テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
会員登録 テンミニッツTVとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2019.04.06

世界で最も「健康」な国はどこ?日本の順位は?

「健康な国」指数のトップ10とは

 食生活の乱れや生活習慣病など、最近の日本人にはなにかと不健康なイメージがありますよね。しかし日本食は健康に良いといわれますし、長寿の人が多いのも特徴です。世界的に見ると日本はどのくらい健康なのでしょうか。今年2月に発表された、アメリカの情報サービス会社・ブルームバーグの調査による「健康な国」指数の最新版によれば、日本は4位にランクインしています。前回7位から3ランクの順位アップで、前回4位から今回8位に順位を落としたシンガポールを抜いてアジア諸国トップになりました。こうして見ると、日本はさほど不健康な国ではないようです。

 このランキングは169か国を対象に、平均寿命、医療水準、公衆衛生や清潔な飲料水のような環境要因などからスコアを出し、喫煙や肥満などの健康リスクを減点して順位づけされています。先進医療が導入されていてもメタボの人が多ければ減点されるため、先進国なら必ず上位に入るわけではありません。先進7か国のG7諸国で日本以外にトップ10入りしたのは2位のイタリアだけです。

 そんな中で1位に輝いたのはスペイン。そして、スペインとイタリアに加えて3位のアイスランド、5位のスイス、6位のスウェーデン、9位のノルウェーと、ヨーロッパ諸国が大半を占めました。この他にはアジア諸国から日本とシンガポールに加えて10位のイスラエル、オセアニア諸国から7位のオーストラリアがトップ10入りしています。南北アメリカやアフリカの国は入りませんでした。

健康の秘密は手厚い医療福祉と地中海料理

 なぜ、ヨーロッパには健康な国が多いのでしょうか。理由のひとつは、充実した社会保障によって医療が受けやすい点にあるでしょう。スペインでは一般的な外来診療である一次医療が公立の医療センターで提供されており、無償で診察を受けられます。この結果、スペインのがんと心血管疾患による死亡率は10年間で減少する成果を上げています。また、アイスランド・スェーデン・ノルウェーはすべての国民が平等に福祉を受けられる普遍主義型の社会保障制度を取っており、北欧型福祉国家と呼ばれることもあります。国家の手厚い保障があれば、突然の病気や事故でも安心して医療を受けられますよね。

 これに加えて、野菜や魚が多い食生活も健康な国と評価された理由でしょう。注目に値するのは、1位と2位であるスペインとイタリアがともに地中海に面していること。さらに10位のイスラエルも地中海に面した国なので、トップ10のうち3か国が地中海沿いに位置します。

 地中海料理の特徴といえば、カルパッチョやパエリアなどで魚をふんだんに使うことと、アヒージョなどでオリーブオイルをふんだんに使うことが上げられます。魚やオリーブに含まれる油分の不飽和脂肪酸は融点が低く常温で液体になるため、血液をサラサラにして動脈硬化や心筋梗塞を予防すると考えられています。1958年にアメリカのアンセル・キーズ博士が地中海料理を食べる地域を調査したところ、他の地域に比べて血中コレステロール値が明らかに低いことがわかりました。そして、動脈硬化に起因する心筋梗塞や脳卒中の死亡率が世界で最も低いことも判明したのです。この調査結果を受けた近年の研究により、地中海料理にはコレステロール値を下げる効果があると科学的に立証されています。

日本を抜いて世界一の長寿国になるスペイン

 手厚い医療福祉と地中海料理の不飽和脂肪酸効果をあわせもつスペインが、健康な国のトップになったのは当然の結果かもしれません。さらに、2040年にはスペインが現在1位の日本を抜いて世界長寿国ランキングの1位になるとも予測されています。

 この予測結果は、オランダの出版社・エルゼビアが発行する医学雑誌『ランセット』でワシントン大学健康指標評価研究所が発表したレポートによるもの。順位の理由は明確にしていませんが、長寿を妨げる肥満・高血圧・血糖・喫煙・飲酒を中心に250の要因を調査してランキングを作成したとされます。中でも高血圧は動脈硬化や心筋梗塞、喫煙はさまざまながんの原因になるため、これらの死亡率が低くなっているスペインが長寿国トップに浮上するのは納得のいく話ですね。日本はいまだに死因の1位ががん、2位が心臓疾患なので、長寿国トップを維持するにはこの課題を克服する必要があります。

 特に日本人男性は肥満が多く喫煙率が高いため、寿命の平均値を下げる要因になっているとか。実はスペインも喫煙率が高く、年間平均喫煙数は1499本で、553本のノルウェーと比べるととても高いことがわかります。しかし日本はそのスペインを上回る1583本。日本もスペインも、喫煙率を下げることがさらなる長寿をかなえるポイントになりそうです。

<参考サイト>
・These Are the World's Healthiest Nations
https://www.bloomberg.com/news/articles/2019-02-24/spain-tops-italy-as-world-s-healthiest-nation-while-u-s-slips
・BUSINESS INSIDER JAPAN スペイン、日本を抜いて世界一の長寿国へ ── その理由は?
https://www.businessinsider.jp/post-179299
・サライ.jp 医師も薦める「地中海式食事法」で健康な体を手に入れる【予防医療の最前線】
https://serai.jp/health/267866
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
“社会人学習”できていますか? 『テンミニッツTV』 なら手軽に始められます。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,500本以上。 『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

叩き潰せ、正しいのは自分だけ…ロイ・コーンの教えとは

叩き潰せ、正しいのは自分だけ…ロイ・コーンの教えとは

[深掘り]世界を壊すトランプ関税(1)トランプ大統領の動機と思考

トランプ政権が発表した関税政策は、世界を大きな混乱に落とし込んでいる。はたして、トランプ大統領の「動機」や「思考」の淵源とはいかなるものなのか。そして世界はどうなってしまうのか。

島田晴雄先生には、...
収録日:2025/04/15
追加日:2025/04/25
2

共生への道…ジョン・ロールズが説く「合理性と道理性」

共生への道…ジョン・ロールズが説く「合理性と道理性」

危機のデモクラシー…公共哲学から考える(5)共存・共生のための理性

フェイクが含まれた情報や陰謀論が跋扈する一方、多様性が尊重されるようになり多元化する人々の価値観。そうした現代社会で、いかにして私たちはともに公共性を保って生きていけるのか。多様でありながらいかに共存・共生でき...
収録日:2024/09/11
追加日:2025/04/25
齋藤純一
早稲田大学政治経済学術院政治経済学部教授
3

水にビジネスチャンス!?水道事業に官民連携の可能性

水にビジネスチャンス!?水道事業に官民連携の可能性

水から考える「持続可能」な未来(8)人材育成と水道事業の課題

日本企業の水資源に関するリスク開示の現状はどうなっているか。革新的な「超越人材」を生み育てるために必要な心構えとは何か。老朽化する水道インフラの更新について、海外のように日本も水道事業に民間資本が入る可能性はあ...
収録日:2024/09/14
追加日:2025/04/24
沖大幹
東京大学大学院工学系研究科 教授
4

太陽系は銀河系の中で塵のように小さな存在でしかない

太陽系は銀河系の中で塵のように小さな存在でしかない

ブラックホールとは何か(1)私たちが住む銀河系

銀河の中心にある巨大なブラックホールは一体何なのか。それを考えるためには、宇宙にある数多の銀河の構造について正しく理解する必要がある。私たちが住むこの太陽系は、天の川銀河という巨大な銀河のごくごく小さな一部分で...
収録日:2018/10/31
追加日:2019/03/26
岡朋治
慶應義塾大学理工学部物理学科教授
5

実は考古学者と人類学者で違う!? 渡来系弥生人の定義

実は考古学者と人類学者で違う!? 渡来系弥生人の定義

弥生人の実態~研究結果が明かす生活と文化(6)弥生人のDNA

後の二重構造説の見直しにつながっていく「ヤポネシアゲノムプロジェクト」は、これまで手薄だった弥生人のDNA分析によって、古代人の分布について新たな見方を示した。そして、鳥取県にある青谷上寺地遺跡の調査では、現代日本...
収録日:2024/07/29
追加日:2025/04/23
藤尾慎一郎
国立歴史民俗博物館 名誉教授