テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
会員登録 テンミニッツTVとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2024.11.01

中国人が困った「日本のマナー」とは?

 旅行や国際的なイベントのために来日する人も多いようです。また労働市場では、より高いスキルや国際的な業務経験を持つ人材を求めて、積極的に海外の人材を採用する場面も増えています。なかでも中国からの来日者数はかなり多いようです。こういった場面で話に挙がってくるのがマナーの違い。今回は、日本人にとってのマナーが中国の人たちにどのように受け取られているのか、少し見てみましょう。

お礼に対する違和感

 国内や海外での総合的なPRを手掛ける株式会社オズマピーアールは在日中国人女性プラットフォーム「一般社団法人美ママ協会」の会員を対象に日本のマナーや習慣に関する調査を行っています。これによると、日本に住む中国人の6割が「初来日時に日本のマナーや習慣に戸惑った」と回答しているそうです。また、「初来日時に日本でのマナーや習慣について人に尋ねたことがあるか」という質問に対して、「あてはまる」「ややあてはまる」と回答した人は合わせて75.7%。同社の分析では、訪日中国人のマナーについて注目が集まる一方で、訪日する側の中国人自身も、日本でのマナーや習慣を気にしているとのこと。

 具体的に、戸惑いのポイントはどういうところなのでしょうか。一つには日本での「お礼文化」に関してのものがあるようです。オズマピーアールの記事では同社で働く二人の中国人へのインタビューが掲載されています。これによると「中国人はおごってもらっても基本的にお礼は言わない」とのこと。日本では建前的なやり取りとして、お礼は必要と考える人が多いと思いますが、実際に日本でのこの習慣を中国でやってしまった時「せっかく食事をして距離が縮まったと思ったのにと怒られたことがある」そうです。中国での人間関係では「距離の近さ」が重要ということのようです。たしかに、日本人でもこの感覚の方が、気持ちが楽という人もいるかもしれません。ここはなかなか面白い感覚の違いです。

人前で怒られることの違和感

 名刺を渡す際などに自己紹介することがあると思います。日本では、まず組織があってそこに所属している一人です、という名乗り方をするでしょう。これに対して中国でのビジネスマンは、まず人が先に立つということのようです。中国では自分が会社に力を貸している、という考え方があるようです。また、中国人は面子を大事にするので、ミスをした社員をみんなの前で上司が叱ることはないとのこと。中国では同僚の目を避け、個室に呼び出して注意するそうです。

 このあたりもかなり大きなギャップとなりそうです。インタビューによると、「面子を潰された」ということは、そのまま会社を辞める理由になるとのこと。それだけ中国人は自分があってこそ、という意識が強いと言えるでしょう。これに対して日本では、自分の主張はあっても、これを通そうと思ったら、自分の主張をどれだけ抑えながらうまく立ち振る舞うかということが大事になります。うまく立ち振る舞うことのうちには根回しが大事になってきたりするので、面倒ではあります。

「空気を読む」は必要か

 マナーとは、相手を不快にさせないための作法、と言ってもいいでしょう。ですが、こういった作法はその個人の所属している文化によって変化します。だからこそこういったマナーはズレがあって当然と言えます。日本人はよく「空気を読む」と言います。これは、さまざまな情報をまとめて状況を察し、配慮して言葉や振る舞いを選べ、ということかと思われます。日本でのマナーは、この「空気を読む」ことと強く関係しています。

 同じものを見て、同じような経験をしてきた人間であれば、自ずと相手の思考や心情を察知できます。つまり、「空気を読む」ことも可能でしょう。このような強い同質性がこれまでの日本の特徴でした。しかしこの先の少子化社会では、旧来の日本の文化的背景を持って生まれ育つ人間の数は減少します。日本がいつまでもこの同質性を維持することに腐心していれば、外側からの理解を得ることはより難しくなります。それよりも、どうすればより他者に明確に自分の意思や意図を伝えられるか、という発想でその方法を磨くほうが、この先の社会では有効な能力になるのではないでしょうか。外国人のマナーを知ることは、その人たちが何を大事にしているのかを知ることです。これは他者とつながるための第一歩かも知れません。

<参考サイト>
・【中国人が困る日本のマナーや習慣に関する調査】|OZMAPR
https://ozma.co.jp/globalcommunication/news-20190722/
・外国人が日本で働くために必要なスキルと手続ガイド|To Creator
https://www.dsp.co.jp/tocreator/all/career-all/foreign-workers/
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
物知りもいいけど知的な教養人も“あり”だと思います。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

胆のう結石、胆のうポリープ…胆のうの仕組みと治療の実際

胆のう結石、胆のうポリープ…胆のうの仕組みと治療の実際

胆のうの病気~続・がんと治療の基礎知識(1)胆のうの役割と胆石治療

消化にとって重要な臓器「胆のう」。この胆のうにはどのような仕組みがあり、どのような病気になる可能性があるのだろうか。その機能、役割についてあまり知る機会のない胆のう。「サイレントストーン」とも呼ばれる、見つけづ...
収録日:2024/07/19
追加日:2025/07/14
糸井隆夫
東京医科大学病院 消化器内科 主任教授
2

青春期は脳のお試し期間!?社会的ニッチェと信頼の形成へ

青春期は脳のお試し期間!?社会的ニッチェと信頼の形成へ

今どきの若者たちのからだ、心、社会(2)思春期の成長、青春の脳

思春期にからだが急激に成長することを「思春期のスパート」と呼ぶ。先行して大きくなった脳にからだを追いつかせるための戦略である。脳はそれ以上大きくならないが、脳内の配線が変化する。そうした青春期の脳の実態を知るた...
収録日:2024/11/27
追加日:2025/07/12
長谷川眞理子
日本芸術文化振興会理事長
3

イエスも法華経のアバター?「全世界救済」の具体像を示す

イエスも法華経のアバター?「全世界救済」の具体像を示す

おもしろき『法華経』の世界(7)真の救済に向かう

『法華経』の原題は「サッダルマ・プンダリーカ・スートラ」といい「白蓮の正しい教え」を表す。想像を超えた長い年月、無数のアバターを通して『法華経』が目指すのは真の救済である。それゆえキリスト教のイエスも「久遠実成...
収録日:2025/01/27
追加日:2025/07/13
鎌田東二
京都大学名誉教授
4

アベノマスク、ワクチン調達の決算は?驚きの会計検査結果

アベノマスク、ワクチン調達の決算は?驚きの会計検査結果

会計検査から見えてくる日本政治の実態(1)コロナ禍の会計検査

日本の財政をくまなく検査し、その収入と支出を把握する会計検査院。日本のメディア報道などでは、予算の決定や補助金などの政策決定については詳しく報じられるが、それがどのように実際に使われたかは、ほとんど言及がない。...
収録日:2025/04/14
追加日:2025/07/11
田中弥生
東京大学客員教授
5

信用創造・預金創造とは?社会でお金が流通する仕組み

信用創造・預金創造とは?社会でお金が流通する仕組み

お金の回し方…日本の死蔵マネー活用法(1)銀行がお金を生む仕組み

日本経済が低迷する原因は何か。大きなポイントとして「お金が回っておらず、死蔵されてしまっていること」が挙げられる。そもそも、お金が市中にどのように流通し、どのような役割を果たしていくのかを理解しなければ、経済を...
収録日:2024/12/04
追加日:2025/02/22
養田功一郎
元三井住友DSアセットマネジメント執行役員