社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2017.07.31

「高タンパク質ダイエット」で選ぶのは肉か魚か

 「体をつくる」だけではなかったタンパク質の効用、今、三つの意味合いから注目されています。

1.「新型栄養失調」に陥らないための栄養源
2.「うつ」や「精神不安」を軽減し、幸福度をアップ
3.「高タンパク低カロリー」によるダイエットの王道

 どれもテレビなどでご覧になったことがあるのではないでしょうか。特に新型栄養失調は、カロリーが足りているのに、ミネラルやビタミン、タンパク質の不足する現代病です。70歳以上の高齢者や若い女性、小中学生の間にも広がっていると言われています。

 ではタンパク質ばかりバリバリ補えばいいのか、というとちょっと違います。栄養は何よりバランスが肝心。三大栄養素である「タンパク質(P)」「脂質(F)」「糖質(C)」のどれが欠けても、健康ではいられません。脳内の幸福物質と言われるセロトニンも、タンパク質(トリプトファン)と炭水化物がなければ、増えていきません。

 さらに、脂質の代表である炭水化物をカットしてしまうと、食物繊維が不足するため便秘になったり、肝機能が低下したりしますし、脂質不足では肌の潤いがなくなり、疲れやすくなります。どれか一つを極端に減らすダイエットは考えものなんですね。

筋肉の材料はタンパク質、動力は糖質

 それでもタンパク質が「元気になる!」と、もてはやされるのは、筋肉と直結するイメージがあるからでしょう。確かに筋肉(や髪や肌や爪)のもととなるアミノ酸はタンパク質がバラバラに分解されたものですが、肉・魚・卵・大豆・乳製品それぞれからまんべんなく摂っていく必要があります。

 タンパク質は筋肉の材料になりますが、筋肉を動かすのはグリコーゲンです。グリコーゲンのもとは「糖質」ですから、糖質制限でグリコーゲン不足になった体は、場合によって筋肉を分解してエネルギーとすることがあります。

 肉食中心の生活では、脂肪が過剰になってしまい、カロリーオーバーを引き起こします。また、七転八倒の苦しみを味わう「尿路(管)結石」の原因も、動物性脂肪と動物性タンパク質が関係していると言われます。

高タンパク質ダイエットには肉がいいのか、魚がいいのか!?

 よく2択で聞かれるのが、「高タンパク質ダイエットには肉がいいのか、魚がいいのか」。これは、実は問題の立て方が間違っています。肉も魚もタンパク質を多く含む食品ではありますが、他の栄養素もたくさん含まれていることをお忘れなく。また、セロトニンとタンパク質と炭水化物、タンパク質とグリコーゲンでもふれたように、栄養素は「組み合わせ」が問題になります。

 そうなると、マクロビオティックなどで言われる「一物全体」ではありませんが、なるべく全部を一度に食べられるようにするのが、栄養面では理想的。牛一頭を頭からしっぽまで食べることはなかなかできませんが、小魚なら一食で何百匹も食べてしまえます。

 ちなみに夏のご馳走の代表である「うな重」と、いつもの「牛丼」の一般的なカロリーとPFCバランスを比較してみましょう。

[うな重のカロリーとPFCバランス]
 ・エネルギー688kcal
 ・タンパク質23.4g
 ・脂質15.5g
 ・炭水化物108g

[牛丼のカロリーとPFCバランス]
 ・エネルギー771kcal
 ・タンパク質18.03g
 ・脂質23.87g
 ・炭水化物112.7g

 「うな重は脂っこくて、カロリー高い!」というイメージがひっくり返されたのではありませんか? 

それぞれの特質を生かしてタンパク質と仲良くしよう

 一人暮らしでは魚料理は敬遠されがちですが、魚にはDHAやEPAなどの脂肪酸、タウリンやカルシウムなどの元気のもとが豊富です。コンビニで買える鮭おにぎりやツナ缶からでも、魚介類を食べる習慣をつけたいもの。デパートやスーパーの閉店間際に飛び込むと、お刺身がバーゲン価格になっています!

 植物性タンパク質も忘れてはいけません。大豆などの豆類ではビタミン類やカリウム、亜鉛、鉄などのミネラル、ピーナッツやゴマなどのナッツ類には良性の脂質やビタミンEなどが含まれています。

 ただし、「60歳を過ぎたらお肉!」と盛んに言われるように、肉を食べない生活では、最初にあげた新型栄養失調が心配です。タンパク質のなかでも魚では補えないアルブミンが不足すると、肝臓や腎臓に影響を及ぼし、むくみや浮腫の症状が出てきます。認知症との関係や免疫力の低下も言われているので、アルブミン値は下げたくないですね。肉類がどうしてもNGという人には、卵や牛乳でアルブミンを補う方法もあります。

 肉がいいのか、魚がいいのかという二択という考え方をせずに、選択できる状況にあるのであれば、相補的に両方いただくというのが、健康のためにはベターということができそうです。
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
自分を豊かにする“教養の自己投資”始めてみませんか?
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

深刻化する中国の人権問題…中国共産党の思惑と人権の本質

深刻化する中国の人権問題…中国共産党の思惑と人権の本質

中国共産党と人権問題(1)中国共産党の思惑と歴史的背景

チベット、内モンゴル、新疆ウイグルなど、少数民族に対する深刻な人権侵害をめぐって欧米諸国から強い批判を浴びている中国。しかし、こうした人権問題は今に始まったことではない。中華人民共和国建国の経緯と中国共産党の思...
収録日:2021/10/15
追加日:2021/12/24
橋爪大三郎
社会学者 東京科学大学名誉教授 大学院大学至善館教授
2

ジャパン・アズ・ナンバーワンで満足!?学ばない日本の弊害

ジャパン・アズ・ナンバーワンで満足!?学ばない日本の弊害

内側から見たアメリカと日本(7)ジャパン・アズ・ナンバーワンの弊害

高度成長のために頑張った日本は「ジャパン・アズ・ナンバーワン」の評価を得たが、その後の日本企業の凋落、競争力の低下を考えると、その弊害を感じずにはおられない。読書人口が減っている現状をみると、いつのまにか「世界...
収録日:2025/09/02
追加日:2025/12/01
3

プロジェクトマネジメントとは?国際標準から考える特性

プロジェクトマネジメントとは?国際標準から考える特性

プロジェクトマネジメントの基本(1)国際標準とプロジェクトの定義

プロジェクトマネジメントが世界的に普及し始めたのは1990年代。ソフトウェア産業の発展とともに拡大を続け、時代のニーズを受けて多くのシーンに定着してきた。今回は、その基本に立ち返り、国際標準をもとに、プロジェクトと...
収録日:2025/09/10
追加日:2025/12/03
大塚有希子
法政大学専門職大学院イノベーションマネジメント研究科准教授
4

質疑編…司馬遼太郎の「史料読解」をどう評価する?

質疑編…司馬遼太郎の「史料読解」をどう評価する?

歴史の探り方、活かし方(7)史料の真贋を見極めるために

歴史上の出来事の本質を知るには、その真贋を見定めなければいけない。そのためにはどうすればいいのか。記述の異なる複数の本がある場合、いかにして真実を見極めるか。また、司馬遼太郎の作品が「歴史事実」として認識されて...
収録日:2025/04/26
追加日:2025/12/02
5

ブルーライトは悪者か?近年分かった「第3の眼」との関係

ブルーライトは悪者か?近年分かった「第3の眼」との関係

熟睡できる環境・習慣とは(2)酒、コーヒー、ブルーライトは悪者か

お酒やコーヒーなど世の中には睡眠に良くないのではないかといわれるものがある。また、現代においては特に、スマホの「ブルーライト」が睡眠には大敵だといわれているが、それらは本当に悪者なのか。一般に良い睡眠を妨げると...
収録日:2025/03/05
追加日:2025/11/30
西野精治
スタンフォード大学医学部精神科教授