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DATE/ 2017.07.10

『脳にきく色 身体にきく色』から学ぶ、色が人に与える影響

 色が人の心や体に与える影響を研究する「色彩心理学」という研究分野があります。色彩心理学は、ビジネスでも応用されており、たとえば、日本食糧新聞は、伊藤忠食品が惣菜デリカ市場の本格参入に向け、「色彩心理学に基づくカラフルなメニューで購入意欲を高める独自提案」に取り組んでいると報じています。

 色彩が食に強く影響を及ぼすことはよく知られており、色には味覚を変える力があるのです。視覚心理、照明環境が専門の芝浦工業大学工学部電気工学科教授・入倉隆氏は、著書『脳にきく色 身体にきく色』(日本経済新聞出版社)において、光の色温度が高く白っぽい明かりの照明環境にいると味覚が鋭くなり、甘みを感じやすくなると指摘しています。逆に色温度が低く黄色っぽい照明環境においては甘みの感覚が小さくなります。その代わり、唾液の分泌量が増えて消化を助けてくれるそうです。

プレゼンシートの効果的な色使い

 『脳にきく色 身体にきく色』には、ビジネスに直接活きるアイデアも載っています。たとえば、色には遠くから見て「見えやすい色」と「見えにくい色」があり、「黒地に黄色」が最も見えやすくなるそうです。黒地に黄色の配色は、交通標識など注意を強く喚起する場合によく使われています。

 ただし、文字を読みやすくするためには、「白地に黒」、「黒地に白」が適しているそうです。ふたつを比較すると、「黒地に白」のほうが読みやすさは優れており、これらの知識はプレゼンテーションや広告を作成する際に活用することができます。

記憶効果が高まる蛍光ペンの色

 忙しいビジネスパーソンは、日々なるべく短時間で、たくさんの仕事に活かせる知識や情報を吸収したいと願っていることでしょう。そんなときも色の知識があると役に立ちます。読書や勉強の際、マーキングするマーカーの色によって記憶効果が変化することをご存じでしょうか。

 研究結果によると、まず、「マーキングしない」より「マーキングする」ほうが記憶効果が高いことがわかりました。そして、「下線を引く」よりも「蛍光マーカーで文字を覆う」ほうが記憶しやすいこともわかっています。

 さらに、その色については、「マーキングの回数が少ない場合」はグリーン、「マーキングの回数が多い場合」にはピンクが適していることが判明したのです。ぜひ、試してみてください。

「調和感と社会的望ましさ」が最も高いビジネススーツの色とは?

 スーツはビジネスパーソンにとって戦闘服のようなもの。スーツの色、シャツとネクタイの組み合わせはその人の印象を左右します。色の知識はスーツ選びでも役に立つのです。

 調査結果によれば、ビジネススーツの色は、年齢問わず、紺色や灰色が「調和感と社会的望ましさ」を高めることがわかりました。年齢別でみると、20歳代の若い男性は、「普通からやや目立つもの」がさらに評価を高め、シャツやネクタイの色は「対照的な色でも似た色でも好ましい」という結果になりました。

 一方、50代男性の場合、ビジネススーツの色は「目立ちを抑える」ものと評価が高まります。シャツとネクタイの色は「似た色が好ましい」とされました。「調和感と社会的望ましさ」が最も高い組み合わせは、スーツが「紺色」、シャツが「薄い青色」、ネクタイが「くすんだ青色」でした。

 このほかにも色が人の心や身体に与える不思議な影響はたくさんあります。『脳にきく色 身体にきく色』は実践的なアイデアが盛りだくさんで、一読すると、色が想像以上に私たちの生活に影響を及ぼしていることがわかり、驚くことでしょう。何かに悩んだり、迷ったときは、色に注意を向けてみてください。案外、問題解決の糸口がすぐ見つかるのではないでしょうか。色の知識は仕事にも生活にも役に立ちます。色を制するものはビジネスを制する、といえるかもしれません。

<参考文献>
『脳にきく色 身体にきく色』(入倉隆著、日本経済新聞出版社)
http://www.nikkeibook.com/book_detail/26317/

<関連サイト>
芝浦工業大学 視覚情報研究室(入倉隆氏の研究室ホームページ)
http://www.sic.shibaura-it.ac.jp/~irikura/index.html

日本食糧新聞電子版:伊藤忠食品、デリカに色彩心理学 集客アップへ独自提案
https://news.nissyoku.co.jp/news/detail/?id=SHINODA20170615072051891&cc=01&ic=140

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渡辺宣彦
日本マイクロソフト株式会社 執行役員常務 エンタープライズ事業本部長