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DATE/ 2024.10.17

日本の家はなぜこんな「結露」するのか?

日本家屋が結露するのはしかたない?

 気がつくと窓のサッシ周辺をじっとりと濡らしている結露。すぐに拭かないとカビの原因になる、やっかいものですよね。年末の大掃除で押入れの奥やタンスの裏を久しぶりに見たら、結露のカビを発見してガックリ……なんて思いをした方もいらっしゃるでしょう。

 一般的に結露は、気密性が高いマンションと比較的低い一戸建てでは起きやすい場所が異なります。マンションではサッシ周り・北側の壁・暖房が入っていない部屋、一戸建てではサッシ周り・押し入れの中・すべての階の外気に接する壁・1階室内壁の下部が多発地帯です。

 ここで気になるのが、両者に共通するサッシ周りですよね。窓は目につく場所なので特に結露が多いと感じるわけではなく、実際に結露がよく発生します。しかも、季節を問わず1年中です。これは一体、なぜなのでしょうか。「日本は湿度が高いから、結露が多くてもしかたない」といわれることもありますが、乾燥する冬でも起きるということは、湿度の高さが真の原因ではありません。実は、窓にアルミサッシを使用していることが大きな原因なのです。

実は「サッシ後進国」の日本

 それでは、「サッシ」とは何のことでしょうか。「窓」という答えは間違いではないのですが、厳密にいうと少し違います。窓を改めて見てみると、窓ガラスと窓枠から構成されていますよね。メーカーによってはこの窓全体をサッシということもあります。しかしより細かくいうと窓枠、さらには窓枠をつくる部材をサッシといいます。サッシにはアルミのほか、木材や樹脂などが使われます。

 アルミサッシは、日本ならどこの家でも見かけるもの。樹脂サッシ普及促進委員会の調査では、日本のサッシの90%近くがアルミという結果が出ています。ところが世界全体で見るとアルミサッシの普及率がここまで高い国は日本くらいで、北欧諸国では5%にも満たず、アメリカやお隣の韓国でも15%程度。アメリカでは全50州のうち24州が法律でアルミサッシを禁止しており、アメリカや韓国では樹脂、寒さが厳しい北欧諸国では木材が主にサッシとして使われています。

 多くの国がサッシにアルミを使用しない理由は、アルミの熱伝導率が非常に高く、木材や樹脂と比較して約1000倍も熱を通しやすいため。つまりアルミは断熱性能が極めて低く、サッシには向いていないのです。

 この証明が結露の多発です。空気は暖かいほど水分をたくさん含むことができ、寒いほど逆になるという性質があります。このため、暖房で暖かくなった冬の室内の空気が室外の冷えた温度を通したアルミサッシに触れると、急に冷えて結露してしまうのです。

なぜ日本ではアルミサッシが使われるのか

 それなのになぜ、日本ではアルミサッシが多く使われるのでしょうか。実は、アルミは軽くて加工しやすいうえに安価で調達できるからなのです。結局のところ、窓メーカーの都合ありきでつくられているのですね。また、この状況を国が重く見ないことも問題でしょう。

 アメリカにはアルミサッシを禁止する州があるほどですし、ドイツやオーストリアなどのヨーロッパ諸国では結露が起きる家に対して「設計に欠陥がある」という考え方が徹底しています。日本も企業の利益より実際に住む人の快適さを大切にしない限り、サッシ後進国からは抜け出せません。

 もちろんアルミサッシは薄くて軽いので外れにくく、もともとのコストがかからないので住宅の価格を下げられるなどのメリットもあります。しかし、窓を壁の内側にすべて納める内付け窓にすれば重いサッシでも落下の心配はありませんし、断熱性能がしっかりしている家は光熱費がかからないため、長期的に見れば価格の差は埋められます。目先のメリットに惑わされず、「サッシにはアルミ」という常識を疑い、賢い消費者になってください。

効果的な結露対策とは

 そうはいっても現実的には日本のほとんどの家がアルミサッシを使っていますし、それを急に木材や樹脂に取り替えることは難しいですよね。そこで、すぐにできる結露対策をご紹介します。

 まず大切なのは予防です。室内の空気に過剰な水分が含まれないように換気を心がけましょう。浴室やキッチンはもちろん、リビングや寝室も加湿器を使えば意外と水分が多くなるので、すべての部屋を換気することが望ましいです。このとき押入れもいっしょに換気すれば、「大掃除で結露のカビを発見」という事態も防げますよ。これに加えて、室温にムラが出ないように気をつけてください。部屋の下部や隅は冷たい空気が溜まりやすく、この部分だけ結露することがあります。暖かい空気は上昇するので、扇風機などで部屋の空気を循環させるとよいでしょう。

 それでも結露が起きるときは、梱包材として使われる気泡緩衝材、いわゆる「プチプチ」を窓の外側に貼るという手もあります。熱伝導率は個体より気体のほうが低くなるため、たくさん空気を含んでいる気泡緩衝材は断熱性能が高く、アルミサッシの弱点を補ってあげられるのです。また、石油やガスを使用する暖房器具は燃焼のときに水蒸気が発生して結露の原因になりやすいため、石油ストーブやガスファンヒーターの使用を控えると効果が出る場合もあります。結露がひどいときには、室外に排気するエアコンの導入も考えてみてください。

 結露で発生したカビはぜんそくやアトピー性皮膚炎などのアレルギー症状を引き起こすことがあるうえ、ダニのエサになってさらなるアレルギーの原因を呼び込むこともある恐ろしい存在。放っておくと建材を腐食させて、家の寿命まで縮めてしまいます。たかが結露と軽く見ないで、しっかり対策してくださいね。

<参考サイト>
・LIFULL HOME'S PRESS 日本の窓は住まい手の利益よりも窓メーカーの都合に合わせて作られてきた
https://www.homes.co.jp/cont/press/opinion/opinion_00095/
・SUUMOジャーナル 住宅に結露は大敵。健康面でもマイナスが。ほんとはコワイ結露
http://suumo.jp/journal/2013/01/15/36348/
・WELLNEST HOME 窓の正しい結露対策!工務店・住宅メーカーでは教えてくれない結露に強い窓設計とは
https://wellnesthome.jp/2077/
・おうちの悩み.com 結露防止に役立つ対策11選!じめじめ結露にさようなら!【2018年度版】
https://outinonayami.com/sintiku/keturo
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一般社団法人今井むつみ教育研究所代表理事 慶應義塾大学名誉教授