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日本で将来「週休3日」は広がるのか?
2019年4月22日、アメリカの世界最大手のコンピュータソフトウェア会社マイクロソフトコーポレーションの日本法人・日本マイクロソフトが、夏季限定で週休3日制を導入すると発表しました。
正社員約2300人を対象に、2019年8月の1カ月間の金曜日を全て有給休暇とし、国内の全オフィスを閉鎖。試用期間で得られた生産性の向上具合などの効果も測定し、結果は取引先などに公表するとしています。
ねらいは「社員の生産性や創造性を向上させること」。具体的には「労働時間の削減」や「一人あたりの業務生産性の向上」など効果を検証し、業務改善につなげていく考えを示しています。
最も早かったのはアメリカの自動車会社フォードで、1926年に週48時間労働から40時間労働に移行しました。ただし、当時のフォードは不況の中で人員削減を避けつつ生産の調整をする必要があるという事情があり、松下幸之助研究・日本経営史の研究者でPHP研究所経営理念研究本部・本部次長の渡邊祐介氏は「ある意味強いられた導入だった」といいます。
日本で最初に週休2日制を導入した企業は松下電器産業(現パナソニック)で、1965年4月から「週五日制」(週休2日制)が採用されました。導入の経緯について創業者の松下幸之助は、1962年に雑誌『放送朝日』で行われた対談で、以下のように答えています。
「日本の産業もこれからますます生産性が向上してくるでしょう。<中略>そうなってくると労働者は勤務中1分1秒のすきもなく、8時間なら8時間を全精神を集中してやらねばならぬ。だから非常に疲労が出てくる。この疲労回復のために、一日余分に休養を要するだろう。そこで週五日にしなきゃいけない」
さらに「幸之助は、ただ休みを増やすのではなく、“一日休養、一日教養”として週休二日のうちの一日の休日を教養の取得にあてることを社員に求めた。“週五日制”が社員にとって、産業人として、社会人としての向上に資するものとなることを強く望んだのである」と、渡邊氏は述べています。
女将の宮崎知子氏は「働く人がリズム良く生活しないと、会社は続かない。ライフスタイルを変えよう」との考えから、2016年1月から月・火・水曜日を休館日とした旅館の営業に週休3日制を導入します(ただし、正月・ゴールデンウイーク・お盆は通常の休館日と異なります)。
さらに有給休暇を消化できていない社員には、ほぼ強制的に月曜日に有給休暇を取得してもらうことにより、単純に計算で月に1~2回は週休3日となるように調整しているといいます(なお、陣屋では社員の給与は年俸制であるため、休みが増えても給与が減るということはありません)。
成功の裏には「陣屋コネクト」という独自システムの開発と導入はありますが、「ITは単なる道具。使うスタッフの動き方を変えなければ意味がない」と宮崎氏が言い切るように、ハード面の強化だけでなく、ソフト面の最適化とレベルアップがありました。
スタッフ一人ひとりとの丁寧な面談のうえでの仕事の最適化、徹底した目的意識の共有化、さらには茶道・着付け・サービス・ワイン知識などの外部講師を招いた研修などを取り入れることにより、離職率を30%減らしつつも社員の平均年収を約100万円もアップさせることに成功するなど、一人あたりの労働時間を削減すると同時に、一人あたりの労働の質や業務生産性を向上させています。
日本における「週休制」の確立は、第二次世界大戦後の1947年に制定された労働基準法(昭和22年法律49号)の第35条「使用者は、労働者に対して、毎週少なくとも一回の休日を与えなければならない」からとされています。
しかし、多様な生き方が選択でき、また認められている現代においては、それにともない多様な働き方がますます必要になっています。「週休3日」の普及にとどまらず、週や時間といった概念にとらわれない新たな働き方が求められ、広がっていくのかもしれません。
正社員約2300人を対象に、2019年8月の1カ月間の金曜日を全て有給休暇とし、国内の全オフィスを閉鎖。試用期間で得られた生産性の向上具合などの効果も測定し、結果は取引先などに公表するとしています。
ねらいは「社員の生産性や創造性を向上させること」。具体的には「労働時間の削減」や「一人あたりの業務生産性の向上」など効果を検証し、業務改善につなげていく考えを示しています。
松下幸之助が求めた“一日休養、一日教養”
週休3日の前提となる「週休2日制」は、第二次大戦前の欧米から始まりました。最も早かったのはアメリカの自動車会社フォードで、1926年に週48時間労働から40時間労働に移行しました。ただし、当時のフォードは不況の中で人員削減を避けつつ生産の調整をする必要があるという事情があり、松下幸之助研究・日本経営史の研究者でPHP研究所経営理念研究本部・本部次長の渡邊祐介氏は「ある意味強いられた導入だった」といいます。
日本で最初に週休2日制を導入した企業は松下電器産業(現パナソニック)で、1965年4月から「週五日制」(週休2日制)が採用されました。導入の経緯について創業者の松下幸之助は、1962年に雑誌『放送朝日』で行われた対談で、以下のように答えています。
「日本の産業もこれからますます生産性が向上してくるでしょう。<中略>そうなってくると労働者は勤務中1分1秒のすきもなく、8時間なら8時間を全精神を集中してやらねばならぬ。だから非常に疲労が出てくる。この疲労回復のために、一日余分に休養を要するだろう。そこで週五日にしなきゃいけない」
さらに「幸之助は、ただ休みを増やすのではなく、“一日休養、一日教養”として週休二日のうちの一日の休日を教養の取得にあてることを社員に求めた。“週五日制”が社員にとって、産業人として、社会人としての向上に資するものとなることを強く望んだのである」と、渡邊氏は述べています。
「働き方改革」の先にある「週休3日」
週休3日の好例として、旅館業界では難しいとされていた週休3日制を導入し、社員にも定期的に週休3日を取り入れた事例として、神奈川県の鶴巻温泉にある老舗旅館「陣屋」があります。女将の宮崎知子氏は「働く人がリズム良く生活しないと、会社は続かない。ライフスタイルを変えよう」との考えから、2016年1月から月・火・水曜日を休館日とした旅館の営業に週休3日制を導入します(ただし、正月・ゴールデンウイーク・お盆は通常の休館日と異なります)。
さらに有給休暇を消化できていない社員には、ほぼ強制的に月曜日に有給休暇を取得してもらうことにより、単純に計算で月に1~2回は週休3日となるように調整しているといいます(なお、陣屋では社員の給与は年俸制であるため、休みが増えても給与が減るということはありません)。
成功の裏には「陣屋コネクト」という独自システムの開発と導入はありますが、「ITは単なる道具。使うスタッフの動き方を変えなければ意味がない」と宮崎氏が言い切るように、ハード面の強化だけでなく、ソフト面の最適化とレベルアップがありました。
スタッフ一人ひとりとの丁寧な面談のうえでの仕事の最適化、徹底した目的意識の共有化、さらには茶道・着付け・サービス・ワイン知識などの外部講師を招いた研修などを取り入れることにより、離職率を30%減らしつつも社員の平均年収を約100万円もアップさせることに成功するなど、一人あたりの労働時間を削減すると同時に、一人あたりの労働の質や業務生産性を向上させています。
多様性の時代と「週休制」の改革
陣屋の事例のように、休日を増やして安定したライフスタイルを働く人に提供することや長時間労働を是正することは「働き方改革」の重要項目の一つですが、「週休3日」や「週休2日」を考える際、その大前提には1週を単位として休日を与える制度としての「週休制」があります。日本における「週休制」の確立は、第二次世界大戦後の1947年に制定された労働基準法(昭和22年法律49号)の第35条「使用者は、労働者に対して、毎週少なくとも一回の休日を与えなければならない」からとされています。
しかし、多様な生き方が選択でき、また認められている現代においては、それにともない多様な働き方がますます必要になっています。「週休3日」の普及にとどまらず、週や時間といった概念にとらわれない新たな働き方が求められ、広がっていくのかもしれません。
<参考文献・参考サイト>
・「日本マイクロソフト、夏季限定で週休3日制 生産性を向上」(『日本経済新聞』2019年4月23日付)
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO44065590S9A420C1TJ2000/
・「陣屋 神奈川・秦野市-週休3日制の導入で 離職率30%減 年収100万円アップ-」、『商業界』(2018年3月号、商業界)
・「週休制」、『日本大百科全書』(小学館)
・松下幸之助 日本初の「週休二日制」導入~使命としての「働き方改革」
https://shuchi.php.co.jp/management/detail/5927?
・旅館業界では“あり得ない”週休3日 それでも「陣屋」の売り上げが伸び続けるワケ
https://www.itmedia.co.jp/enterprise/articles/1810/04/news020.html
・労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)
https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=322AC0000000049#167
・「日本マイクロソフト、夏季限定で週休3日制 生産性を向上」(『日本経済新聞』2019年4月23日付)
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO44065590S9A420C1TJ2000/
・「陣屋 神奈川・秦野市-週休3日制の導入で 離職率30%減 年収100万円アップ-」、『商業界』(2018年3月号、商業界)
・「週休制」、『日本大百科全書』(小学館)
・松下幸之助 日本初の「週休二日制」導入~使命としての「働き方改革」
https://shuchi.php.co.jp/management/detail/5927?
・旅館業界では“あり得ない”週休3日 それでも「陣屋」の売り上げが伸び続けるワケ
https://www.itmedia.co.jp/enterprise/articles/1810/04/news020.html
・労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)
https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=322AC0000000049#167
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