テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
ログイン 会員登録 テンミニッツTVとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2019.07.19

大人の学び方とリベラルアーツの必要性

 AIやIT技術、医療、社会制度など、生活に関わるあらゆる面で多くの事象が大変なスピードで変化し、それに伴って価値観も変化する時代です。そうした変化の時代、不確実性の時代に対応するため、あるいはその中にあって揺らぎのない自分ならではの意見や見方を身につけたい。こうした欲求から「大人の学び」やより深く幅広い教養・リベラルアーツを身につけたいという傾向も、強まってきているようです。東京大学の教授陣が、「教養とは何だろうか。教養を身につけるためには何をどう学べばいいのだろうか」という疑問に答えるべく『大人になるためのリベラルアーツ:思考演習12題』(東京大学出版会)をまとめたのも、こうしたニーズを受けてのことといえるでしょう。

大人には大人の学び方がある

 しかし、「大人には、学生時代とは異なる大人ならではの学び方がある」と言うのは、東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授で経済学者の柳川範之氏です。柳川氏が勧める大人の学び方は、まず「休み休み勉強する」ということ。大人には大人の事情、仕事や家庭の事情というものがあり、いざ勉強しようと思っても時間がとれないことがしばしばあります。柳川氏は、「途中で中断してもいい。中断しながらでも、止めずに続けていくことが大事であり自信にもなる」と言います。

 また、知識を覚える、暗記することにこだわらないというのも大人の学びのコツの一つです。今や、ネットを通じてさまざまな知識にたどり着くことができますし、何度でも読み返すことができます。なので、そうした知識を自分の頭に格納することにはこだわらず、むしろ、そのような知識を自分の「知恵」に替えていくことが重要なのです。

 つまり、得た知識は単なる素材や材料であって、そのままではおいしい料理にはなりません。自分なりに素材の特徴を把握したり、組み合わせや調理の仕方を工夫する。要するに、素材である知識を使って、自分なりに考えて掘り下げて、他者に説明できるようにもなる。こうすることで、知識という材料は味わい深い知恵になる。他の人に提供すると「おいしい」と言ってもらえる価値を生む、ということなのです。

異分野を広く学ぶことの意味

 また、こうして自分なりに知識を深めていく際に必要なのが、いろいろな異なる分野の知識を結びつけることだと柳川氏は言います。自分の得意分野や専門分野だけで学びを深めても、それは新しい価値創造には結びつきにくい。いわゆる「専門バカ」になってしまう可能性すらあります。

 狭い分野にこだわるより、一見関係なさそうな分野を学ぶことで、意外な共通項や新たな価値に気がつくかもしれません。そういう意味でも、大人の学びには人文科学・社会科学・自然科学・芸術といった複数の分野に橋をかけるようにして学ぶリベラルアーツが不可欠なのです。

 知識を本やネットの中のだけのものにしておかない。自身の経験と照らし合わせながら、視野を広くもって、学び続ける。これこそが大人の学び方であり、その有効手段としてリベラルアーツ的な知へのアプローチがあるといえるでしょう。

リベラルアーツで一生学ぶ

 より豊かな経験を積んだことを学びに生かす。この大人の学び方を、東京大学では学生にも体得させるべく、後期教養課程というプログラムを導入しているそうです。通常は、大学に入って最初の2年間、1、2年生のうちは教養学部に所属するのですが、この後期教養課程では、3、4年生になってある程度専門の知識を学んでから教養課程の広い分野の科目をとるというものだそうです。つまり、経験を積んだ社会人が、その経験や専門知識にこだわらず幅広い分野の教養に触れて、自らの知の財産に新しい命を吹き込む大人の学び直しスタイルを、大学のプログラムで実践しているわけです。

 学生は学問や知識を就職のためだけのツールにはせず、社会人はいくつになっても学びを継続していくことで、学んだ知識を生き生きとしたものにしていく。そして、学生も社会人も、分野という垣根を越えたリベラルアーツを一生の友にしたいものです。
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
より深い大人の教養が身に付く 『テンミニッツTV』 をオススメします。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,100本以上。 『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

日本経済の行き詰まりをもたらした2つの大きな理由とは

日本経済の行き詰まりをもたらした2つの大きな理由とは

日本企業の弱点と人材不足の克服へ(1)膠着する日本経済の深層

日本経済はこの20~30年行き詰まりの状態にある。理由としては、会社の多角化によって生まれた各事業部の規模が小さすぎることが挙げられる。また、「技術があればいい」というマーケット軽視の姿勢も理由の一つだ。日本と業態...
収録日:2020/10/28
追加日:2020/12/27
西山圭太
東京大学未来ビジョン研究センター客員教授
2

ヒトラーに影響を与えた地政学の父・ラッツェル「生存圏」

ヒトラーに影響を与えた地政学の父・ラッツェル「生存圏」

地政学入門 歴史と理論編(5)地政学理論の先駆者たち

地政学の理論は、歴史的な事象の読み解きを可能にするだけでなく、同時代的な軍事的動向にも影響を与えていた。今回はその先駆的な提唱者として、アルフレッド・マハン、フリードリッヒ・ラッツェル、ハルフォード・マッキンダ...
収録日:2024/03/27
追加日:2024/05/28
小原雅博
東京大学名誉教授
3

人間だけが大人になっても「学び」を持続できる

人間だけが大人になっても「学び」を持続できる

「学びたい」心のための環境づくり

人生を豊かに、充実したものにするために、必要不可欠なスパイスとなるのが「好奇心」であることを否定する人はいないだろう。しかし、この「好奇心」は、進化生物学見地からすると、どのように考えられるのだろうか。行動生態...
収録日:2018/02/14
追加日:2018/05/01
長谷川眞理子
日本芸術文化振興会理事長
4

ノーベル賞受賞「オートファジー」とは?その仕組みに迫る

ノーベル賞受賞「オートファジー」とは?その仕組みに迫る

オートファジー入門~細胞内のリサイクル~(1)細胞と細胞内の入れ替え

2016年ノーベル医学・生理学賞の受賞テーマである「オートファジー」とは何か。私たちの体は無数の細胞でできているが、それが日々、どのようなプロセスで新鮮な状態を保っているかを知る機会は少ない。今シリーズでは、細胞が...
収録日:2023/12/15
追加日:2024/03/17
水島昇
東京大学 大学院医学系研究科・医学部 教授
5

有漏の善根では駄目…「商人日用」に学ぶ商売の心得

有漏の善根では駄目…「商人日用」に学ぶ商売の心得

石田梅岩の心学に学ぶ(8)鈴木正三『万民徳用』を読む(下)

江戸初期の商人は利を求めるのに忙しく、信心と離れた存在だと自らを卑下していたようだ。鈴木正三は『万民徳用』の「商人日用」において、彼らに対し、利益を追求するには「身命を賭して、天道に抛(なげうっ)て、一筋に正直...
収録日:2022/06/28
追加日:2024/05/27
田口佳史
東洋思想研究家