テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
ログイン 会員登録 テンミニッツTVとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2015.04.01

仕事で悩んだ時に背中を押してくれる言葉

背中を押してくれる「言葉」の輝き

 ツイッターやSNSの普及で、「いい言葉」や「いい話」に出会う機会が増えた。倫理や道徳と肩を張らなくても、人は背中を押してくれる言葉や実話を求めているのかもしれない。

 古今東西の名言が競うなか、いぶし銀の「言葉」を放つ人がいる。「経営の神様」松下幸之助だ。その経営哲学は、「人間大事」の4文字から出発した。このように証言するのは、松下氏の晩年23年間を秘書として仕え、PHP研究所の社長も務めた江口克彦氏(現参議院議員)だ。

「いいものを安くたくさん」は人への礼節

 「人間大事」を経済に当てはめると、商品や仕事はすべて「人間のため」に奉仕すべきだということになる。「素晴らしい人間」のために存在する商品は、できるだけ良いものであり、手の出る価格で、どんな時も不足しないストックが必要だ。それを支えるために企業は存在すると考える。

 人間相手だから、暴利はむさぼらないし、がんばって働く社員を能力で「切り捨てる」こともしない。「人間大事」の原点が「お客様大事」「社員大事」につながる。これらの使命感は、松下翁の生涯を通じて揺らぐことがなかった。

「社員大事」の精神で苦境を乗り切る

 創業からわずか10年余り、昭和恐慌の最も苦しかった時期に松下幸之助は「社員大事」の精神を発揮して苦境を乗り切り、会社を一段と成長させた。

 1929(昭和4)年の世界恐慌が日本に波及して企業の倒産が相次ぐなか、「倒産か、社員半減か」の決断を迫られる局面を迎えたのである。当時の専務だった井植歳男氏が人員整理案を携えて、西宮の自宅で静養中だった社長の病床を訪れる。

 「大将、ついにうちも解雇せななりません。名簿を持ってきました」

「一人も解雇するな、1円も給料を下げるな」

 幸之助氏は布団の上に正座すると、解雇者名簿に目を通し、涙を流した。

 会社を大きくすれば世の中のためになると思ってここまでやってきた。一人ひとりの社員を採用してきたのは、そのために役立ってくれ、引いては国にも貢献してくれと願ってのことだ。不況になったからといって人員整理するのは会社のためにもならないし、気の毒に絶えない。そして、井植氏に次の指示が飛んだ。

 「ええか。一人も解雇してはならん! 給料も1円も下げてはならん!」

 「その代わりに工場は半日操業。ただし、従業員総動員で残りの半日を販売に当てる。役員も、技術も、製造も、全員がマーケットに出て倉庫の商品を売れ!」

「人間の本質はダイヤモンドだ!」

 幸之助の指示に固唾を飲んで待っていた従業員一同は「解雇はない。給料も下がらない」と聞いて、感涙にむせぶ。そして一丸となって在庫商品を売りまくり、増産態勢を築いていく。周囲がしょぼくれていた時期だけに、その活気あふれる姿勢は「積極経営」として昭和史に刻まれた。

 後に三洋電機の副社長となった後藤清一氏の著書『叱り叱られの記』では、この時の問答の様子が生々しく記録されている。当時「店員」と呼ばれていた社員たちを数字あわせのために排除することなく尊重した姿勢、「人間の本質はダイヤモンドだ」と言い続けた精神は、今こそ大切に見直されるべきではないか。
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
物知りもいいけど知的な教養人も“あり”だと思います。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,100本以上。 『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

繁華街・新宿のルーツ、江戸時代の遊女が働く飯盛旅籠とは

繁華街・新宿のルーツ、江戸時代の遊女が働く飯盛旅籠とは

『江戸名所図会』で歩く東京~内藤新宿(2)「夜の街」新宿の原点

歌舞伎町を筆頭に、東京でも有数の繁華街を持つ新宿だが、その礎は江戸時代の内藤新宿にあった。遊女が働く飯盛旅籠(めしもりはたご)によって、安価に遊興できる庶民の「夜の街」として栄えた内藤新宿の様子を、『江戸名所図...
収録日:2024/02/19
追加日:2024/04/28
堀口茉純
歴史作家
2

なぜ民主主義が「最善」か…法の支配とキリスト教的背景

なぜ民主主義が「最善」か…法の支配とキリスト教的背景

民主主義の本質(1)近代民主主義とキリスト教

ロシアや中華人民共和国など、自由と民主主義を否定する権威主義国の脅威の増大。一方、日本、アメリカ、西欧など自由主義諸国における政治の劣化とポピュリズム……。いま、自由と民主主義は大きな試練の時を迎えている。このよ...
収録日:2024/02/05
追加日:2024/03/26
橋爪大三郎
社会学者
3

日本は再エネが難しい!?再エネ比率が高い国との相違点

日本は再エネが難しい!?再エネ比率が高い国との相違点

日本のエネルギー&デジタル戦略の未来像(3)電力の部分最適と全体最適

サステナブルな電力の供給と消費が求められる現代社会。太陽光発電のように電力の生産拠点が多元化する中で、それぞれの電力需給と国全体の電力需給のバランス調整が喫緊の課題となっている。実はヨーロッパなどの「再エネ比率...
収録日:2024/02/07
追加日:2024/04/27
岡本浩
東京電力パワーグリッド株式会社取締役副社長執行役員最高技術責任者
4

陰の主役はイラン!?イスラエル・ハマス紛争の宗教的背景

陰の主役はイラン!?イスラエル・ハマス紛争の宗教的背景

グローバル・サウスは世界をどう変えるか(4)サウジアラビアとイランの存在感

中東のグローバル・サウスといえば、サウジアラビアとイランである。両国ともに世界的な産油国であり、世界の政治・経済に大きな存在感を示している。ただし、石油を武器にアメリカとの関係を深めてきたのがサウジアラビアであ...
収録日:2024/02/14
追加日:2024/04/24
島田晴雄
慶應義塾大学名誉教授
5

重要思考とは?「一瞬で大切なことを伝える技術」を学ぶ

重要思考とは?「一瞬で大切なことを伝える技術」を学ぶ

「重要思考」で考え、伝え、聴き、議論する(1)「重要思考」のエッセンス

「重要思考」で考え、伝え、聴き、そして会話・議論する――三谷宏治氏が著書『一瞬で大切なことを伝える技術』の中で提唱した「重要思考」は、大事な論理思考の一つである。近年、「ロジカルシンキング」の重要性が叫ばれるよう...
収録日:2023/10/06
追加日:2024/01/24
三谷宏治
KIT(金沢工業大学)虎ノ門大学院 教授