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DATE/ 2017.08.05

認知症が「香り」で改善できるって本当?

 誰しもいずれは歳をとり、体や脳の働きが鈍りはじめ、思うように動けなくなるものです。それは一般的な「老い」という普遍的な事象ですが、そこに「認知症」という病名がつくと、事態はまったくの別物になっていきます。

 超高齢社会に突入して久しい日本ですが、自分が認知症になってしまうのでは、もしくは家族が認知症になるのではと、不安に思っている方は今までになく多いのではないでしょうか。

 一度認知症になると、現在は特効薬や確立した治療方法がありません。しかし、この認知症が、薬ではなく「香り」で予防・改善できるかもしれないのです。

香りで治療するアロマテラピー

 アロマテラピーをご存じでしょうか? 精油、いわゆるエッセンシャルオイルをつかった、芳香治療のことで、つまり香りでもって不調を治していくというものです。

 エッセンシャルオイルとは、ペパーミントやラベンダー、オレンジ、ジャスミンなど、香りのするオイルのこと。ペパーミントであれば沈痛作用や集中力を高める効果、ラベンダーには安眠を促す効果などがあり、香りをかいだり、アーモンドオイルなどで薄めて肌に湿布するなどして使用します。最近では、精油に近い成分で構成されたオイルを使い、これを焚くことでルームフレグランスの代わりにするなど、インテリアとしても知られていますね。

香りはダイレクト脳に刺激を与える

 ではこれがどう認知症に関わってくるのでしょうか? 香り、つまり嗅覚は、人間の五感のなかでも、大脳辺縁系にダイレクトに情報が届くように出来ています。大脳辺縁系には、記憶の倉庫といわれる海馬や、刺激によって反応する扁桃体などが含まれているため、香りの刺激はこうした脳の部位に大きな影響を与えるのです。香りをかぐと記憶が思い起こされるといった経験はありませんか? それは、嗅覚が脳にダイレクトに直結しているため、香りによって記憶が呼び起こされているのです。

 しかし、認知症を発症すると、最初にダメージを受ける部分は嗅神経つまり、嗅覚につながる神経といわれています。つまり、嗅覚の反応が弱くなるにつれ、脳への刺激も相まって低下していくため、認知症の症状は悪化していくのです。

 アロマテラピーを利用した治療は、そうした弱まる嗅覚に、意識的に刺激を与えることを念頭に置いているのです。香りをかげば、海馬や扁桃体にも反応がつたわり、認知症の予防・改善につなげるのではと考えられています。

昼と夜に決まった香りをかぐことで認知症予防

 では、具体的にどのような方法をとるのでしょう。長年、認知症と香りの関係性を研究してきた鳥取大学の浦上克哉教授は、午前と午後に決まったエッセンシャルオイルをかぐという検証を行いました。使ったアロマの内容は次のようなものです。

1.昼用のアロマオイル(9:00~11:00)

  集中力を高める効果が期待できるローズマリー2滴
  気持ちを高める効果が期待できるレモン1滴

2.夜用のアロマオイル(19:30~21:30)

  安眠効果が期待できるラベンダー2滴
  リラックス効果が期待できるスイートオレンジ1滴

 それぞれの時間に、ふたつの精油をブレンドして、枕に染み込ませるなどして2時間以上香りを嗅ぎます。浦上教授の行った実験では、認知症の治療薬とほぼ同じ効果を確認できたと発表されています。

エッセンシャルオイルを使う前に気をつけたいこと

 精油は専門の販売店なども各地にあり、現在ではインターネットでも気軽に手に入ります。使用しているオイルはいずれもメジャーな香りで、価格も高くありません。朝と夜、香りをかぐだけならば、誰にでもできる予防・改善法です。

 しかし、アロマテラピーは医療として確立はしておらず、あくまで補助的な役割であることを認識しておくべきです。また、合成化学薬品を使った精油はアロマテラピーには不向きです。正式なエッセンシャルオイルでも、薄めずに直接肌につけることはNG。お店の人に使い方を質問してみるのもいいでしょう。妊娠中や病気の治療中、アレルギーなどをお持ちの方は、扱いに注意が必要であることも念頭に置いてください。

 とはいえ副作用も少なく、趣味として楽しむ方も多いアロマテラピー。気になる方は試してみるのはいかがでしょうか?

<参考サイト>
・認知症予防に対する アロマセラピーの可能性
http://www.cjrd.tottori-u.ac.jp/seeds_cgi/files/20110509135656_pdffile02.pdf
・認知症を予防・改善するアロマオイルの効果とは
http://www.skincare-univ.com/article/006410/
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一般社団法人今井むつみ教育研究所代表理事 慶應義塾大学名誉教授