テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
会員登録 テンミニッツTVとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2018.10.04

群馬の超一流企業「株式会社 原田」とは?

 群馬に本社を構え、創業は1901年、売上高179億円(2017年実績)という超一流企業「株式会社 原田」をご存知でしょうか。これだけの情報では、多くの人は「何その会社?」と思うかもしれません。しかし、商品を見れば「あぁ、アレね」と思うはずです。株式会社原田の主力商品は、グーテ・デ・ロワ。お土産でもらったことがある人、デパートのお菓子売り場で見かけたことのある人もいるでしょう。あの有名な「ラスク」です。

 このラスク、銀色にフランスの国旗を想起させる青、白、赤のラインが入ったデザインのパッケージといえば思い出せる方も多いのではないでしょうか。なんとも高級感のあるラスクですよね。デパ地下でみかける洋菓子店「ガトーフェスタ・ハラダ」の売り場では常連客が行列を作っていることもしょっちゅうです。特に年末年始の帰省シーズンやバレンタイン、ホワイトデーといったイベントの頃には行列もなかなかの長さに。またお中元やお歳暮などの贈答品としても重宝され、地方百貨店からは催事への出店要請が引きも切らないそうです。

宮殿のような本社と近未来の工場

 大人気のガトーフェスタ・ハラダですが、そのすごさは本社を見に行くとよく分かります。外観を正面から見ると白い柱が立ち並び、まるで宮殿のような建物です。しかし場所は群馬の中心地から外れた街中で、向かいは陸上自衛隊駐屯地。行ってみれば「なぜココにこんな建物が?」という感じを抱かないわけにはいきません。群馬県高崎市にある本社には、フラッグショップである本館「シャトー・デュ・ボヌール」があり、横には「シャトー・デュ・エスポワール(希望の館)」と名付けられた本社工場が並んでいます。

 すごいのは外観だけではありません。宮殿風の本社内に入るとアート作品が展示してあり、毎月、コンサートや展示会も開催されています。また、2017年には子会社の「rin art association」がJR高崎駅東口に現代アートギャラリーをオープンしています。

 工場は無料で見学が可能です。実際に行ってみた人の記事によると、1階のレセプションでスタッフさんに工場見学をしたい旨を申し出ると、工場見学パンフレットやステッカー、試食のグーテ・デ・ロワを頂けるとのこと。ガラス越しにさまざまな生産作業を見ることができますが、大部分はロボットが行っており、未来感抜群の工場のようです。また、工場見学では、ここでしか食べられない工場見学限定のラスクを食べることもできます。これはオーブンに入れる前の柔らかいもので、まさに現地だけ工場だけで食べることのできる特別感。また現地では、割れたお徳用ラスクやフランスパン、現地限定品ラスクなどここでしか手に入らない商品もたくさんあります。

慎重かつ大胆な経営判断で勝機を拡大

 原田の歴史をたどると、もともとは和菓子店として創業したのち、戦後には洋菓子に参入し、パン、洋菓子、和菓子を扱う食品メーカーとなります。この後、バブル崩壊後の景気の悪化に伴った贈答品需要の減少に直面し、原田は赤字が続きます。このとき社長に就任した現社長の原田義人氏と妻の節子専務が生き残りをかけて開発したのが「ラスク」だったそうです。

 こうして「グーテ・デ・ロワ」が完成したのは2000年のこと。その後2000年代半ばに売上を拡大します。ここで、原田氏は思い切った賭けにでています。まず売上3億円強の段階で7億の借金、売上27億まできたところで42億円の借金、そして現高崎工場の建設時には、なんと130億円もの設備投資を行うのです。これに伴い、2000年以前は15人程度だった従業員も1000人弱にまで増えます。しかし、これは無謀な賭けだったわけではなさそうです。

 ラスクが今ほど知られていなかった1990年代、原田は地道に都内の物産展に参加して販促活動を行い、折込みチラシを配布し、徐々に注文を増やしていきます。転機となったのは2007年の4月。東京都内に出店したことが起爆剤となりました。口コミが口コミを呼び、やがてメディアに取り上げられます。しかし、原田氏は「ブームで終わらぬよう、商品の適正規模を見極めながら、流通量が過剰にならないように、しかし、需要を満たせるように考えながら設備投資を行ってきた」という趣旨のコメントをしています。決して無謀に拡大したわけではなく、需要の状態を見極めながら勝機を見出してきた原田氏の慎重さと大胆さがうかがえます。

 ほぼラスクだけで全国的な知名度、売上高179億円ということにも驚きですが、その裏にある大胆な経営判断や近未来的な工場など、この企業には驚きの連続です。もし群馬に立ち寄ることがあれば、本社を訪れて、このエネルギーとダイナミズムを体感してみてはいかがでしょうか。

<参考サイト>
・GATEAU FESTA HARADA
http://www.gateaufesta-harada.com/
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
“社会人学習”できていますか? 『テンミニッツTV』 なら手軽に始められます。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

マネへの強烈なライバル意識…セザンヌ作品にみる現代性

マネへの強烈なライバル意識…セザンヌ作品にみる現代性

作風と評論からみた印象派の画期性と発展(1)セザンヌの個性と現代性

印象派の最長老として多くの画家に影響を与えたピサロ。その影響を多分に受けてきた画家の中でも最大の1人がセザンヌだが、その才覚は第1回の印象派展から発揮されていた。画面構成や現代性による解釈から、セザンヌ作品の特徴...
収録日:2023/12/28
追加日:2025/07/10
安井裕雄
三菱一号館美術館 上席学芸員
2

AI時代の「真のリアル」は文芸評論の練達の手法にあり!

AI時代の「真のリアル」は文芸評論の練達の手法にあり!

編集部ラジオ2025(14)なぜAI時代に文芸評論が甦るのか

どんどんと進む社会のAI化。この大激流のなかで、人間の仕事や暮らしの姿もどんどん変わっていっています。では、AI時代に「人間がやるべきこと」とはいったい、何なのでしょうか? さらにAIが、驚くほど便利に何でも教えてく...
収録日:2025/05/28
追加日:2025/07/10
テンミニッツTV編集部
教養動画メディア
3

なぜ思春期は大事なのか?コホート研究10年の成果に迫る

なぜ思春期は大事なのか?コホート研究10年の成果に迫る

今どきの若者たちのからだ、心、社会(1)ライフヒストリーからみた思春期

なぜ思春期に注目するのか。この十年来、10歳だった子どもたちのその後を10年追跡する「コホート研究」を行っている長谷川氏。離乳後の子どもが性成熟しておとなになるための準備期間にあたるこの時期が、ヒトという生物のライ...
収録日:2024/11/27
追加日:2025/07/05
長谷川眞理子
日本芸術文化振興会理事長
4

正岡子規と高浜虚子の論争、その軍配と江藤淳暦年のテーマ

正岡子規と高浜虚子の論争、その軍配と江藤淳暦年のテーマ

AI時代に甦る文芸評論~江藤淳と加藤典洋(3)正岡子規と高浜虚子の「リアリズム」

正岡子規の死後、高浜虚子が回想で述べた師・子規との論争。そこに「リアリズムとは何か」のヒントが隠されていると江藤淳氏は言う。子規と虚子、それぞれの「リアル」とは何か、そしてどちらが本当の「リアル」なのか。近代小...
収録日:2025/04/10
追加日:2025/07/09
與那覇潤
評論家
5

グリーンランドに米国の軍事拠点…北極圏の地政学的意味

グリーンランドに米国の軍事拠点…北極圏の地政学的意味

地政学入門 ヨーロッパ編(10)グリーンランドと北極海

北極圏に位置する世界最大の島グリーンランド。ここはデンマークの領土なのだが、アメリカの軍事拠点でもあり、アメリカ、カナダとヨーロッパ、ロシアの間という地政学的にも重要な位置にある。また、気候変動によってその軍事...
収録日:2025/02/28
追加日:2025/07/07
小原雅博
東京大学名誉教授