テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
会員登録 テンミニッツTVとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2018.08.23

自分らしく生きる…最近の「終活」事情

 2017年、日本で生まれた人は94万人、亡くなった人は134万人に上りました。本格的な超高齢社会を迎え、「終活」が社会現象として広がりを見せています。終活は、就活をもじった「人生の終わりのため」の活動で、当初は自分の葬儀や墓について生前に準備することを指しました。今では延命治療や介護についての要望、身辺整理、遺言、相続の準備なども含まれるようになっています。

2万人以上を集める終活イベントに壇蜜が登場

 10年前には「縁起でもない」と言われることの多かった終活ですが、今では書店へ行けば終活コーナーが常設された店も多く、テレビ番組でも有名人の終活を取り上げるようになりました。

 2018年8月下旬には、東京ビッグサイトで2つの終活関連イベントが行われました。一つはフューネラルビジネス・エンディング・終活・葬儀・埋葬・ 仏壇・供養・終末関連のための設備・機器・サービスが集まる「第4回エンディング産業展」(8/22~8/24@東京ビッグサイト東7ホール)です。

 基本は事業者を対象にしたイベントですが、2017年には約2万6000人を集め、「美坊主コンテスト」なども開かれました。2018年も最終日には、一般向けの企画が用意されています。一般社団法人終活カウンセラー協会と産経新聞社、TSO International主催による「終活フェスタ&ソナエ博2018」です。

 ここでの最大のイベントは、葬祭学校出身の壇蜜さんが全日本仏教会・戸松義晴さんやイオンライフ社長・広原章隆さんと出演する「現代の終活、葬儀を考える」セミナー。「壇は仏壇、蜜はそなえもの」と『終活読本ソナエ』(産経新聞出版局)の中で芸名の由来を明かす壇さんは、終活ブームの中でも最大の立役者と言えるかもしれません。

「イオンのお葬式」人気で、終活を一挙にシステム化

 「お寺や葬儀社の手でビジネス的に処理されたくない」、そんな思いから始まったはずの終活が、トレンドとして再度ビジネス化されるのは、なんとも日本的な光景。終活カウンセラーという資格も現れ、身辺整理や遺言を含めて一括で請け負うNPOや業者も増えてきました。

 身近なところではスーパーのイオンが、2009年より「イオンライフ」という子会社による「イオンのお葬式」を独自のブランドとして立ち上げています。中身の見えなかったお葬式の価格を明確にし、音楽葬などの無宗教の葬式、樹木葬などの墓石を使わない形式にも対応しています。

 終活について、24時間365日対応するコールセンターを設けたイオンライフでは、お葬式やお墓だけでなく、病院への入院などの際の身元保証、遺言相続、永代供養、生前整理など、多彩な角度からの事業展開を進めています。

 一方、身寄りがなく生活にゆとりのない高齢者の終活を行政がサポートする例も出てきています。2015年7月に「エンディングサポート事業」をスタートした神奈川県横須賀市、2016年に同様の事業を開始した大和市などが先駆例。さらに千葉市は2018年からイオンライフと連携して、お葬式だけでなく相続の準備まで含めた相談サービスを開始しました。

エンディングノートは見直しを、生前整理は要注意

 個人的にできる終活の中心は、自分の意思を周囲に伝えるエンディングノートです。エンディングノートは、遺言書のように法的な拘束力は持たないものの、自分の身にもしものことが起きたときに、家族や遺族に知らせておきたいことを書き残しておくためのノートです。

 市販品が各種販売されていますが、買っても最初は「何を書いたらいいのか分からない」と放置してしまう人が大半。ところが、いざ書き始めると項目やページが足りなくなったり、途中で気が変わったりもします。エンディングノートをつけ始めたものの放りっぱなしの人は、定期的な見直しだけでもしておいたほうがいいでしょう。

 エンディングノート以外の方法として、注意しておきたいのが「生前整理」です。生前整理は、亡くなった後に家族が遺品整理に苦労しなくていいよう、生きているうちに身の回りのものを整理すること。本人がするのが基本ですが、子どもが手伝ってくれることもあります。

 しかし、実家を出て別々に住む子どもに自分のものを捨てられるのは、親にとって迷惑な場合も多く、子どもは「せっかく手伝ってあげるのに」とイライラ。親子ゲンカに発展することもしばしばで、親子が断絶してしまった結果、家が「ゴミ屋敷」化していくこともめずらしくないと言います。業者さんに頼むのは、「触らぬものにたたりなし」の方法なのかもしれません。

「北欧式終活」に感じるぬくもりとは?

 世界の終活事情に目を転じると、やはり周囲に面倒をかけず、残りの人生を自分らしく楽しむための「北欧式終活」が注目されていると言います。

 北欧といえば、税金が高く、その分福祉が充実している社会というイメージがあります。極地に近いので、冬の寒さは厳しく、夏は白夜、冬は15時を過ぎると日が暮れるような地域です。北欧流ライフスタイルに「Hyggeヒュッゲ」という言葉がありますが、「心が安らぐひととき、ほっこり、心地よさ、人とともにいるときに感じるぬくもり」を表すのだそう。頑張りすぎない、求めすぎない、お金をかけすぎない、日々の安心を言うのでしょうか。

 シニアのための片付け術『人生は手放した数だけ豊かになる』(三笠書房)の著者であるマルガレータ・マグヌセンさんは、齢「80~100歳の間」という高齢女性。最後まで「Hyggeヒュッゲ」に生きることとともに、死という難しいテーマについて、子供たちと話し合えたことが収穫だと言います。

 自分でやること、家族でやること、業者や行政に頼むこと。終活にはその使い分けが必要なのではないでしょうか。

<参考サイト>
・第4回エンディング産業展
http://ifcx.jp/
・終活フェスタ&ソナエ博
https://sonae.sankei.co.jp/special/detail/id=1826
・イオンの終活
https://www.aeonlife-shukatsu.jp/
・Newsweek:世界の「終活」最新事情 人生の最後まで自分らしく生きる知恵
https://www.newsweekjapan.jp/stories/lifestyle/2018/07/post-10611.php
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
「学ぶことが楽しい」方には 『テンミニッツTV』 がオススメです。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

マネへの強烈なライバル意識…セザンヌ作品にみる現代性

マネへの強烈なライバル意識…セザンヌ作品にみる現代性

作風と評論からみた印象派の画期性と発展(1)セザンヌの個性と現代性

印象派の最長老として多くの画家に影響を与えたピサロ。その影響を多分に受けてきた画家の中でも最大の1人がセザンヌだが、その才覚は第1回の印象派展から発揮されていた。画面構成や現代性による解釈から、セザンヌ作品の特徴...
収録日:2023/12/28
追加日:2025/07/10
安井裕雄
三菱一号館美術館 上席学芸員
2

AI時代の「真のリアル」は文芸評論の練達の手法にあり!

AI時代の「真のリアル」は文芸評論の練達の手法にあり!

編集部ラジオ2025(14)なぜAI時代に文芸評論が甦るのか

どんどんと進む社会のAI化。この大激流のなかで、人間の仕事や暮らしの姿もどんどん変わっていっています。では、AI時代に「人間がやるべきこと」とはいったい、何なのでしょうか? さらにAIが、驚くほど便利に何でも教えてく...
収録日:2025/05/28
追加日:2025/07/10
テンミニッツTV編集部
教養動画メディア
3

なぜ思春期は大事なのか?コホート研究10年の成果に迫る

なぜ思春期は大事なのか?コホート研究10年の成果に迫る

今どきの若者たちのからだ、心、社会(1)ライフヒストリーからみた思春期

なぜ思春期に注目するのか。この十年来、10歳だった子どもたちのその後を10年追跡する「コホート研究」を行っている長谷川氏。離乳後の子どもが性成熟しておとなになるための準備期間にあたるこの時期が、ヒトという生物のライ...
収録日:2024/11/27
追加日:2025/07/05
長谷川眞理子
日本芸術文化振興会理事長
4

正岡子規と高浜虚子の論争、その軍配と江藤淳暦年のテーマ

正岡子規と高浜虚子の論争、その軍配と江藤淳暦年のテーマ

AI時代に甦る文芸評論~江藤淳と加藤典洋(3)正岡子規と高浜虚子の「リアリズム」

正岡子規の死後、高浜虚子が回想で述べた師・子規との論争。そこに「リアリズムとは何か」のヒントが隠されていると江藤淳氏は言う。子規と虚子、それぞれの「リアル」とは何か、そしてどちらが本当の「リアル」なのか。近代小...
収録日:2025/04/10
追加日:2025/07/09
與那覇潤
評論家
5

グリーンランドに米国の軍事拠点…北極圏の地政学的意味

グリーンランドに米国の軍事拠点…北極圏の地政学的意味

地政学入門 ヨーロッパ編(10)グリーンランドと北極海

北極圏に位置する世界最大の島グリーンランド。ここはデンマークの領土なのだが、アメリカの軍事拠点でもあり、アメリカ、カナダとヨーロッパ、ロシアの間という地政学的にも重要な位置にある。また、気候変動によってその軍事...
収録日:2025/02/28
追加日:2025/07/07
小原雅博
東京大学名誉教授