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DATE/ 2017.05.01

「警察手帳の中身」はどうなっているの?

「警察手帳」といえば、警察官が身分を証明するための道具。一般市民の大多数が、知っているようで知らないものの代表と言えるのではないでしょうか。それを「見たことはあるけれど、見たことがない」と形容しているのが『警察手帳』(新潮新書)の著者、古野まほろ氏。警察キャリア出身という経歴を持つ作家です。今回は、警察手帳についての私たちの思い込みや常識をあぶり出してみましょう。

実は手帳ではなかった「警察手帳」

 手帳でありながら、「『手帳』としては意味がないもの」。著者は警察手帳(旧型)に対する警察官の共通認識をそのように言います。一体どういうことなのでしょうか?

 普通、手帳は毎日どこへ行くにも持ち歩き、その都度スケジュールを書き込んだり、行動の記録を残したり、使ったお金をメモしたりします。つまり「書いた」ものを「見る」のが、手帳の主な使用法。ところが警察手帳では、書き込むことはあまり考慮されていません。一応白紙のページ(「恒久用紙」と呼ぶそう)はあるものの、そこには「書くなと言われていた気もする」とさえ、著者は言っています。

 警察官である証として「見せる」のが、警察手帳のほぼ唯一の役割。何かをメモする用途には、独立した「記載用紙」という紙束が用意され、書いたものを手帳に「差し込める」ようになっていたそうです。

実は変わっていた「警察手帳」

 警察手帳(旧型)と書いたことで、「新型もあるのか?」と思われた方もいるでしょう。そうです。警察手帳は2002(平成14)年より「バッジ型警察手帳」に切り替わっています。「身分証+エンブレムの機能に特化」され、「開かなければ使用できない」デザインになったと言いますが、ご存じだったでしょうか?

 従来の警察手帳はチョコレート色革製。表紙には金の代紋と都道府県警察の名前。開いた最初のページは写真に割印、氏名、階級、所属庁、職員番号と、パスポート様になっていました。

 新デザインはアメリカ合衆国警察の「バッジケース」にならい、手帳機能を一切なくしたもの。折り返して胸ポケットからエンブレムを見せている私服刑事の姿を報道番組などで見かけた方もいるのではないでしょうか。

実はヒモつきだった「警察手帳」

 警察手帳のデザインが変更されたのは、2000年前後に警察不祥事が続発していたためだと言います。デザインが変わり、ID用に特化したとはいえ、変わっていないこともあります。

 外側は従来通りチョコレート色革装ですが、シールを貼ったりデコレーションすることは禁じられています。それは、警察手帳が私物ではなく、「貸与」されているからです。そして、貸与品であるがゆえの鉄則が「なくさない」こと。

 そのため、手帳の片隅には紛失防止紐がつけられていて、衣服につないでおかなければなりません。警察官の制服の左胸ポケットには、警察手帳を確実に収納し、ロックする仕組みが付いています。でも、もちろん市販のスーツにはそんなものはないため、私服勤務の警察官は内ポケットのボタン穴などを利用するそうです。著者によると、このヒモは手帳をぐるぐる巻きにできる長さがあると言います。

実は使われていない「警察手帳」

 それほど厳重に管理しなければならないのは、万が一警察手帳を紛失すると、「すぐに悪用されてしまう」ことが心配だからです。でも、案外その手帳、実際に「使われている」現場にはお目にかかる機会がありません。

 それは警察に長く奉職した著者も同様だったそう。例えば警察庁警察官であれば、中央官庁内なので、警察官としての身分を市民に証明する必要がありません。地方警察であっても警視などの階級になり、外回りの必要がなくなると、貸与はされても保管庫に入れたまま、使用する機会がなくなります。

 見てみたいような、見たくないような警察手帳。その魅力は、やはり警察そのものの、わかっているようで、外側からはわからないシステムに由来するのでしょう。

<参考サイト>
・『警察手帳』(吉野まほろ、新潮新書)
(10MTV編集部)