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DATE/ 2019.07.19

大人の学び方とリベラルアーツの必要性

 AIやIT技術、医療、社会制度など、生活に関わるあらゆる面で多くの事象が大変なスピードで変化し、それに伴って価値観も変化する時代です。そうした変化の時代、不確実性の時代に対応するため、あるいはその中にあって揺らぎのない自分ならではの意見や見方を身につけたい。こうした欲求から「大人の学び」やより深く幅広い教養・リベラルアーツを身につけたいという傾向も、強まってきているようです。東京大学の教授陣が、「教養とは何だろうか。教養を身につけるためには何をどう学べばいいのだろうか」という疑問に答えるべく『大人になるためのリベラルアーツ:思考演習12題』(東京大学出版会)をまとめたのも、こうしたニーズを受けてのことといえるでしょう。

大人には大人の学び方がある

 しかし、「大人には、学生時代とは異なる大人ならではの学び方がある」と言うのは、東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授で経済学者の柳川範之氏です。柳川氏が勧める大人の学び方は、まず「休み休み勉強する」ということ。大人には大人の事情、仕事や家庭の事情というものがあり、いざ勉強しようと思っても時間がとれないことがしばしばあります。柳川氏は、「途中で中断してもいい。中断しながらでも、止めずに続けていくことが大事であり自信にもなる」と言います。

 また、知識を覚える、暗記することにこだわらないというのも大人の学びのコツの一つです。今や、ネットを通じてさまざまな知識にたどり着くことができますし、何度でも読み返すことができます。なので、そうした知識を自分の頭に格納することにはこだわらず、むしろ、そのような知識を自分の「知恵」に替えていくことが重要なのです。

 つまり、得た知識は単なる素材や材料であって、そのままではおいしい料理にはなりません。自分なりに素材の特徴を把握したり、組み合わせや調理の仕方を工夫する。要するに、素材である知識を使って、自分なりに考えて掘り下げて、他者に説明できるようにもなる。こうすることで、知識という材料は味わい深い知恵になる。他の人に提供すると「おいしい」と言ってもらえる価値を生む、ということなのです。

異分野を広く学ぶことの意味

 また、こうして自分なりに知識を深めていく際に必要なのが、いろいろな異なる分野の知識を結びつけることだと柳川氏は言います。自分の得意分野や専門分野だけで学びを深めても、それは新しい価値創造には結びつきにくい。いわゆる「専門バカ」になってしまう可能性すらあります。

 狭い分野にこだわるより、一見関係なさそうな分野を学ぶことで、意外な共通項や新たな価値に気がつくかもしれません。そういう意味でも、大人の学びには人文科学・社会科学・自然科学・芸術といった複数の分野に橋をかけるようにして学ぶリベラルアーツが不可欠なのです。

 知識を本やネットの中のだけのものにしておかない。自身の経験と照らし合わせながら、視野を広くもって、学び続ける。これこそが大人の学び方であり、その有効手段としてリベラルアーツ的な知へのアプローチがあるといえるでしょう。

リベラルアーツで一生学ぶ

 より豊かな経験を積んだことを学びに生かす。この大人の学び方を、東京大学では学生にも体得させるべく、後期教養課程というプログラムを導入しているそうです。通常は、大学に入って最初の2年間、1、2年生のうちは教養学部に所属するのですが、この後期教養課程では、3、4年生になってある程度専門の知識を学んでから教養課程の広い分野の科目をとるというものだそうです。つまり、経験を積んだ社会人が、その経験や専門知識にこだわらず幅広い分野の教養に触れて、自らの知の財産に新しい命を吹き込む大人の学び直しスタイルを、大学のプログラムで実践しているわけです。

 学生は学問や知識を就職のためだけのツールにはせず、社会人はいくつになっても学びを継続していくことで、学んだ知識を生き生きとしたものにしていく。そして、学生も社会人も、分野という垣根を越えたリベラルアーツを一生の友にしたいものです。
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