社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2018.07.26

眠れなくなるほど面白い身近な物理

 少年少女のころ、毎日のように新しい発見があり、驚きの連続だったのではないでしょうか。そうしたことが大人になるにつれて、だんだんとなくなってしまったとすれば、残念なことです。

 忙しい日々を送る現代人には仕方のないことかもしれませんが、そんな中、子どものころの好奇心をすこしばかり取り戻して、身近な生活を眺めてみませんか。たとえば、空はどうして青いのだろう。夕方の空はなぜ赤いのか。そもそもどうして色があるのか。今回のコラムでは、そうした身の回りのちょっとした謎について、『眠れなくなるほど面白い 図解 物理の話』(長澤光晴著、日本文芸社)をもとにして、いくつか考えてみたいと思います。

 著者の長澤光晴氏は東京電機大学工学部自然科学系列・工学研究科物質工学専攻の教授で、長澤氏の研究室では「物質の性質と特徴を基礎的な立場から解明する研究」を行っています。

空はどうして青いのだろう

 まずは冒頭に挙げた謎から始めます。空はどうして青いのだろう。太陽の光は白色の光ですが、これは青や緑や赤色などが重なってできています。いろいろな色があることは7色の虹を思い出すとわかりやすいですね。

 光は電磁波という波の一種です。それぞれの色には波長があって、一番長いのは赤、逆に短いのは青系の光です。そして、青色は波長が短い分、飛んでいきやすいという特徴があります。そのため、他の色より私たちのもとに届きやすく、それで空は青く見えるのです。

夕方の空はなぜ赤いのか

 夕方になるとなぜ赤くなるのかということも考えてみましょう。夕方は昼間にくらべて太陽の光が地面に届くまでの距離が長くなります。そのため、飛んでいきやすい青は地面に届く前に大気中の物質にぶつかってどこへ飛んで行ってしまうのです。この進路変更をレイリー錯乱といいます。

 青は赤に比べて8倍もレイリー錯乱しやすいのだそうです。つまり、光が地面に届くまでの距離が長くなるほど青は私たちのもとに届きにくくなるということです。それは、逆に波長の一番長い赤は届きやすくなるということですので、夕方の空は真っ赤に染まるというわけです。

ゴルフボールの表面のくぼみ

 もうひとつ紹介します。今度は空の色の話とは打って変わって、ゴルフボールについてのお話です。皆さん、ゴルフボールの表面のくぼみのわけを知っていますか。これも物理で説明できます。

 ゴルフ好きの方はご存知かもしれませんが、表面のくぼみは「ディンプル」といってボールをより遠くへ飛ばすための工夫です。ボールを打ち飛ばすと空気抵抗が生まれます。この空気抵抗を極力抑えるためには、できるだけボールに沿って空気が流線を描くように工夫する必要があります。

 ディンプルをつくることで、空気はそのくぼみに吸われるようにしてボールの表面を通っていくようになります。つまり、ディンプルが空気の流れを整えてくれているわけです。それによって抵抗が減り、ボールは遠くまで飛ぶようになります。ちなみにこの技術は水泳ウェアの開発などさまざまなスポーツ分野で活用されています。

 このように、物理の知はいたるところにひそんでいると言っていいでしょう。ふと不思議に思ったら面倒くさがらずに調べたり考えたりする癖をつけてみましょう。しくみが分かると世界の見え方がガラッと変わります。

<参考文献>
『眠れなくなるほど面白い 図解 物理の話』(長澤光晴著、日本文芸社)
https://www.nihonbungeisha.co.jp/book/b329383.html

<関連サイト>
長澤研究室
http://solid.phys.s.dendai.ac.jp
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
自分を豊かにする“教養の自己投資”始めてみませんか?
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

「私をお母さんと呼ばないで」…突然訪れた逆境の意味

「私をお母さんと呼ばないで」…突然訪れた逆境の意味

逆境に対峙する哲学(2)運命・世界・他者

西洋には逆境は神が与える運命という考え方があり、その運命をいかに克服するかを考えたのがストア派だった。しかし、神道が説くように「ヒトもカミ」であれば、それに気づく瞬間は逆境の中にこそ存在するはずである。「他者で...
収録日:2025/07/24
追加日:2025/12/20
2

「武器商人」となったアメリカ…ディール至上主義は失敗!?

「武器商人」となったアメリカ…ディール至上主義は失敗!?

戦争とディール~米露外交とロシア・ウクライナ戦争の行方

2025年8月、米露、米ウクライナ、EUの首脳会談が相次いで実現した。その成果だが、中でもロシアにとって大成功と呼べるものになった。ディール至上主義のトランプ政権を手玉に取ったロシアが狙う「ベルト要塞」とは何か。事実上...
収録日:2025/09/24
追加日:2025/12/21
東秀敏
米国大統領制兼議会制研究所(CSPC)上級フェロー
3

古き良きヨーロッパのキリスト教社会が克明にわかる名著

古き良きヨーロッパのキリスト教社会が克明にわかる名著

渡部昇一の「わが体験的キリスト教論」(1)古き良きキリスト教社会

渡部昇一氏には、若き頃に留学したドイツでの体験を記した『ドイツ留学記(上・下)』(講談社現代新書)という名著がある。1955年(昭和30年)から3年間、ドイツに留学した渡部昇一氏が、その留学で身近に接したヨーロッパ文明...
収録日:2021/08/06
追加日:2021/10/23
渡部玄一
チェロ奏者
4

豊臣兄弟の謎…明らかになった秀吉政権での秀長の役割

豊臣兄弟の謎…明らかになった秀吉政権での秀長の役割

豊臣兄弟~秀吉と秀長の実像に迫る(1)史実としての豊臣兄弟と秀長の役割

豊臣と羽柴…二つの名前で語られる秀吉と秀長だが、その違いは何なのか。また、これまで秀長には秀吉の「補佐役」というイメージがあったが、史実ではどうなのか。実はこれまで伝えられてきた羽柴(豊臣)兄弟のエピソードにはか...
収録日:2025/10/20
追加日:2025/12/18
黒田基樹
駿河台大学法学部教授 日本史学博士
5

ルソーの「コスモポリタニズム批判」…分権的連邦国家構想

ルソーの「コスモポリタニズム批判」…分権的連邦国家構想

平和の追求~哲学者たちの構想(4)ルソーが考える平和と自由

かのジャン=ジャック・ルソーも平和問題を考えた一人である。個人の「自由意志」を尊重するルソーは、市民が直接参加して自分の意思を反映できる小さな単位を基本としつつ、国家間紛争を解決する手段を考えた。「自由の追求」に...
収録日:2025/08/02
追加日:2025/12/16
川出良枝
東京大学名誉教授 放送大学教養学部教授