということで、例えば学生さんにインタビューします。そうするとだいたい有名人が出てくる...