社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2017.12.11

会社をダメにする「サイレントキラー」の正体

 破綻する日本企業には、共通して「サイレントキラー」という存在を社内に見出すことができる―そう指摘するのは『衰退の法則―日本企業を蝕むサイレントキラーの正体』(東洋経済新報社)の著者であり、日本人材機構代表取締役社長の小城武彦氏です。小城氏の著書、主張をもとに日本企業に潜む「サイレントキラー」「隠れた殺し屋」の正体を暴いていきます。

忖度する能力に長けたミドルが出世する構造

 小城氏は、通商産業省、カルチュア・コンビニエンス・クラブを経て、カネボウの代表執行役社長、丸善代表取締役社長を務め、企業再生に携わってきました。現場をよく知る小城氏の企業を見る目には信頼が置けます。

 『衰退の法則』は、「YOMIURI ONLINE」における柳川範之(経済学者・東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授)の書評にあるように、その経験知を投げ捨てて「客観性を担保したいという意図から著者自身の経験は分析対象から外され、計87人、121時間に及ぶインタビューを実施して、多くの企業の内情に鋭く迫っている」ことから渾身の一冊であることが伺えます。

 レビュアーの柳川氏は、「社内調整能力や幹部の意向を忖度する能力に長たけたミドルが出世し、経営の意思決定も、波風を立てない予定調和的な色彩が強い。こういう企業は、平時には問題がないのだが、事業環境が激変する有事になると問題が顕在化し、衰退への道をたどってしまう」と本書の主張を端的にまとめています。

非オーナー系企業が陥る衰退の構造がサイレントキラーとなる!?

 「東洋経済ONLINE」における、冨山和彦氏(IGPI代表取締役)と小城氏の対談では、「たとえば、非オーナー系企業が陥る衰退のパターンを見ると、経営陣の意思決定プロセスが予定調和的で、ガチンコの議論を好まない。ミドルはそれに資する妥協的な社内調整に励みます。いわゆる『忖度』と社内調整を行い、派閥に所属し、出すぎなくて気が利く人が出世する。偉くなる人は力のある人が一本釣りするのですが、そうやって出来上がった経営陣は、社内政治には強い一方で、残念ながら経営リテラシーや実務能力が低い。この衰退惹起サイクルがぐるぐると回るのです」と小城氏は述べています。

 柳川氏のレビューとほぼ同様の内容になりますが、ここが小城氏の一番伝えたい点なのだろうと思います。

 さらに言えば、「個々人にはまったく悪気はなく、一生懸命にサイクルを回していく。そして環境変化が起きると、この構造がサイレントキラーとなってしまう」ということです。

自分の会社に潜むサイレントキラーを見つけるには?

 先述した「東洋経済ONLINE」の別の記事になりますが、「潰れる会社に必ずいる『静かな殺し屋』の正体 忖度できる便利な人材は危ない」において小城氏は、「自分の会社にサイレントキラーが潜んでいないかどうか、どの辺に注目したらいいですか?」という質問に対して、「まずはどんな人が偉くなっているか。忖度するのが上手、派閥・学閥・保守本流に属してる、気が利くだけ、なんてヤツばかり偉くなってる会社はヤバイでしょう」と述べています。

 また、「それと雑談のテーマ。昼飯や夜の飲み会、たばこルームで、ダメな会社はほとんど人事の話をしてますね。社内の人間関係とか。いい会社は顧客や競合、市場、製品の話などをしています」とも。

 よって、悪循環に歯止めをかけるためには人事部門に牽制機能を発揮させる、つまり人事部が一人ひとりの客観的データをもとにちゃんとした人事管理をおこなって、「有力者が子飼いを一本釣りで引き上げ」なんてことをさせないようにすることです。

 「現場・現実を重視し、事実に基づく議論を尊重する規範」の有無が、うまくいっている企業と、そうでない企業の違いであると先述の柳川氏は記述しています。ということで、みなさんの会社はいかがですか。ヤバい状態に陥ってはいませんか。

<参考文献・参考サイト>
・『衰退の法則―日本企業を蝕むサイレントキラーの正体』(小城武彦著、東洋経済新報社)
・YOMIURI ONLINE:『衰退の法則』 小城武彦著
http://www.yomiuri.co.jp/life/book/review/20170807-OYT8T50059.html
・東洋経済ONLINE:静かに企業を殺す「サイレントキラー」の恐怖
http://toyokeizai.net/articles/-/188339?page=2
・東洋経済ONLINE:潰れる会社に必ずいる「静かな殺し屋」の正体
http://toyokeizai.net/articles/-/179756?page=3
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
自分を豊かにする“教養の自己投資”始めてみませんか?
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

平和の実現を哲学的に追求する…どんな平和でもいいのか?

平和の実現を哲学的に追求する…どんな平和でもいいのか?

平和の追求~哲学者たちの構想(1)強力な世界政府?ホッブズの思想

平和は、いかにすれば実現できるのか――古今東西さまざまに議論されてきた。リアリズム、強力な世界政府、国家連合・連邦制、国連主義……。さまざまな構想が生み出されてきたが、ここで考えなければならないのは「平和」だけで良...
収録日:2025/08/02
追加日:2025/12/08
川出良枝
東京大学名誉教授 放送大学教養学部教授
2

PDCAサイクルを回すための5つのプロセスとそのすすめ方

PDCAサイクルを回すための5つのプロセスとそのすすめ方

プロジェクトマネジメントの基本(3)プロジェクトのすすめ方

プロジェクトを進める際にPDCAサイクルの概念は欠かせない。国際標準PMBOKでは、PDCAを応用した「立上げ」「計画」「実行」「監視コントロール」「終結」の5段階をプロジェクトに有用とし、複数フェーズでそれを回す。ステーク...
収録日:2025/09/10
追加日:2025/12/10
大塚有希子
法政大学専門職大学院イノベーションマネジメント研究科准教授
3

なぜ空海が現代社会に重要か――新しい社会の創造のために

なぜ空海が現代社会に重要か――新しい社会の創造のために

エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(1)サイバー・フィジカル融合と心身一如

現代社会にとって空海の思想がいかに重要か。AIが仕事の仕組みを変え、超高齢社会が医療の仕組みを変え、高度化する情報・通信ネットワークが生活の仕組みを変えたが、それらによって急激な変化を遂げた現代社会に将来不安が増...
収録日:2025/03/03
追加日:2025/11/12
4

『富嶽三十六景』神奈川沖浪裏のすごさ…波へのこだわり

『富嶽三十六景』神奈川沖浪裏のすごさ…波へのこだわり

葛飾北斎と応為~その生涯と作品(2)『富嶽三十六景』神奈川沖浪裏への道

役者絵からキャリアを始め、西洋の画法を取り入れながら読本の挿絵を大ヒットさせた葛飾北斎。その後、北斎が描いていった『北斎漫画』や浮世絵などの数々は、海外に衝撃を与えてファンを広げるほどのものになっていく。60代は...
収録日:2025/10/29
追加日:2025/12/06
堀口茉純
歴史作家 江戸風俗研究家
5

深刻化する中国の人権問題…中国共産党の思惑と人権の本質

深刻化する中国の人権問題…中国共産党の思惑と人権の本質

中国共産党と人権問題(1)中国共産党の思惑と歴史的背景

チベット、内モンゴル、新疆ウイグルなど、少数民族に対する深刻な人権侵害をめぐって欧米諸国から強い批判を浴びている中国。しかし、こうした人権問題は今に始まったことではない。中華人民共和国建国の経緯と中国共産党の思...
収録日:2021/10/15
追加日:2021/12/24
橋爪大三郎
社会学者 東京科学大学名誉教授 大学院大学至善館教授