●電磁気学の発展によって大きく進展した脳研究
次に、もう一つの柱である、電気的な測定法について説明します。
生物が電気を発生するという現象、いわゆる「生体電気現象」というのは、実は発見が古く、1700年代に発見されていました。これは、カエルの足の筋肉が電気を受けるとピクピクと動くということから、実は生体というのは電気を使って信号や情報をやり取りしているのではないかということが分かってきまして、これが後に「電気生理学」と呼ばれる学問に発展していきます。これを見つけたのはイタリアのガルバニという人ですが、この研究に影響を受けた、同じくイタリアのボルタという人が電池を発明するに至ります。ボルタというのが今、電気の単位となっているボルトの元となったわけですが、この電池の発明を皮切りに、「電磁気学」という学問が発展して、われわれが今使っている家電だとかコンピューターとか、それからインターネットに続いていくわけです。
生体が電気を発生するということが最初にあって、そこから電磁気学が生まれたということが面白いと思いました。
このように、電磁気学の知見が高まって測定技術が発展すると、さらに新しい生体の電気現象が測定できるようになってきまして、これが非常に高まったのが20世紀です。20世紀は「電気生理学黄金時代」とも呼ばれていまして、筋肉だけではなくて、実は脳を作っている脳細胞、ニューロンが電気活動をしているということも次々と明らかになってきました。
この技術を皮切りに、脳の電気活動を測る技術が次々と発展してきまして、特に「細胞外記録法」は革命的な進展をもたらしました。これは、脳に電極を埋め込むことで、生きている動物の電気活動を測ることができるという方法です。これを使って、動物が迷路を解いていくときに、どのように脳活動をしているかということも分かってきました。
【参考動画】
https://youtu.be/lfNVv0A8QvI
これはその研究の一部ですが、迷路を解こうとしているラットが今、自分がどこにいるかということに応じて、別の細胞を活性化しているということを表している研究です。この研究から、脳の中には(特に「海馬」と呼ばれる脳の部位には)今、自分がどこにいるかということを表現している細胞がいるということが発見されました。これは「場所細胞」と呼ばれています。
海馬は記憶だけではなくて、空間情報も表現しているということが明らかになっています。これを発見したのはイギリスのジョン・オキーフという人で、2014年にノーベル賞を受賞しました。
このように、脳の電気活動を測る技術で数々のノーベル賞が生み出されておりまして、この分野は非常にホットな分野です。現在でも脳の電気活動を測るというところが非常にエキサイティングな研究分野の一つになっています。
先ほど(前回)も述べたように、現在では、髪の毛よりも細いワイヤーを何万本も脳に差し込むというような技術まで発展しており、まだまだこれからも発展を続けていく分野だと考えられます。
●電子顕微鏡の発達によって脳の細かな構造が明らかにされてきた
三つ目の柱である、顕微鏡技術について説明します。
脳も細胞からできているということが分かったのは、実はつい最近のことです。
まず、あらゆる生き物が細胞からできているということが分かってきたのは、1800年代の半ば頃のことです。これに対して、ゴルジという人が脳の細胞を詳細に観察しまして、脳も細胞からできているということを極めて詳細に記述しました。脳細胞といっても、無色透明です。どうやって見るかというと、ゴルジが発明した「ゴルジ染色」と呼ばれている硝酸銀を使った技術で、このように特定の脳細胞だけをまばらに染めることができます。さらに、この当時、発展してきていた顕微鏡を使うことで、脳の状態を詳細に記述することができました。
ゴルジやその弟子のカハールが、脳が細胞からできていて、ネットワークを作っているということを詳細に記述し、その功績がたたえられて、1906年にはノーベル賞を受賞しています。
当時は、神経細胞が一つ一つ融合してネットワークを作っているのか、それとも、何かすき間があって、そこでやり取りをしているのかというのはまだ分からなくて、論争があったわけです。
特に、ゴルジの弟子であるカハールはニューロン...