テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
会員登録 テンミニッツTVとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2019.05.22

実際に「残業時間」は減っているのか?

 労働に関するニュースを見ない日はありません。特に「残業」に関してはさまざまな方面からデータや意見が出ています。「残業」は私たちの働き方やライフスタイルについて考えるとき、もっとも重要な問題だと言えるでしょう。では実際のところ、世の中から残業は減っているのでしょうか。ここでは調査を元に、少し状況を整理してみましょう。

残業時間「変わらない」が半数

 エン・ジャパン株式会社が運営するミドル世代のための転職サイト「ミドルの転職」では、サイトを利用している35歳以上を対象にアンケートを行っています(2019年3月、有効回答数2,113名)。これによると、「残業時間は増加傾向ですか?減少傾向ですか?」との問いに対して47%が「変わらない」と回答しています。「減少傾向」が26%、「増加傾向」が27%とほぼ同率です。

 残業時間が減少傾向の業種トップ3は、1位「金融」39%、2位「IT・インターネット・ゲーム」35%、3位「広告・出版・マスコミ」31%となっています。反対に増加傾向のトップ3は「メディカル」33%、「流通・小売・サービス」33%、「物流・運輸」32%です。

 残業時間が減少した理由としては「残業規制による強制的な退社」が50%最多となっています。続く理由としては「既存業務の効率化(機械化・IT化・外注など)」が32%、「受注減により業務が減少」17%となっています。一方、残業時間が増加した理由としては「社員の減少(退職・異動)」57%、「既存業務の非効率化(外注業務の内製化など)」35%、「新規の事業なサービス創出に関わる業務が増加」29%です。大きく捉えると、残業が減った理由は「規制」と「効率化」、増えた理由は「人材不足」と「業務の増加」と言えるのではないでしょうか。

残った仕事は中小企業に

 こう見てみると、「残業規制による強制的な退社」は残業を減らす対策としてそれなりの効果をあげているようにも思えます。しかし、よく考えてみれば、残業規制を行うことの出来る企業は、下請けに仕事を投げたり、外注したりすることのできる規模の企業です。残業規制が行われようとも、もちろん仕事の総量は変わりません。自社の社員を残業させられない、となれば、外注するのがもっとも効率的な方法です。ここで仕事を請け負うのは中小企業です。こうなると、中小企業では人材が不足し、業務が増え、実質的に残業規制を行うことが不可能になることは理解できます。残業が増えた理由「人材不足」と「業務の増加」は、中小企業の問題と重なっている部分も多いと思われます。

 もちろん、仕事が中小企業に分配されることは悪いことではないでしょう。しかし、残業規制が行き届かない中小企業での労働環境は悪化します。実際に日本商工会議所が2019年1月に実施した調査(「働き方改革関連法への準備状況等に関する調査」集計結果)によると、時間外労働の上限規制の名称・内容ともに知っている企業は60.4%、知らない企業は39.3%、従業員100人以下では知らない企業が46.4%、50人以下では52.0%と半分を超えます。

 とはいえ、この状況は中小企業の経営者の意識の低さとして切り捨てる問題ではないでしょう。むしろ、「中小企業の経営側が残業規制の意識を持つことは難しい」現実を示していると言えるのではないでしょうか。こういった事情を見てみると、残業の問題を本質的に考えるには、中小企業における労働の問題をどのように解決していくのか、仕事の総量が減らない以上、法規制だけではないもう少し多角的な観点から見る必要があると言えるのではないでしょうか。

<参考サイト>
・ミドル2000人に聞く「残業時間」実態調査 5割が「自社の残業時間に変化がない」と回答。| @Press
https://www.atpress.ne.jp/news/182154
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
「学ぶことが楽しい」方には 『テンミニッツTV』 がオススメです。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

豊かな江戸文化の礎は?…「享保の改革」以降の政策を比較

豊かな江戸文化の礎は?…「享保の改革」以降の政策を比較

田沼意次の革新力~産業・流通・貨幣経済(6)江戸後半100年を支えた田沼時代

江戸時代、化政文化期の文化人を生んだのは、経済や文化の発展が積極的に促された田沼時代だった。そんな田沼時代の政策を、享保の改革、田沼時代、寛政の改革という3つの時期で比較しながら改めて振り返る。そこから、その後の...
収録日:2025/01/28
追加日:2025/07/04
養田功一郎
元三井住友DSアセットマネジメント執行役員
2

ヨーロッパとは?地図で読み解く地政学と国際政治の関係

ヨーロッパとは?地図で読み解く地政学と国際政治の関係

地政学入門 ヨーロッパ編(1)地図で読むヨーロッパ

国際政治の戦略を考える上で今やかかせない地政学の視座。今回のシリーズではヨーロッパに焦点を当て、地政学の観点から情勢分析をする。第1話目では、まず地政学の要点をおさらいし、常に揺れ動いてきた「ヨーロッパ」という領...
収録日:2025/02/28
追加日:2025/05/05
小原雅博
東京大学名誉教授
3

ブレーキなき極右ポピュリズム…文化戦争を重視し経済軽視

ブレーキなき極右ポピュリズム…文化戦争を重視し経済軽視

第2次トランプ政権の危険性と本質(1)実は「経済重視」ではない?

「第二次トランプ政権は、第一次政権とは全く別の政権である」――そう見たほうが良いのだと、柿埜氏は語る。ついつい「第1次は経済重視の政権だった」と考えてしまいがちだが、実は第2次政権では「経済」の優先順位は低いのだと...
収録日:2025/04/07
追加日:2025/05/10
柿埜真吾
経済学者
4

なぜ『ホトトギス』に注目?江藤淳の「リアリズムの源流」

なぜ『ホトトギス』に注目?江藤淳の「リアリズムの源流」

AI時代に甦る文芸評論~江藤淳と加藤典洋(2)江藤淳の「リアリズムの源流」

文芸評論を再考するに当たり、江藤淳氏の「リアリズムの源流」を振り返ってみる。一般的に日本で近代小説が始まった起源は坪内逍遥だといわれるが、江藤氏はそれに疑問を呈す。そして注目したのが、夏目漱石の「坊ちゃん」であ...
収録日:2025/04/10
追加日:2025/07/02
與那覇潤
評論家
5

幸せになるための条件は4つに集約することができる

幸せになるための条件は4つに集約することができる

「心から幸せになるためのメカニズム」を学ぶ(3)自己実現と成長の「やってみよう因子」

日本人を対象としたアンケートに基づく研究によれば、幸せの源泉は4つの因子に集約することができるという。その1つ目が、「やってみよう因子」という自己実現と成長の因子である。自分の仕事などに対して、やらされ感ではなく...
収録日:2020/07/01
追加日:2020/08/18
前野隆司
武蔵野大学ウェルビーイング学部、学部長