社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2015.04.21

汚いやり方をしてくる相手への対処法

イエローカードで出し抜かれたら

 「それ、あり?」

 あくどいやり方でライバルに出し抜かれ、いても立ってもいられない!そのやり方たるや法に触れてはいないものの、見習いたくない。とはいえ、このまま放っておけばどんどん差をつけられていく。

 心あるビジネスマンの陥りがちなジレンマだが、実は「経営の神様」松下幸之助も創業間もない頃、そういう試練に向き合っていたと、PHP研究所社長を務めた江口克彦氏(現参議院議員)は証言する。一体どんな状況だったのだろうか。

腹に据えかねる「値引き合戦」の果てに

 価格破壊は昨日・今日に始まったことではない。1935(昭和10)年頃の家電業界でもやはり、価格競争のために市場混乱が極まっていた。

 「原価を割ってまで過当競争をやれば、大企業が勝つに決まっている。それで中小企業がつぶれたら、大企業はまた値段を上げる。そんな『あくどい』やり方は良くない」

 正論に基づいて価格競争に乗らなかった松下電器だが、敵はどこまでも値下げをやめず、価格差は開く一方だ。さすがの幸之助も腹に据えかねる。

大将のやること、やらないこと

 ついに積極的な参戦を思い立った幸之助は、当時の相談相手だった加藤大観氏に「徹底的にやろうと思う」と話してみた。加藤氏は真言宗の僧侶だが、幸之助に惚れ込み、その健康長寿と事業の繁栄のため、日々勤行を続けていた人である。

 「いつも静かな松下さんがそういうからには、よほどのお考えでしょう。やりたいのであればおやりなさい」

 それで答えは終わらなかった。

 「相手が正しくないことをしたからと、自分も同じことをやるのは、大将たる人のやることではありません」

“出船あれば入船もある”のが商売

 目には目を…は大将の方法ではないから、毅然として自分の「正しさ」を貫け、という加藤氏の話はさらに続く。

 「それで買わなくなる人も出てくるかもしれないが、逆に『松下さんは正直だ。商売もしっかりしている』と、新しいお客さまも増えるかもしれない。“出船あれば入船もある”のが商売です」

 幸之助が適正利益を確保した価格での商売を続けたのは、言うまでもない。また、その後の成功も、加藤氏の言う通りになった。

汚いライバルとの汚い戦いで得る結果は

 戦前期の商道徳は現代のビジネスには通用しないと思う向きも多いに違いない。しかし、その後の幸之助が折りにふれて漏らした「商売は、『勝てば官軍ではあかんよ』」の言葉は、江口氏を起業へと動かした。

 同様に、「勝てば官軍」を戒め、「大将たるものの心得」を教える言葉は、グローバリゼーションと円高・円安に一喜一憂し、目的のために手段を正当化しがちな日本の政財界への「予言」「苦言」とも取れるのではないだろうか。汚いライバルとの汚い戦いで得る結果は、やはり汚いのだから。

~最後までコラムを読んでくれた方へ~
物知りもいいけど知的な教養人も“あり”だと思います。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

葛飾北斎と応為…画狂の親娘はいかに傑作へと進化したか

葛飾北斎と応為…画狂の親娘はいかに傑作へと進化したか

葛飾北斎と応為~その生涯と作品(1)北斎の画狂人生と名作への進化

浮世絵を中心に日本画においてさまざまな絵画表現の礎を築いた葛飾北斎。『富嶽三十六景』の「神奈川沖浪裏」が特に有名だが、それを描いた70代に至るまでの変遷が実に興味深い。北斎とその娘・応為の作品そして彼らの生涯を深...
収録日:2025/10/29
追加日:2025/12/05
堀口茉純
歴史作家 江戸風俗研究家
2

夜まとめて寝なくてもいい!?「分割睡眠」という方法とは

夜まとめて寝なくてもいい!?「分割睡眠」という方法とは

熟睡できる環境・習慣とは(4)起きているときを充実させるために

「腸脳相関」という言葉がある。健康には腸内環境が大切といわれるが、腸で重要な役割をしている物質が脳にも存在することが分かっている。「バランスの良い食事」が健康ひいては睡眠にも大切なのは、このためだ。人生は寝るた...
収録日:2025/03/05
追加日:2025/12/14
西野精治
スタンフォード大学医学部精神科教授
3

「国連」の発想の源は?…一方、小共和国連合=連邦構想も

「国連」の発想の源は?…一方、小共和国連合=連邦構想も

平和の追求~哲学者たちの構想(3)サン=ピエールとモンテスキュー

18世紀に「国家連合」というアイデアが生まれたのだが、そのアイデアの発端はフランスの聖職者・外交官のサン=ピエールであった。一方、モンテスキューは集団安全保障的な考え方から「小共和国による連合」「連邦国家」の方向...
収録日:2025/08/02
追加日:2025/12/15
川出良枝
東京大学名誉教授 放送大学教養学部教授
4

「ブッダに帰れ」――禅とは己事究明の道

「ブッダに帰れ」――禅とは己事究明の道

禅とは何か~禅と仏教の心(2)仏典漢訳から日本仏教へ

禅とは己事究明の道であるとして、本当の己は何かを究明していく。インドから伝わった仏教を中国が受容するには仏典漢訳の手続きがあり、経典のことばを尊ぶ傾向が生まれる。経典よりブッダ自身に学ぼうとしたのが禅の芽生えで...
収録日:2024/08/09
追加日:2025/01/20
藤田一照
曹洞宗僧侶
5

なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み

なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み

何回説明しても伝わらない問題と認知科学(1)「スキーマ」問題と認知の仕組み

なぜ「何回説明しても伝わらない」という現象は起こるのか。対人コミュニケーションにおいて誰もが経験する理解や認識の行き違いだが、私たちは同じ言語を使っているのになぜすれ違うのか。この謎について、ベストセラー『「何...
収録日:2025/05/12
追加日:2025/11/02
今井むつみ
一般社団法人今井むつみ教育研究所代表理事 慶應義塾大学名誉教授