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DATE/ 2019.05.25

外国人が日本で働いてみて感じたギャップとは?

今後さらに増える外国人労働者

 最近、コンビニや居酒屋を利用すると外国人の店員が対応してくれることが増えましたよね。これは、政府が外国人の受け入れ政策に力を入れているため。2018年10月時点で日本には約146万人の外国人労働者がおり、過去10年間で約3倍にも増えました。特に外国人労働者の約3割が働いている東京都では、外国人の店員に出会う機会が多くなっています。人口減少が続く日本では、当然ながら労働人口も減っており、この不足を補う存在として外国人労働者に期待が寄せられているのです。

 今年4月には改正出入国管理法が施行され、今まで禁止されていた単純労働を目的とする入国が可能になりました。具体的にはふたつの在留資格が新設されています。ひとつめの「特定技能1号」は、日本語や業務に関するスキルの保有が取得条件で、最長5年の日本在留が認められます。ふたつめの「特定技能2号」は、専門的な熟練したスキルの保有が取得条件で、在留期間は更新可能です。

 もともと日本には、外国人をスキル研修のために受け入れる技能実習制度がありますが、現場では人手不足を補う単純労働力になっているのが実態です。また留学生のアルバイトも認められていますが、この制度を悪用して「留学生」の立場で入国してから働くために行方をくらませてしまう外国人も少なからずいました。しかし労働目的の入国が公に認められた今後は、より多くの外国人が堂々と日本に働きにきてくれるでしょう。

外国人労働者が日本でギャップを感じるのは

 それでは、日本は外国人にとって働きやすい国なのかというと、決してイエスとはいえないようです。人材情報を手広く扱うマイナビが、日本でアルバイト経験のある15歳以上の在日外国人294名に行ったアンケートの回答からは、母国と日本のギャップに戸惑う外国人労働者の姿が見えてきます。

 このアンケートで1位となったギャップは、39.1%で「挨拶・マナーが厳しい」でした。さらに2位は36.1%で「時間に厳しい」、3位は34.7%で「上下関係が厳しい」と続きます。どれも日本では社会人の常識として浸透していますが、守るべきマナーの内容や程度は国ごとに違いますよね。勤勉できっちりした日本人が生み出した礼儀作法には、多くの外国人がギャップを感じてしまうという結果になりました。

 実は、日本人が礼儀作法にとてもこだわる民族だと感じた外国人は古い時代から存在します。戦国時代に日本を訪れたスペイン出身の宣教師コスメ・デ・トーレスは、「日本人がお互いに交わす挨拶は表現ができないほど丁寧」という内容を後世に伝えています。また、幕末に駐日公使となったイギリスの外交官ラザフォード・オールコックは、「日本人は儀式的なことを重んじる堅苦しい国民」という内容を書き残しています。歴史上の人物も、母国と日本の礼儀作法のギャップに驚いたのですね。

日本人にとっての外国人労働者

 逆に、日本人が外国人労働者に感じるギャップはどのようなものでしょうか。ビジネス向けソフトウェアの開発・提供を行うスタディストが、外国人労働者の育成経験を持つ男女735人に行ったアンケートの回答は、先ほどの外国人労働者の回答と対になるものがあり、興味深い結果となっています。

 「外国人労働者の育成において苦労したこと」の回答では、1位が51.8%で「コミュニケーションが取りづらかった」、2位が46.7%で「口頭での指示が正しく伝わらなかった」となり、続く3位が35.8%で「生活習慣や文化の違いに戸惑った」、4位が23.9%で「時間に対してルーズだった」という結果に。3位からは挨拶やマナーの重要性のギャップに戸惑う姿が浮かびますし、4位には時間に対する意識の違いがはっきりと表れています。

 この一方で、「外国人労働者の育成において役に立つと感じるもの」の回答では、1位が49.7%で「互いの文化を理解する時間」となっており、日本人が外国人労働者に歩み寄って理解しようと考えていることがわかります。雇用者が労働者を尊重する態度で迎え入れる姿勢は大切ですよね。

 外国人労働者は故郷を離れ、見知らぬ国で一生懸命働いています。そして日本はすでにその労働力に頼っています。日本人は今後いっそう、外国人労働者に感謝と応援を送る必要があるでしょう。

<参考サイト>
・マイナビ 日本で働いてみて感じた母国とのギャップ第1位は「礼儀・作法が厳しい」
https://www.mynavi.jp/news/2019/04/post_20043.html
・FNN.jpプライムオンライン 8割以上が育成に苦労…外国人労働者と“共生”するために一番やってはいけないこと
https://sp.fnn.jp/posts/00417090HDK
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