社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
「宇宙はにおいますか?」破天荒な宇宙Q&A本とは?
破天荒な宇宙Q&A本に見る、ひと味もふた味もちがう問い
宇宙は、人類にとってわからないことだらけ。謎の宝庫です。宇宙についての入門書には、そうした宇宙の謎を問うQ&A形式の本がたくさんあります。ですが、この本はひと味もふた味もちがいます。角川ソフィア文庫『ここまでわかった宇宙100の謎』。名古屋大学大学院教授の福井康雄さんが監修したこの本は、名古屋大学理学部 天体物理学研究室の「宇宙100の謎」プロジェクトから生まれたもので、シリーズ2冊目になります。普通の宇宙Q&A本と思って読むと、その破天荒ぶりに仰天することでしょう。
まさかの「宇宙はにおいますか?」
では、世間の多くの宇宙Q&A本とこの本では、何がちがうのでしょう?本を開いて、まず驚くのは、その「Q」が斬新なことです。たとえば、こんなふうに。「宇宙はにおいますか?」
「月は冷たいのですか?」
「宇宙って男性ですか、それとも女性ですか?」
「宇宙人から見た地球人の姿は、グロテスクなものなのでしょうか?」
「え、なに?」「何その質問?」「どうしてこんな変な質問がのってるの?」と思いませんか。理由は簡単です。それは、この本で紹介されている「謎」が、一般公募で募集し、市民から寄せられた質問だからです。だから、こんな質問も登場します。
「頭の中に宇宙全体のイメージを描いてみたいのですが、なんとかなりませんか?」
「本当に星ってあるんですか?『宇宙人がすごく大きな張り紙に穴をあけてて、みんながそれを見てるだけ」とか思うんです。」
「宇宙へ行く理由はなんですか?お金をかけるのは大変では?」
最後の質問など、宇宙への興味や憧れがあるからこそなったであろう宇宙や天体の専門家にとっては、むしろ答えに困る問いなのではないでしょうか。「だって、そりゃ行きたいでしょう?」という困惑顔が目に浮かぶようです。
普通、多くのQ&A本は、専門家が考える問いに、専門家が自ら回答する形をとっています。自問自答ともいえるこのスタイルは、要するに科学者が市民に知っておいてもらいたいことを選んで、それについて解説しようという姿勢とも言えます。
ですが、「それでは、科学が本当に社会に開かれたことにはならない、と思います」と、本書の「はじめに」で、福井さんは書いています。福井さん達は、科学にも双方向的コミュニケーションが大切と考え、この本を出版しました。それは、この本の「ちがい」の2つめのポイントにもつながってきます。
「あります」「できません」と答える明快さ
2つ目のユニークな点、それは「対話度の高さ」です。一例として、「謎7」と「謎8」を続けて見てみましょう。「謎7 宇宙と地震とは関係あるのですか?
あります。
地球は、自分自身の万有引力によって球体として固まっている天体です。地球をつくっている地面を含む地層は……(以下略)」
「謎8 原発施設を宇宙に廃棄することはできないでしょうか?
残念ながらできません。
現在のロケット一基で打ち上げることのできる荷重は一トンぐらいですが、使用済みの原子炉燃料は、日本だけでも一万トンを超えます。……(以下略)」
問われた質問に、「あります」「できません」と、まずハッキリと答える潔さ。続く説明は専門的な詳しい話になっていきますが、最初にイエスかノーかがわかったうえで理由が説明されるので、読者はスッキリした気分で読み進めることができます。「宇宙人はいますか?」という問いにも「もちろんいます」と断言する思い切りのよさ。「眼の前にいる人と対話をするかのような語り口」は、次の謎と答えも見たいという気持ちを起こさせてくれます。
自然科学から、人文科学、社会科学まで、広く深い視点
3つ目の「ちがい」は、答えの斬新さです。とくに、ありがちなQに対するAの非凡さが出色です。たとえば「どうして星が生まれたのですか」という、49番目の謎。よくありそうなこの問いに対して、福井さんはこう答えます。「人間が眺めて宇宙を感じるために神が星をつくってくれたとしたら、とてもありがたい配慮であったと思います。人は星から生まれ、星を愛でて楽しい人生を送ることができるのです。
ここ四〇〇年の人間の科学は、別の答えの可能性を示唆します。基本は重力、物質には常に互いに引き合う力が働くことです。……(以下略)」
「普通の答え」がどのようなものかが気になる人は、ぜひ、この問いをインターネットで検索してみてください。検索結果には、類似のQ&Aがいくつも表示されるでしょう。そしてそれらは比較的おなじようなことを言っているでしょう。
このちがいはどこから生まれたのでしょうか?それは、福井さんたちが、天文学などの自然科学の視点だけでなく、哲学、科学政策論など人文科学、社会科学なども含めた、より広い視点からの回答をめざしたからです。なかには、回答者の遊び心がうかがえる、ダジャレのような回答もあるほどです。「宇宙って男性ですか、それとも女性ですか?」「女性です、しかも未婚の。だって、ミス・ユニバースって言うでしょ」というように(笑)。
誠実で対等な対話で、宇宙に親しむ
一般の読者との双方向的コミュニケーションをめざすと言っても、なかなかこうはいきません。ほんとうに深く理解していないと、むずかしいことを平明に説明することは容易ではないからです。監修の福井さんをはじめ、この本の執筆陣の専門家は、とてもよく広く深く宇宙のことを理解しているからこそ、それを「普通の言葉」で語ることができるのです。<関連サイト>
・宇宙100の謎(名古屋大学理学部 天体物理学研究室)
http://www.a.phys.nagoya-u.ac.jp/100nazo/
・名古屋大学大学院理学研究科 天体物理学研究室
http://www.a.phys.nagoya-u.ac.jp/ae/index.html
・宇宙100の謎(名古屋大学理学部 天体物理学研究室)
http://www.a.phys.nagoya-u.ac.jp/100nazo/
・名古屋大学大学院理学研究科 天体物理学研究室
http://www.a.phys.nagoya-u.ac.jp/ae/index.html
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
雑学から一段上の「大人の教養」はいかがですか?
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。
『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
習近平への権力集中…習近平思想と中国の夢と強国強軍
習近平―その政治の「核心」とは何か?(1)習近平政権の特徴
国際社会における中国の動きに注目が集まっている。新冷戦ともいわれる米中摩擦が激化する中、2021年7月に中国共産党は創立100周年を迎えた。毛沢東以来、初めて「思想」という言葉を党規約に盛り込んだ習近平。彼が唱える「中...
収録日:2021/07/07
追加日:2021/09/07
大統領選が10年早かったら…全盛期のヒラリーはすごすぎた
内側から見たアメリカと日本(5)ヒラリーの無念と日米の半導体問題
ヒラリー・クリントン氏の全盛期は、当時夫のクリントン氏が大統領だった2000年代だったという島田氏。当時、ダボス会議での彼女の発言が全米の喝采を浴びたそうだが、およそ10年後、大統領選挙でトランプ氏と対峙した際、彼女...
収録日:2025/09/02
追加日:2025/11/24
熟睡のために――認知行動療法とポジティブ・ルーティーン
熟睡できる環境・習慣とは(1)熟睡のための条件と認知行動療法
「熟睡とは健康な睡眠」だと西野氏はいうが、健康な睡眠のためには具体的にどうすればいいのか。睡眠とは壊れやすいもので、睡眠に影響を与える環境要因、内面的要因、身体的要因など、さまざまな要因を取り除いていくことが大...
収録日:2025/03/05
追加日:2025/11/23
知ってるつもり、過大評価…バイアス解決の鍵は「謙虚さ」
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(3)認知バイアスとの正しい向き合い方
人間がこの世界を生きていく上で、バイアスは避けられない。しかし、そこに居直って自分を過大評価してしまうと、それは傲慢になる。よって、どんな仕事においてももっとも大切なことは「謙虚さ」だと言う今井氏。ただそれは、...
収録日:2025/05/12
追加日:2025/11/16
不動産暴落、大企業倒産危機…中国経済の苦境の実態とは?
習近平中国の真実…米中関係・台湾問題(7)不動産暴落と企業倒産の内実
改革開放当時の中国には技術も資本もなく、工場を建てる土地があるだけだった。経済成長とともに市民が不動産を複数所有する時代となり、地価は高騰し続けた。だが、習近平政権による総量規制は不動産価格を低下させ、消費低迷...
収録日:2025/07/01
追加日:2025/10/16


