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DATE/ 2018.09.23

【仕事と年収】神主(26歳男性)

 今回は「神主」の方に年収などのリアルなお金事情、その仕事の内容をうかがいました。

【年齢】26歳(男性)
【住まい】東京都
【独身or既婚】独身

経歴を教えてください。

 神職の資格を取得できる國學院大学を卒業。公共の福祉の在り方や神社を通して日本社会のコミュニティの在り方を変えていきたかったため、この職に就きました。就職後、このような考えをよく思わない氏子さんもいることを知り、驚きました。

年収/月収/賞与について教えてください。

 年収260万円、月収21万、賞与は20~30万。上司(階位が上の人)の神職(神主)が退位もしくは亡くなった場合に昇給します。残業しても残業代は発生しません。なぜなら、「労働」ではなく「神への奉仕」だからです。

貯蓄額はおいくらですか?

 40万円。

年間休日は?

 私のところは基本的に希望した場合以外、休みはありません。毎朝、日が昇る前に太鼓を叩いてお祈りをします。誰も見ていませんが、近所の人は太鼓の音を聞いているはずです。当然土日も行います。上司は普通に寝ています。

仕事の内容は?残業はどれぐらい?

 境内の掃除、各種祈祷。祈祷する文章(「祝詞」といいます)は古語を法則通りに組み合わせて自作します。境内に車を乗り入れて、車のお祓いなども行います。他には、お守りの授与(「販売」とは言いません)、町内会、氏子会、子供会、祭りの運営。町長ら重要な氏子の接待などもあります。

 高枝を切ったり、竹や榊(さかき)を取りに行ったりもします。重機を使って作業することもあります。その他は、子守りをしたり…上司の召使いのような感じです。上司の娘と結婚させられることもよくあるようです。断ったらクビです。なぜなら、血縁が重要だからです。

 お祈りの依頼が入った場合は、出張&残業となります。これは、手当が出ます。残業は基本的には少なく月に10時間程度です。ただし前にも言った通り、そもそも「残業」という概念がないので、記録も集計もしません。その他、使いっ走りのようにスーパーに買い物に行ったり、日曜大工をしたりします。

 ちなみに、この仕事は5年やっても30年やっても下っ端です。なぜなら、基本的に定年がないため、90歳のおじいちゃんが一番上の上司となるからです。

この仕事の良い点は?

 毎日早く起きて儀式をしていると生活のリズムが作られます。祝詞をあげているときなど自分と向かい合う場面が多いので、そういった意味では自分に合っていました。霊感などない私でも神の存在を考え、時には感じることもありました。午後6時にはほとんどすべての仕事が終わるので、それも良いところかもしれません。

この仕事の悪い点は?

 本来はどうかはともかく、労働基準法で定められている…というような一般社会の概念が基本的に通用しません。「労働」ではなく「奉仕」なのだと言われます。

 また、職場での人間関係は、場所によって異なると思いますが、自分のところのように時代遅れの因習が多く残っていると聞きます。飲み会でのアルハラ、パワハラ、巫女へのセクハラ、男尊女卑、いじめ、暴力…。閉鎖的な職場ですから、職場恋愛・結婚・不倫なども多いです。上にいる人間次第ですべて決まります。

 この職には、清廉潔白でまっすぐな方と、社会経験もないまま親のコネだけで偉くなる方と両極端なタイプがいます。しかし、最終的に出世できるのは、何百年のしきたりで血縁関係のある方と決まっています。

――――――――――

 「神主」の仕事と年収、いかがでしたでしょうか?

 一般人からすると職業としての「神主」は、なかなか馴染みがありませんが、その実態はやはり、ちょっと特殊なようです。
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
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一般社団法人今井むつみ教育研究所代表理事 慶應義塾大学名誉教授