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DATE/ 2018.04.13

「紙の新聞」が消滅する日は近い?

 国内の新聞発行部数は、かなりハイペースに減少を続けています。日本新聞協会が公表している2017年10月の新聞発行部数は、全国合計で4212万8189部。1年前に比べ、部数にして114万7958部、2.7%のマイナスになります。

 2007年までは1世帯あたり1部以上が発行されていましたが、翌年に0.98と割り込んで以来下がる一方で、2017年には1世帯あたり0.75部。つまり、一般家庭の4軒に1軒は新聞を読んでいない家という勘定になります。90年代頃に「新聞は2紙以上読み比べないと、本当の動向が分からない」などと言われていたのがウソのようです。

 新聞人口激減の背景に、インターネットやスマートフォンの普及があるのは間違いありません。毎月講読料を支払い、毎朝ポストに新聞を取りに行かなくても、スマホの画面には24時間無料で、ニュースが流れているからです。

相次ぐ「夕刊」撤退は、デフレのおまけ?

 とくにスポーツ紙、夕刊の下げ幅は大きく、2000年と比べると両者ともほぼ半減しています。これらは、駅やコンビニなどでの販売が中心。主な購読者層であるサラリーマンの「お父さんたち」が、デフレでお小遣いを惜しむようになったからとも言われますが、電車内の暇つぶしはスマホで十分になったという見方もできます。

 ここ10年だけを見ても、南日本新聞・琉球新報・沖縄タイムス・北日本新聞・岩手日報・山形新聞・岐阜新聞・中国新聞と地方紙を中心に、夕刊の廃止がかなり進行してきました。部数の落ち込みから「夕刊」のかたちを維持するメリットがなくなってきたのです。

 全国紙でも、毎日新聞は北海道、山梨と滋賀の一部で、朝日新聞は大分、佐賀、山梨と福岡の一部で夕刊を廃止するなどの動きが進んでいます。この流れに先鞭をつけたのは産経新聞で、同社では2002年4月に東京本社管内の夕刊を廃止以来、大阪本社版のみの発行としています。

 朝刊のみに限って言えば、2000年比で6%程度の減少にとどまっていますが、人口減少や若年層のライフスタイルとして「新聞を読む」経験がないことなどを考えると、今後も減少に歯止めがかかるどころか、どんどん大きくなることが予想されます。

世界の「新聞の未来」は、どうなる?

 世界のニュース業界に目を向けると、WAN-IFRAが発行する「世界の新聞トレンド 2015年版」(実際の数字は2014年のもの)によると、紙の新聞を読んでいる人は27億人。電子版をデスクトップのパソコンで読む人は約7億7000万人と言います。

 紙媒体の発行部数は前年(2013年)と比較して6.4%増、5年前との比較では16.5%増えていますが、これはインドやほかのアジア諸国での伸びが大きく貢献しているため。欧州、北米やオーストラリアおよびオセアニアでは深刻な「紙の新聞離れ」が進行しています。

 2017年6月にはイタリア・トリノに新聞業界の首脳が集まり、「新聞の未来」(伊スタンパ紙主催)と題したシンポジウムを行いました。米ニューヨーク・タイムズCEOのマーク・トンプソン氏は、「紙からの収入が仮にゼロになっても利益が出るよう、デジタル購読を核としたビジネスモデルを構築しようとしている」と、紙のなくなる可能性を示唆。ワシントン・ポストのジェフ・ベゾス社主は2025年の見通しについて、「友人の家に行き、紙の新聞が置いてあれば『すごい!試していいか』と触りたくなるような希少品になるだろう」と、皮肉なコメントを寄せています。

 技術革新の可能性について、英フィナンシャル・タイムズのライオネル・バーバー編集長は「人工知能(AI)に記事を書かせる例も出てくるだろうが、ロボットが(名物コラムニストの)マーティン・ウルフの代わりを務めることはできない」と言及。ニュースが「スロー&ファスト」に二分化されていく可能性を示唆しました。

 さらにSNS上でのフェイクニュースの問題について、伊スタンパのジョン・エルカン社主は「広告主は自社の広告が虚偽の記事に表示されることを嫌い、逆に信頼できるニュースの価値が再認識されている」と述べるなど、新聞の未来が消滅に向かうには、まだまだいくつもの「新聞人」の壁があることが確認された会議でした。

<参考サイト>
・一般社団法人日本新聞協会:新聞の発行部数と世帯数の推移
http://www.pressnet.or.jp/data/circulation/circulation01.php
・日本経済新聞:新聞に未来はあるか 世界のメディア重鎮らが激論
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO18315600Q7A630C1000000/
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