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DATE/ 2018.07.14

「大戸屋」が海外で人気の理由

 たくさんの日本の外食チェーンが海外に進出していることはご存知ですか。吉野家や一風堂、リンガーハットや元気寿司、なかでも近年とても人気が高いのが大戸屋です。とくにアメリカで大きな成功を収めています。なぜ、大戸屋は成功したのか、その理由に迫ります。

しまほっけ定食が約3000円!

 大戸屋はアメリカで、日本における展開とはかなり異なる方針を打ち出しています。ニューヨークのタイムズスクエア店を例にどんな特色があるのかみてみましょう。まず驚くのが料金です。ランチメニューのしまほっけ定食がなんと25ドル。1ドルが110円だとして、2750円です。また、たとえば本まぐろの漬け丼は40ドルです。日本の大戸屋とは比べ物にならないくらい高額になっています。

 「トリップアドバイザー」では「NYの大戸屋は立派な和食レストラン」とか「日本の大戸屋より高級店」のようなレビューが目立ちます。そうなんですね、金額からもわかるように、日本の安い定食屋のイメージとは異なり、どちらかといえば金額設定が高めの和食店、見ようによっては高級店として展開しています。

NYミレニアル世代のこだわり

 高級な和食店と書きましたが、単に高級店というわけではありません。むしろカジュアルな要素を積極的に取り入れ、食事をお盆に載せた定食スタイルを重視しています。『顧客を喜ばせる世界の成功企業最新戦略紹介』というMAG2NEWS・清水ひろゆき氏の記事によると、1980年以降に生まれたミレニアル世代と呼ばれる若者たちは、高級なだけの日本食にバリューを感じなくなっており、付加価値やこだわりに重きを置くのだそうです。

 その点で日本の定食スタイルという食文化や、お店で漬け込む麹や食べる直前にすりおろす大根おろしなど、大戸屋には金額に見合ったこだわりがたくさん見受けられます。これがニューヨークで受け入れられた大きな理由なのでしょう。

ニューヨークで成功するチープな日本流

 ニューヨークでは大戸屋の他にも「いきなり!ステーキ」や天然とんこつラーメンの「一蘭」が人気を呼んでいます。どちらも日本独特の食のスタイルを売りにしています。「いきなり!ステーキ」は立ち食い、「一蘭」は個人用ブースとして仕切られたお一人様スペースが話題となりました。これらは日本では当たり前の光景ですが、海外ではちょっと奇抜な日本文化として受け取られています。どちらも一見すると嫌がられそうな感じがありますが、そこはニューヨーカー。珍しいもの、新しいものに目がありません。

 このような定食スタイルにしても、立ち食いにしても、かなり日常的でチープな日本流です。ところが、そのさりげなさこそ人気の理由なのかもしれません。寿司やてんぷら、食べ物ではありませんが、歌舞伎や浮世絵など、ステレオタイプな和風は海外ではすでにかなり消費され、それゆえに飽きられてきているのでしょう。

 日本に住んでいるとなかなか気がつきにくいことかもしれませんが、意外なところにニューヨークで成功する秘密、外国人の心を掴む秘密が潜んでいます。そう考えると当たり前の日常にちょっとワクワクしてきませんか。かつて、「ここがヘンだよ日本人」(TBS)というテレビ番組がありましたが、そのストレンジな感じが、実は高い経済価値をもっていることを頭の片隅において生活していると、ときには仕事の役にたつアイデアが浮かんでくることもあるかもしれません。

<参考サイト>
・トリップアドバイザー:NYの大戸屋は立派な和食レストラン
https://www.tripadvisor.jp/ShowUserReviews-g60763-d6509664-r258382651-Ootoya-New_York_City_New_York.html
・MAG2NEWS:高級な和食はいらない。海外の若者が日本の大戸屋を支持する理由
https://www.mag2.com/p/news/345632
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