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DATE/ 2019.05.29

世界遺産と違う「日本遺産」って知ってる?

 毎年、世界遺産の新規登録が発表される時期は、ノーベル賞などと同様に大きく賑わいます。2018年には「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」が登録され、話題となりました。

 みなさん、「世界遺産」のことはよくご存知かと思いますが、「日本遺産」という認証制度があることを知っていますか。今回の記事では、「日本遺産」とは何か、どんな文化財が登録されているのかなど具体例を交えながらご案内していきます。

「世界遺産」と「日本遺産」の違い

 「世界遺産」の登録母体は国際連合教育科学文化機関、すなわちユネスコです。「文化財の保護」を主な目的としています。一方、「日本遺産」は文化庁が認定する日本独自の制度です。文化財の保護ではなく、「地域の活性化」を目的としています。

 「日本遺産」の認定対象となるのは「地域の歴史的魅力や特色を通じて我が国の文化・伝統を語るストーリー」です。認定基準は次の3つになります。

 第一に「歴史的経緯や地域の風土に根ざし世代を超えて受け継がれている伝承、風習等を踏まえたストーリーであること」。

 第二に「ストーリーの中核には、地域の魅力として発信する明確なテーマを設定の上、建造物や遺跡・名勝地、祭りなど、地域に根ざして継承・保存がなされている文化財にまつわるものが据えられていること」。

 そして第三に「単に地域の歴史や文化財の価値を解説するだけのものになっていないこと」。

世界に誇る日本の教育

 この制度がスタートした平成27年度から平成30年度までに認定されたストーリーは67件です。実際に認定された「日本遺産」を見てみましょう。

 はじめに紹介するストーリーのタイトルは「近世日本の教育遺産群-学ぶ心・礼節の本源-」。平成27年4月24日に認定されました。対象となった自治体と文化財は、茨城県水戸市の旧弘道館、栃木県足利市の足利学校跡、岡山県備前市の旧閑谷学校、大分県日田市の咸宜園跡です。

 近世の日本人が学んだ私塾や藩校を「世界に誇る日本の教育」としてアピールしています。

明治貴族が描いた未来

 もう一つ、認定例を紹介します。栃木県の「明治貴族が描いた未来 ~那須野が原開拓浪漫譚~」です。平成30年5月24日に認定されました。

 華族農場の別荘文化を象徴する旧青木家那須別邸、山縣有朋記念館、乃木希典那須野旧宅など30ほどの文化財で構成されています。NHKの大河ドラマ「いだてん」で生田斗真演じる三島弥彦の一族・三島家の農場事務所跡地も登録されています。

課題は「日本遺産」の認知度

 近世、近代の認定ストーリーをご紹介しましたが、もちろん古代や中世のストーリーもあります。「国境の島 壱岐・対馬・五島 ~古代からの架け橋~」は、古代から中世において、大陸との交易・交流拠点として盛えた歴史文化が評価されています。

 こうした国際交流を強調したストーリーは外交にも活かされるでしょう。また、認定された事例はありませんが、海外にも日本文化を伝えるストーリーがたくさんあります。世界中のジャパンタウンや日本庭園はその一例でしょう。

 「日本遺産」の認定は、「地域の活性化」を目的としているので、今後も認定される可能性は低いのかもしれませんが、「海外」を含めてすこしエッジの効いた視点からも日本文化を紹介していってほしいものです。そうした試みが、いま課題となっている「日本遺産」の認知度を高めるきっかけになるかもしれません。

<参考サイト>
・日本遺産ポータルサイト
https://japan-heritage.bunka.go.jp/ja/
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